「非利き手自画像」子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア#2

連載
自治的な学級をつくる12か月のアイデア

宮城県公立小学校教諭

鈴木優太
「子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア」バナー 執筆:鈴木優太

自ら考え、活動したり学習したりする子供たちの可能性は無限大。そうした子供の内に秘めている可能性を引き出すための「学級経営&授業アイデア」を紹介する連載です。『教室ギア56』(東洋館出版社)などの著書をもつ鈴木優太先生が、学級活動、教室環境、授業アイデアなどの中から、毎月1本厳選して解説します。第2回は、「非利き手自画像」の実践を取り上げます。

執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太

バイアスを取り除こう

今しか描けない自分の姿は、事あるごとに何度描いてもよいものです。美術界の巨匠たちがそうだったようにです。

普通に自画像を描くのもよいものですが、「非利き手自画像」にチャレンジしてみましょう。

利き手ではない非利き手は思うように動きません。だからこそ、自分の顔をよく観察して丁寧に描こうとします。「自分と向き合う」ことがねらいの実践です。利き手だと、経験や慣れによるバイアスから、対象物をよく観察しないでさらさら描いてしまうことが多いです。非利き手の違和感が、このようなバイアスを取り除きます。そのため、漫画風の絵にもならないのです。

「非利き手自画像」に取り組む子供。自画像の7割方が完成している様子
「非利き手自画像」の目的は、自分と向き合うこと。自由に動きづらい非利き手で行うからこそ、よく観察し丁寧に描こうとする。

【準備する物】
・コンテ(茶色のクレヨン)
・画用紙
・鏡

コンテは、粘土と黒鉛を混ぜて高温で焼き固めた絵を描くための画材です。こげ茶色を私は愛用しています。茶色のクレヨンで代替することもできますが、濃淡やぼかしによる独特の味わい深いタッチは唯一無二です。チョークのような感じで、折って使うこともできるため、教室に1箱あるといろいろな場面で活用できてオススメです。図工室に眠っているかもしれません。

「非利き手自画像」に取り組む子供。左手でコンテを持って、書き始める。
何度もこの実践を行いブラッシュアップしてきた鈴木先生のオススメは、コンテで描くことと鏡を使用すること。

鏡の使用を推奨します。自分の顔をいろいろな角度から何度も何度も観察します。1人1台端末のカメラ機能を鏡代わりに用いることも手軽です。自撮りした静止画を見ながらのほうが描きやすいでしょう。しかし、ぜひ、鏡を使用してチャレンジしてください。上手に描くことよりも、「自分と向き合う」ことにねらいを置いた実践だからです。鏡をこんなにじっくり見たこと自体が初めて、という子もいます。照れくさそうにしながらも、描き終えると、ひと皮むけた子供たちと出会えるはずです。

「非利き手自画像」は鼻の穴から描き始めよう

まずは、鼻の穴をじっくり見てみましょう。鼻の穴の形は真ん丸ではありません。三角やハート型のような人もいます。

ほんとだ、三角っぽい

私の鼻の穴は、まが玉みたいな形になっている。

1人として同じではないことを話し、まずは鏡で自分の鼻の穴の形をよく観察します。

では、利き手でピースサインをつくりましょう。人指し指と中指をくっつけて画用紙のど真ん中に置きます。爪の大きさと同じぐらいの鼻の穴を、非利き手で持ったコンテで最初に描きます。

この指示一つで、自画像が小さくなり過ぎません。そうは言っても、鼻の穴が小さくなってしまう子もいるでしょう。大丈夫です。塗り潰して爪ぐらいの大きさに修正することができます。

非利き手自画像で最初に鼻の穴を描く様子
最初に鼻の穴を描くのがポイント。利き手の人指し指と中指をくっつけて画用紙のど真ん中に置き、爪の大きさくらいに鼻の穴を描く。

利き手じゃないから難しいな。

ちょっと恥ずかしいけど、おもしろいかも。

次に、小鼻です。優しく触ってみましょう。目のほうまでつながっていますよね。戻ってくると、ほら、ここが鼻のてっぺんです。利き手じゃないからうまく描けなくて当たり前! という大胆な気持ちと、かたつむりが進むぐらいのスピードで丁寧に描いていくと、今しか描けない味のあるすてきな自画像になりますよ。

かたつむり、かたつむり。

いいね、いいね、その調子。

なんか変だけど…利き手じゃないから、まっいっか。

うわぁ、すてき。

初めて自画像を描く場合は、このように描き方を教師がガイドするとよいでしょう。教師も黒板に貼ったひと回り大きな画用紙や模造紙に、「非利き手自画像」を描きながら進めます。モデルになるようにうまく描かなければいけないなんて思う必要はありません。利き手じゃない手が思うように動かないおもしろさを、先生方も子供たちと一緒に楽しみましょう。自画像の描き方の指導も大切ではありますが、子供たちが自己開示できるような「ムードづくり」が特に大切だと私は考えます。

鼻の下を描きます。ほら、鼻の下に2本線があるでしょ? 触ってみましょう。

えっ、ほんとだ。鼻の下に線があったんだ。

ちょっと、コンテが付いてちょびひげみたいになってるよ!(笑)

先生もちょびひげになってますよ!(笑)

わっ、ほんとだ!(笑)

…この後は、口、ほうれい線、目、まつ毛、まゆ毛、輪郭、耳、髪の毛、瞳…と順番に描いていきます。口を大きく開けたり、舌を出したり、瞳を上と下に向けたりするのも、表情が豊かになって楽しいです。しっとりと描くのもよいのですが、このようにすると異様に盛り上がります。ワイワイと楽しげなムードながらも、自分と向き合うことを促し、描き進めていきます。

自画像の描き方は、大河内義雄『「ツルリ」とした顔よ、さようなら:酒井式描画指導法の追試』(明治図書出版)の「変態マスク」の実践を参考にしています。

鈴木学級の子供たちが描いた「非利き手自画像」の作品
鈴木学級の子供たち(2年生)が描いた「非利き手自画像」の作品。

対象物を集中して観察して描くこと、そして何より自分自身と向き合うことのおもしろさを実感してほしいのです。わずか45分間でこれらを体感できる実践です。例えば、季節ごとに描いた「非利き手自画像」の変遷を見比べると、今この時しか描けない自分ならではの「味」を一層実感できるでしょう。うまい下手を超越する、「自分らしさ」を大切にできるきっかけとなれば幸いです。

友達同士で作品を比べ合ったり、感想を伝え合ったりしながら、交流することも大切な学びだ。
友達同士で作品を比べ合ったり、感想を伝え合ったりしながら、交流することも大切な学びだ。

「非利き手〇〇」の実践で秘めた可能性を引き出す

非利き手と脳との関係が研究され続けています。非利き手を積極的に使うことは、どうやら自分の脳や身体によい効果をもたらすようです。

「非利き手漢字練習」を行うと、あえて違和感のある非利き手を使う劇的な体験を通して、一画一画を丁寧に書く意識と行動に実感をもてます。

「非利き手ドッジボール」は、得意な子と苦手な子の差が気になりません。笑い合いながら楽しい時間を共有できるだけではなく、何と、非利き手で投げた後は利き手側で投げる距離も伸びるという驚きの研究結果も報告されています。意図的に非利き手を使うことが、利き手の能力の向上にも繋がるというのです。

脳は言語を司る左脳と、非言語を司る右脳に分かれています。右手を使うと左脳が、左手を使うと右脳が活性化すると言われています。両方の手を均等に使うのが理想のようですが、両利きという人は稀です。約90%の人が右利き、約10%の人が左利きと言われており、意図しないと非利き手を使う機会はあまりありません。別名「ひらめき脳」とも言われる右脳の力を、私たちはもっと上手に使いこなしていくべきです。

「非利き手食事」や「非利き手歯磨き」は、毎日の生活の中で手軽に継続できます。非利き手を使ってみるだけで、自分も知らなかった新しい自分の扉を開けることにつながるかもしれません。そんな話を子供たちにもしながら、「あそび心」を大切に、取り組んでみてください。


鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア56』『教室ギア55』(共に東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。

参照/鈴木優太『教室ギア56』(東洋館出版社)、鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク』(明治図書出版)

【鈴木優太先生 連載】
自治的な学級をつくる12か月のアイデア(全12回)
子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)

【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア56(東洋館出版社)
教室ギア55(東洋館出版社)
「日常アレンジ」大全(明治図書出版)
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク(明治図書出版)

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