「昔はこうだった」はNG中のNG|校長なら押さえておきたい12のメソッド #1
新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第1回のメソッドは、若手教員との向き合い方についての原則「昔はこうだったはNG中のNG」です。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
「最近の若者はけしからん。わしが若いころには……」(古代エジプトの壁画より)
「今度の新任はなっとらん。ジーパンなんか履いて教壇に立つなんて、わしらの時代じゃ考えられへん。新人類とか言われている奴のことはよくわからへんわ」と、三十数年前に言われていた若手教師も、今や立派な管理職。
歴史は繰り返す……とは、よく言ったもので、昔お世話になった管理職と同じような愚痴を現在こぼしてはいませんか?
「Z世代とか言われている奴のことはよく分からへんわ」と……。
ただ、分からないからと言って、放置しておくことはできません。最近は、職場にも若い先生が多くなっています。このZ世代教師が戦力にならないと、学校運営に大きな支障が生じるのは、火を見るより明らかです。いや学校運営に気をもむ以前に、Z世代教員がつぶれてしまえば、何よりも担任されているクラスの子供たちがかわいそうです。Z世代教師が子供たちと楽しく学校生活を送れるようにすることは、管理職の重要なミッションの一つなのです。
そもそもZ世代って?
Z世代とは、1990年代半ば~2010年代序盤に生まれた世代のことを言います。新卒採用の先生方がまさにこのZ世代です。ちなみに、かつて新人類だった管理職にとってなじみが深い「Z」であるマジンガーZは1972年生まれです。同じZでも20~30年ほどの時間差があるということです。Z世代が生まれた1990年代半ば~2010年代序盤と言えば、インターネットが急激に普及して、アナログからデジタル社会へと変化していった時代です。生まれた時点で携帯電話は当たり前で、今ではむしろ一般的になっている携帯電話はあるけれど固定電話がないという家庭が増えだしたのもこの頃です。ドキドキしながら女の子の家に電話をかけたら、お父さんが出てきたので慌てて無言で電話を切るというような体験は一切していない世代です。つまり、私たちのあるある話は、彼らにとっては、実体験を伴わないむかし、むかしの出来事である……という前提をもつ必要があるということです。
そして、それは、甘酸っぱい体験だけではありません。私たちが、当たり前だと信じている教師の世界における一般常識も同様です。自分が体験してきた現役時代のあるある話を押しつけることがないように気を付けなければいけません。特に、若い頃熱心に教師修行をしていた人ほど要注意です。「自己研鑽のために、身銭を切るのは当たり前。休日返上して、研究会やサークルに参加。睡眠時間を削ってでも、教育論文を書きまくる。学級通信の発行は多ければ多いほどいい」ということを自慢げに話しても全く響くことはありません。「24時間、働けますか?」時代の一般常識は、すでに「むかし、むかしのお話」です。今の若い人に、それを求めてはいけません。ロボットアニメもマジンガーZの時代から進化しています。令和には令和の一般常識があるということです。
昔はこうだったは、NG中のNG。令和には令和のやり方がある。
立ち位置を変える。意識を変える。
もちろん、「不易流行」の不易の部分は時代が変わっても伝えていかなければいけません。
ただし、自分たちが教わってきた昭和時代風の伝え方は通用しません。Z世代教師には、令和の伝え方があるということです。
何よりもNGなのが、「上から目線」です。
SNSネイティブ世代であるZ世代の若者は、物心ついたころから、SNSの世界にズッポリとはまっています。SNSの普及により、彼らの人間関係の関心の多くは、広く浅くつながった友達に注がれています。縦社会よりも横社会です。だから、縦社会の論理は分かりませんし、順応しようとする気はありません。当然、縦社会に対する免疫もありません。
そのような彼らに、いきなり「上から目線」の指導を入れれば、どうなるのか?
たぶん、表立っての反抗はありません。表向きには分かったような顔をするものの、嫌な友達のSNSをブロックするかの如く、その話は右から左へ聞き流され、いくら熱い思いがあったとしても、いくら有意義な内容であったとしても彼らには伝わることなく終わってしまうのです。
自分たちが若い頃は、たとえ上から目線の指導だとしても、ある一定の効果がありました。ただ、私たちより上の世代では、さらに絶対的な効果がありました。上の世代とのギャップは当時、新人類であった私たちも感じていたはずです。それもあって、自分たちは上の世代に比べれば、上から目線で話していないつもりになっています。でも、それは大きな勘違いかもしれません。多くの場合、Z世代から見れば、それでも十分に上から目線になっているのです。Z世代は、私たちが考えている以上に、上から目線について敏感です。
ただし、無理して、友達のように話しかける必要もありません(むしろ逆に警戒心を抱かせてしまいますのでお気を付けください)。俺はお前より上だという空気を出さなければいいのです。そして、一方的に課題や修正点を与えるのではなく、若手教師が自発的にがんばりたいと思うように誘導する指導を行うのです。
では、どうすればいいのか。
「上から目線」ではなく、「横から目線」を意識してください。
一見、難しそうな感じもしますが、すでに子供たち相手には行っていることです。
昭和の時代は、教師が黒板の前に立ち一斉指導を行う知識注入型が授業の王道といえるものでした。しかし、令和の時代、授業の形も変わってきました。現在、多くの先生方は、学習者の能動的な参加を取り入れた授業、いわゆるアクティブ・ラーニングの授業を行っています。また、学級づくりにおいても、担任の上から目線は、学級崩壊を誘発する大きな一因になっていることもご存知だと思います。「上から目線」ではなく「子ども目線」で、授業づくりや学級づくりを行っているのです。若手教師への指導もこれと同じです。
「Z世代の目線」に立って、話をすればいいということです。
「上から目線」ではなく、「横から目線」。Z世代の目線で指導を行う。
例えば、こんな感じで伝えよう
大学を卒業したてのピカピカの新採教員がやってきました。
始業式からしばらく立つと、新採の先生の教室がごちゃごちゃしてきました。ゴミが落ちていたり、椅子が机から出ていたり、机そのものがまっすぐに並んでいなかったりするのです。これは、崩壊フラグの一つです。そのままにしておくと、確実にクラスは崩れていきます。管理職として一言アドバイスしなければいけません。ただ、校長室に呼び出してあれやこれやと話をすることは逆効果になるということは、ここまで本稿を読んできた人には分かると思います(「校長室に呼び出し」というシチュエーションはどうしても「上から目線」のご指導承ります……という雰囲気になってしまいますからね)。
私の場合、若い先生に話をするときは、放課後、ふらっと訪れた感じで教室に顔を出して、話しかけることが多いのですが、今回のような場合は、教室では話しません。ごちゃごちゃした教室で「ごちゃごちゃしているから片付けるように」という直接的な話をすることは、「校長から叱られた」という思いが残ることがあるからです。即効性はあるもののやらされた感が強くなり、何よりもあまりいい気はしません。それよりも、やんわりと気付かせた方が、次につながります。できれば1人で職員室にいるときに話しかけることができればベストです。
どうですか? 少しは慣れましたか?
まず、気軽に答えることができるような話から始めます。「少しは」という聞き方がポイントです。こう聞かれると、全否定の答えは返しづらくなります。逃げ道をなくして肯定的な返答を期待する尋ね方は、ちょっとずるい気もしますが、これでプラスの雰囲気が生まれます。
ええ、周りの先生もよくしてくれて。
そういえば、自分が新任の頃、先輩の先生に叱られたことがあってね。
武勇伝のような「昔はこうだった話」は煙たがられますが、失敗談なら嫌がられることはありません。自分の失敗談という形でアドバイスをしていきます。失敗談なら「上から目線」ではなく、「横から目線」で話をすることができるからです。
教室の机がぐちゃぐちゃだから、きれいに並べなさいってね。当時は、そんな細かいことどうでもいいやんと思っていたけど、不思議なもので、実際、机がきれいに並んでいる教室は、クラスが崩れないんですよ。そのことに気付いてからは、意識して机をそろえるようになりました。子供がぐちゃぐちゃのまま帰ってしまったときには、放課後、自分でやったりしてね。
ここまで言えば、多くの場合、「○○先生の教室はどうですか?」とわざとらしく聞かなくても、自分の教室がごちゃごちゃしていることに気付くはずです(もし気付いていないようなら、次はド直球で攻めてください。ド直球で攻めた方がいい先生もいるということです)。
自分の失敗談というフォーマットを使って指導を行う。
ちなみに、雑然としている若い先生の教室にある隣のベテランの先生の教室は整然としているという光景は時々見かけます。これは、ベテランの先生が若い先生に、「きれいに机をそろえる大切さ」を話していないということです。でも、これはベテランの先生が悪いということではありません。「きれいに机をそろえる」ということは、ベテランの先生にとっては、あまりにも当たり前なことだからです。
年度初めの慌ただしい時期には、学年の打ち合わせも最低限のことをするだけで時間いっぱいになりますので、当たり前のことは、話すべき必要最低限の中に入らないのです。その結果、新採の先生にとって、注意すべき点や押さえておかなければいけないポイントが抜けてしまうことがあるのは、仕方がないことかもしれません。管理職の先生は、そのようなポイントを意識して、若い先生にアドバイスをしてください。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓
【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)
イラスト/イラストAC