理科の「見方・考え方」が働く板書デザイン 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
理科の壺 理科の「見方・考え方」が働く板書デザイン

「問題をつくった時点で見方は含まれている」とよく言われます。問題解決の最後まで、子どもたちは、この見方をもち、追究してほしいものですね。ただ、理科の授業研究においては、「見方とは何か?」という話は多く持ち上がるものの、子どもたちに対して「どのようにすれば見方が働くようにできるか」という、教師の働きかけは抜けているように思います。
今回は、見方を働かせる教師の手立てとして、板書を使って何に注目させることが効果的なのかをご紹介していきます。見方や考え方は教師自身がどれだけ意識したかで変わります。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/大阪府公立小学校主務教諭・近藤聖也
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

「見方・考え方」が大切だとよく聞くけれど、子どもたちが理科の「見方・考え方」を自在に働かせるためには、どういうことを考えれば良いのでしょう。「見方・考え方」を働かせるのは子どもですが、先生が「見方・考え方」が働くように意識して授業していくことが大切です。
そのために是非、板書を意識してみてください。先生のちょっとした板書のデザインによって、子どもたちが自然と少しずつ「見方・考え方」を働かせられるようになってきます。とても大切な経験です。
また授業終わりに板書を見直すことで、今日の授業は「見方・考え方」が働くような授業デザインになっていたかどうか、先生自身のリフレクションにもなるので、ぜひ活用してみてください。

1「見方」を通して見る世界

皆さんは、板書するときにどんなことを考えていますか? 私は「目には見えていないもののうち、何を見えるようにすれば子どもの考えを深めていけるか?」と考えながら黒板を使うことが大切だと考えています。
電気、水蒸気、エネルギー、時間、地面の中や水の溶けた塩など、理科では目には見えないものを対象にした学びがたくさんあります。この目には見えないものをまずどう見るか、という視点が「見方」です。「見方」を通して世界を見ることで、見えない世界が見えてくるのです。

2 板書を通して「見方・考え方」を働かせてみよう

では、どう考えれば理科の「見方」を通して世界を見ることができるのでしょうか。まずは、それぞれの領域で大切にされている「見方」を確認してみてください。そして、板書の中で子どもがその「見方」を働くようにデザインしていくのです。

今回は4年「水のゆくえ」の「水は自然に蒸発するのか?」の問題の見いだしの場面で考えてみましょう。地球領域なので主として「時間的・空間的」な視点が働くようにデザインしていきます。下の図を使うことで、どんな「見方・考え方」が隠れているのか見えてくると思います。「何と」「何が」が「質的・実体的」な視点になります。そして、状態変化のプロセスではどれくらいの時間と空間でという「時間的・空間的」な視点が隠れていますね。また、水はエネルギーと出合うことで水蒸気になるという性質も見えてきます。あとはこれを板書で、見えるように形作っていくだけです。

4年「水のゆくえ」 図1
4年「水のゆくえ」 図2

今回の学習では、「水と太陽エネルギーが出合うことで水は蒸発したのだろうか」という問いを見出していきます。板書を見てください。

板書「蒸発したのだろうか」

まず、子どもたちと一緒に観察しに行ったときの写真①を提示してから写真②を提示します。この2つがあることで、時間的な視点で事象を見ていくことができます。そして、写真①と写真②の間で何が起きたのかについてイメージ図を使いながら考えていきます。その時に、必要な空間は地面の下と上の空間になります。そこで今回は断面図にしてみます。

写真では平面的にしか捉えることができませんが、断面図にすることで子どもたちは空間の広さの目で自然と地面の下への染み込みや空気中へ逃げていく様子のイメージを「空間の目」と「時間の目」で見てしまいます。運動場の上下の空間の広さの目と、朝9時~昼3時の6時間の時間変化の目です。これで、時間的・空間的な視点を自然と働かせられる板書ができていきます。そして、問いの見いだしの場面での「考え方」である「比較」が働くように、素材が金属の写真③、④を素材が土の写真①、②の下に並べることで、地面の土と朝礼台の金属で起きた事象を自然と比較していくことになります。

少しレベルを上げると、今回の単元は、水の三態変化とも深く関わる単元ですので、粒子領域の主とした見方である「質的・実体的な視点」も入れてみることができます。それが写真①、③と写真②、④の間に描く水のイメージ図です。水の粒や水蒸気の粒をイメージ図にすることで、水をそこにあるもの、何かで変化するものとして実体的に捉え、見えないけれど空気中にあると考えるのか、消えていくと考えているのか、水を水蒸気に変えている犯人は太陽のエネルギーなのかを表現していくことができるのです。この様々な表現の違いが、子ども同士の思考の違いを見えるようにし、事象をどう捉えているのかの多様性を生み出すエッセンスになります。また、空気中から水蒸気を取り出す次の実験につながる思考にもなっていきます。

3 忙しいときの振り返りにも!

板書を使って「見方・考え方」が働くようなデザインにしていくことは、事前準備だけでなく、授業後の振り返りでも役に立ちます。発問のように声として流れ消えてしまうものをゆっくりと吟味することは日々の実践では難しいですが、板書であれば授業準備ができなかった日でも「見方・考え方」の視点を使った振り返りをすることで、実践を深めていくことができます。今日の板書には、どの「見方・考え方」が働いていますか? ぜひ日々の授業に取り入れてみてください。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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近藤聖也主任教諭

<執筆者プロフィール>
近藤聖也●こんどう・せいや 大阪市立本田小学校主務教諭。大阪市小学校教育研究会理科部員。自己調整学習におけるメタ認知を中心に日々実践研究を行う。著書は、「子どもがもつ見方・考え方を土台とする授業デザイン─質的・実体的な視点を働かせるための授業展開─」(理科の教育2020年10月号)、「共通点や差異点を基に、問題を見いだす力」を育成する 第四学年「雨水の行方と地面の様子」における取組」(初等教育資料2022年9月号)「自分の考えを検討・改善するための授業デザイン─自分の考えを可視化し、メタ認知を働かせることを通して─」(理科の教育2023年4月)など。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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