小1生活「どきどき わくわく 1年生(スタートカリキュラム)」指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修による、小1生活科の授業案です。1人1台端末を活用した活動のアイデアも紹介します。今回は「どきどき わくわく 1年生(スタートカリキュラム)」の単元を扱います。
執筆/高知県公立小学校教諭・松井理絵
編集委員/文部科学省教科調査官・齋藤博伸
高知県公立小学校校長・尾中映里
目次
年間指導計画
4月 | どきどき わくわく 1ねんせい(スタートカリキュラム) |
5月 | がっこう だいすき |
6月 | きれいに さいてね |
7月 | なつが やって きた |
8月 | いきものと なかよし |
9月 | あきを さがそう |
10月 | あきの おもちゃを つくろう |
11月 | あきまつりを しよう |
12月 | じぶんで できるよ |
1月 | ふゆを たのしもう |
2月 | しん1ねんせいに がっこうの ことを つたえよう |
3月 | もうすぐ 2ねんせい |
単元目標
幼児期の経験を生かしながら、学校の施設や先生、友達などに関心や親しみをもって関わる活動を通して、学校生活を支えている人々や友達のよさに気付き、楽しく安心して生活をしようとする。
本単元と関わりの深い幼児期の経験
- あいさつをすることで、自分も相手もよい気持ちになる経験。
- 読み聞かせを聞き、たくさんの絵本に出合い、物語の世界を楽しむなどの経験。
- 登園後の朝の会では、欠席調べや1日の流れを確認し、見通しをもってワクワクするなどの気持ちで生活をスタートする経験。
- 様々な遊びを通して、身近なものに興味をもって関わったり、好きな遊びを見付けて遊んだりする経験。
- 小学生などと関わり触れ合う中で、自分の名前を紹介し出会いを喜び、自分の思いを伝えながらやりとりを楽しむ経験。
- 異年齢の友達や地域の方と関わりを深める活動を通して、楽しく安心して遊びや生活ができる経験。
- 時計の針や数字を頼りに、時間を意識して遊んだり生活したりする経験。
- 自分のすきなものや友達に伝えたいことについて、絵や工作などを通して、自由に表現することを楽しむ経験。
学習の流れ(全8時間/生活科6時間+国語科1.5時間+音楽科0.5時間)
1年生になってどんなことをやってみたい?
新しい友達をいっぱいつくりたいな。
学校の中にはどんなものがあるのかな。
お兄ちゃんの教室は2階にあると、お兄ちゃんから聞いたよ。
【小単元1】にっこりタイムで仲よくなろう (授業時数以外の教育活動)
「にっこりタイム」は、子供一人一人が安心感をもち、新しい人間関係を築いていくことを目指した時間です。登校後~朝の会の時間と1時間目を含めた時間(授業時数以外の教育活動)となります。
①今日は何をしようかな
登校後、朝の支度が終わったら、園での経験を生かして、自分がしたい遊びを自分で選んで遊びます。
毎日、にっこりタイムを設定することで、登校後の活動の見通しをもつことができます。子供が園で経験してきた生活様式や遊びをうまく取り入れ、小学校という新たな環境の中で、進んで自分らしさを表出し、自分のもっている力を働かせるようになります。
●健康な心と体
1日の生活を見通して、準備や片付けをしながら園と同じところや違うところに気付き、生活しようとしています。
●自立心
登校後、朝の支度をする中で、しなければならないことを自覚し、学習の準備をしたり連絡帳を提出したりするなど、自分でできることを自分でします。
子供は絵を描いたり、画用紙を切って遊んだりします。そのためにも、事前に教室の後方のスペースやワークスペースにブルーシートを敷き、裏紙やカラーペン、色画用紙やはさみ等を準備しておきます。園の生活で使っていた道具や材料を準備するとよいでしょう。
●豊かな感性と表現
感性を働かせる中で、自由に描いたり作ったりしながら、友達と遊ぶ楽しさに気付き、自分の思いを表現します。
子供はけん玉、折り紙やコマを自由に使って遊んでもよいことが分かると、得意なものや友達同士で遊びます。子供が得意な遊びコーナーを準備しておきます。
●自立心
にっこりタイムで様々な遊びを楽しむ中で、けん玉、折り紙、コマ回しがうまくなりたいと願い、すぐにできないことにも、自分なりの目標をもってチャレンジし続け、粘り強く取り組んでいます。
●言葉による伝え合い
友達と一緒に折り紙やコマ遊びをして心を通わせる中で、折り方やコマの回し方を言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりして、言葉による伝え合いを楽しんでいます。
子供は自分の好きな本を読んだり、伝え合ったりします。そこで、学級文庫や学年共有スペースに、園で親しんだ絵本や図鑑を用意するとよいでしょう。朝の会で読み聞かせた本も、子供が手に取りやすいように置くとよいでしょう。
●言葉による伝え合い
絵本を読むことを通して、「見て見て」「へえ、おもしろいね」と、お互いの本の面白さを伝え合いながら、絵本の面白さに気付き、もっと本を読もうとします。
子供は読み札を読む役割を分担したり、お手付きしたら1回休みなどのルールを決めたりしながら、カルタで遊びます。就学前に園で慣れ親しんでいたカルタを準備しておきましょう。
●数量や図形、標識や文字等への関心・感覚
カルタ遊びの中で、読み札を読んだり、取り札を探したりする体験を重ねたりしながら、文字の読み方に気付いたり、たくさん取りたい気持ちから、自ら文字を読んだりするなどの興味や関心、感覚をもっています。また、カルタの枚数を数えるなどします。
にっこりタイム終了時に、子供自身で片付けをします。にっこりタイムで使った道具や材料の絵や写真を用いて、片付ける場所や片付け方を分かりやすく示しておくとスムーズです。友達と協力して片付ける姿が見られたときは、大いにほめて認め、自信につなげましょう。
●道徳性・規範意識の芽生え
友達と遊んだ道具や材料を片付けることを通して、遊びたい気持ちを調整し、片付けをすると明日もまた楽しく遊べることに気付き、きまりを作ったり守ったりします。
入学直後は特に、就学前の経験を十分に生かし、また、子供が就学前にできるだけ近い環境で安心して楽しく過ごすことができるよう、配慮することが大切です。
子供が園でどのような遊びに慣れ親しんでいたかは、園の先生に事前にアンケートなどを行って把握しておくとよいでしょう。また、可能であれば園に行き、子供が実際にどのような環境の中で遊んでいたかを知ることも大切です。園の先生方に環境構成についても意見交換しながら、遊びコーナーを一緒に作ることができればよいでしょう。各コーナーは教室内に設定することが一般的ですが、各校の現状に合わせて、教室前のオープンスペースや特別教室を活用することもできるでしょう。
にっこりタイムには、各コーナーで教師(管理職や1年生以外の先生)が見守るようにします。この段階では1人で遊ぶことを好む子供もいますが、遊びを通して、友達や教師と関わる中で、人間関係を自然に築いていきます。何をしたらよいか分からない子供や、上手く仲間に入ることができない子供には、各コーナーの教師が一人一人の状況を見取って声をかけるなどの支援をすることで、より安心して学校生活を送ることができます。
②友達よろしくね(健康観察の工夫)
手拍子に合わせて「〇〇さん」「はい、元気です!」と、楽しく健康調べをしたり、歌を歌いながら友達とスキンシップをとったり、園の時のように教師の近くに集まって読み聞かせを聞いたりします。
このような時間を1時間目に設定することで、子供はリラックスして1日をスタートすることができます。また、新しい人間関係を築くためにはこのような場面をつくることが大切です。
③新しい友達となかよくなりたいな(自己紹介の工夫)
入学後、数日経つと子供は「まだみんなの名前を覚えていないよ」「ぼくと同じようにサッカーが好きな人はいないかな」と友達への興味・関心が広がってきます。
そこで、「みんなと仲よくなりたい」という子供の思いを生かし、ペアで自己紹介をする活動を行います。「友達に自分の名前がきちんと伝わるようにするにはどうしたらいいのかな?」という教師の言葉がけに、「友達の方を向いて話すといいよ」「声は大きい方がいいね」「小さい声も一生懸命聞けば聞こえるよ」と次々に子供から意見が出てきます。
ペアで自己紹介を繰り返すうちに、子供は「友達の名前を忘れないようにしたいな」「早く覚えたいよ」などと思ったり、つぶやいたりします。
このことを黒板に簡単な言葉とイラストで示し、練習しやすいようにします。その後、「今日言うのは名前だけでいいかな?」と教師が問いかけると、子供は「好きな食べ物を知りたいな」「得意なことが聞きたいな」「好きな動物は何かな」など、友達に聞きたいことについて発言します。そこで、話したい子供は自分の名前だけでなく、話したいことを付け加えて話すように言葉がけをします。
●言葉による伝え合い
自己紹介を通して、友達に自分の名前や好きなことなどを知らせながら、友達のよさに気付き、分かりやすく話したり一生懸命に聞いたりすることを楽しみます。
④名刺を交換しよう
名刺カードを作って交換しながら自己紹介をします。カードには自分の名前を書き、空いたスペースには自分の好きなことを描くようにします。カードがなくなる頃には「もっと作りたい」「もっと交換したい」と、自己紹介が楽しくなってきます。
また、名刺交換を繰り返すことで、どの子も徐々に自信をもって自己紹介ができるようになり、相手が代わっても安心して取り組むことができ、友達の名前もどんどん覚えることができます。
⑤学年の友達や先生となかよくなろう
子供は、学級の友達と仲良くなると、「他のクラスの友達や先生とも仲よくなりたい」という思いをもち始めます。そこで、体育館やオープンスペースなどの広い場所で活動を行います。「よろしくね」という言葉とともに握手をしたりハイタッチをしたりするのもよいでしょう。
自己紹介をした後は、もっと仲よくなるために、「じゃんけん列車」のような簡単な運動遊び等をすると、友達が増えることや大勢で遊ぶことの楽しさを感じることができます。
教師は子供が行っていた自己紹介に、少し言葉を加えたり、内容を変えたり、質問をし合ったりすることができるように、子供同士の会話が広がる言葉がけをします。
小単元2 わくわく 探検隊(生活科6時間+国語科1.5時間+音楽科0.5時間)
①学校探検したいな
園よりも広くなった学校施設に期待を膨らませる子供。玄関から教室までの間を歩いただけでも、気になる教室や場所などを発見します。それらの発見を伝え合う中で、「わたしも見てみたいな」「本当かな、確かめたいな」という気持ちが自然に芽生えてきます。「楽器がいっぱいある部屋があるよ」「絵本がたくさんある部屋もあったよ」と、就学前の交流会や1日入学で上級生に学校を案内してもらったときの体験を話すこともあります。このように、導入の時間では、子供が素直な思いや希望、経験等についてたくさん出し合います。
このときの疑問や行きたい場所については、短冊に書いておき、子供が探検の見通しがつくように掲示しておきます。探究する場所は、担任が決めるのではなく、「今日はどこに行こうか」「教室の隣の図書室はどうかな」「近くなら迷子にならないね」と短冊を見ながら、子供と話し合って決めます。
「いつ帰ってきたらいいのかな」など、探検の際の約束に関わる話題が子供から出された場合は、その場で話し合い、板書をしておきます。「走らずに歩いて探検しよう」「お話はことりさんの声でするといいよ」などの約束を確認しましょう。
●社会生活との関わり
学級で話すことを通して、園と学校を比べながら、その違いに気付き、自分の経験や知っていることを探検に取り入れたり、学校と自分との関わりに生かそうとしたりします。
②探検に行こう
約束を確認後、いよいよ初めての探検に出発します。「入ってもいいですか」「さわってもいいですか」と言いながら探検する姿などが見られた時は、その場で価値付け、広げていくようにします。
探検後は発見や疑問について自由に出し合い、話し合います。
子供ができたことや見つけたことを教師がほめたり認めたりすることで、子供は「分かったことや ”はてな” は、みんなに伝えていいんだな」ということが分かり、安心感をもちます。また、子供は「友達がわたしの発見をすごいって言ってくれた」という経験が自信につながっていきます。
子供が本当に行きたい場所へ行き、見たいものを見て、聞きたいことを聞くことができるようにするためには、全教職員や上級生の協力が必要です。事前に了承を得て、協力をお願いしておきましょう。
●協同性
学校探検を通して、お互いの思いを伝え合いながら、友達の思いや考えに気付き、それを生かそうとしたり、協力したりし、充実感をもってやり遂げます。
●道徳性・規範意識の芽生え
学校探検を重ねる中で、学校の様々な人・もの・ことと関わりながら、してよいことと悪いことに気付き、自分の行動を振り返って行動しようとします。
③もっと探検したいな
子供は興味・関心に沿って学校を探検します。例えば、3年生が音楽の授業中、打楽器で演奏しているのを見つけたことから自分もやってみたいと思います。このことから、打楽器を使ってリズムのまねっこ遊びをするなどの活動に発展します。
音楽室の探検の際、事前に3年生に授業を見学させてほしいとお願いをしておくと、3年生は鍵盤ハーモニカを聞かせてくれたり、練習を始めたばかりのリコーダーを演奏してくれたりします。また、3年生は1年生一人一人にひらがなで書いた校歌の歌詞カードをプレゼントしてくれて、1年生とペアになって校歌を教えてくれます。
このようにして、探険の中に人間関係を広げる工夫を仕組んでみましょう。
●思考力の芽生え
学校で働く人や場所などに積極的に関わる中で、施設の様子や役割などに気付き、場所、道具、学校生活を支えてくれている人について考えたり、予想したりするなど、多様な関わりを楽しみます。
④探検報告会をしよう
これまでの探検を振り返って、みんなで発見したことや驚いたことを伝え合います。その際は、探検で発見したことに加え、兄姉に聞いてきたことや、休み時間に自分で調べてきたことなど、自分の発見を自分なりに表現します。
「家庭科室にはお鍋があったよ」「まな板もあったね」「この扉は鍵がかかっていたよ」「何が入っているのかな」など、発見したことや分かったこと、疑問について伝え合います。
自分なりにする表現活動では、まだ字が書けない子もいるため、教師が聞き書きをしたり、画用紙に絵を描いたり、ICT端末を用いて撮ってきた写真を使ったりして、様々な方法で表現できるようにします。また、書画カメラで子供の絵を大きく提示します。その近くに子供を集めて話し合うなど、環境設定も工夫しましょう。
教師は子供の発見や驚きに共感しながら、探検報告会を子供と一緒に楽しみます。このようにして、子供は自分たちの探検が認められたと感じるようになり、もっと伝えたいという思いや、もっと知りたいという思いが高まります。
●言葉による伝え合い
探検報告会の中で、話したり聞いたりしながら、自分の発見や驚きを友達や先生に言葉で伝えたり、友達の話を理解するために一生懸命聞いたりしようとし、言葉による伝え合いを楽しみます。
⑤探検マップを作ろう
どの教室や場所でどのようなことが分かったのか、また疑問や知りたいことを整理するために、探検マップを作ります。探検マップに子供の発見を言葉や絵でかき込んでいくと、探検の足跡が分かりやすく示され、次の活動へとつながります。「3階にはまだ行っていないね」「プールはどこにあるのかな」「裏庭には何があるの」「家庭科室の鍵がかかっている扉の中を確かめたいな」と、探検マップを使って話し合うことで、学習の成果や見通しをもちながら進めることができます。
探検を重ねるたびに学校の中のことが分かるようになり、行動範囲も広がっていきます。いろいろなところを探検したい子、気になる場所でじっくり探検したい子、詳しく話を聞きたい子…、探検の目的も様々です。
全教職員の理解と協力の下、安心して行ける場所や、関われる人が増えていくことは、子供が生き生きと自己発揮していくことにつながっていきます。
●数量や図形、標識や文字等への関心・感覚
探検マップを見ながら探検することを通して、学校には様々な教室や表示があることや、まだ探検していないこところに気付き、文字や表示に興味や関心をもちます。また、教室の数や階段の段数などを数えます。
評価規準(生活科)
知識・技能:学校の施設の位置や使い方に気付いている。
思考・判断・表現:園で使っていた施設との共通点や違いを探しながら学校の中を探検している。
主体的に学習に取り組む態度:友達と学校生活を過ごすことの楽しさを実感し、一緒に遊びや学習をしていこうとしている。
1人1台端末活用のポイント
探検の途中でICT端末を活用して写真を撮っておくと、振り返りでの共有の際、発見したことや不思議に思ったことが伝わりやすいです。絵で描くよりも時間的に余裕ができ、説明の機会を多く取ることができるため、語彙を増やすことにもつながります。
参考資料/
・『育ちと学びを豊かにつなぐ 小学1年 スタートカキュラム&活動アイデア』監修/嶋野道弘・田村学 著/松村英治・寳來生志子(明治図書出版)
・『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿』編著/無藤隆(東洋館出版社)
・『子どもたちの学びをつなぐアプローチカリキュラム、スタートカリキュラム事例集』(高知市教育委員会)
・『あたらしいせいかつ上 教師用指導書 朱書編』(東京書籍)
イラスト/高橋正輝