ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #10 「Goal 5 ジェンダー平等を実現しよう」|矢野香織 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~ #10 「Goal 5 ジェンダー平等を実現しよう」の授業

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「ジェンダー平等を実現しよう」を学ぶ授業実践提案の第1回です。提案者は、大阪府の矢野香織先生です。

執筆/大阪府公立小学校養護教諭・矢野香織
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして。大阪府の小学校で養護教諭をしています、矢野香織と申します。
今年で教職15年目、そのうち4年は産育休で現場を離れ、今年4月に現場復帰しました。現在は育児短時間勤務を取得し、養護教諭は2人体制で勤務しています。
勤務している学校は開校19年目で、現在120名の児童が在籍しています。
令和6年4月に隣の小学校と統合、その2年後の令和8年には中学校とも統合し、義務教育学校となる予定です。

2 SDGsのGoal 5についての解説

Goal 5「ジェンダー平等を実現しよう」

世界中には、女性たちが「女性だから」という理由で、教育を受けられなかったり、差別を受けたりしている国がまだまだあります。性に関することや、子どもを産むことに関する健康と権利が守られていない国もあります。
日本では、過去に比べれば増えてきているとは言え、まだまだ女性の政治家や管理職は少なめです。
また、少しずつ育児休業を取得する男性が増えていますが、子育ては母親が中心になってするものだ、という固定観念がまだまだ根深い現状もあります。
さらに、これは男女問わずに共通することですが、性暴力もまだまだあります。

3 SDGsのGoal 5についての授業の実際

本校では、多文化共生教育や障がい理解教育を中心に、総合的な学習で「多様性教育」に取り組み、年間を通して学んでいます。
また、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の指針を参考にし、性・生教育とSOGIESC(性的指向、性自認、身体的性、性表現の4つを表す言葉)に関する教育を計画・実施しています。
今回私は、その多様性教育の一貫として、SOGIESCの授業に取り組みました。
Goal 5のジェンダー平等について取り扱い、「◯◯だから」といって性別によって社会的な諸条件を決められ、生きづらさを抱えていた(いる)人と、多様な性を選択する生き方に着目し、以下のような授業をしました。

⑴対象学年 5年

⑵教科及び領域 総合的な学習の時間

⑶ねらい
①無意識のうちに思い込んで物事を捉えてしまうことがあることに気付く。
②性は多様であることを知り、どんな性の決定をした生き方も、誰にも差別されてはいけないことを理解する。
③誰もが安心して一緒に過ごせるために「自分が何ができるか」を考え、表現する。(年間を通して) 

⑷教材 性のものさし
紙芝居「ぼくはそらくん、からだはおんな」

⑸授業展開
1時間目(入口) 自分を知る『いろいろな「性」ってなんだろう?』

2時間目(深める) いろいろな「性」を具体的に知る

当事者である井上鈴佳さんをゲストティーチャーとしてお招きし、LGBTQ+について、当事者としての気持ち、カミングアウトやアウティングの危険性などを、ご自身の経験やご友人のことなどを通じて、児童にお話しいただいた。

児童に話すゲストティーチャの井上鈴佳さん

3時間目(出口)  「私が」できることを考えよう

⑹評価
無意識の思いこみがあることに気付くことができた。
多様な性があることを知り、どんな性のあり方も差別してはいけないことを理解できた。
性のあり方に悩む人に対して「自分に何ができるか」を考え、メッセージとして表現することができた。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり 

⑴ 児童の感想

わたしは、男だからスカートじゃなくてズボンという考えをやめようと思いました。なぜなら、心は女の子で体が男の子で生まれてきた時、スカートをはいた時にヘンとか言われたらいやだからです。
みえないサングラスをうすめて、相手の気持ちや考えていることを知るということを次、やってみたいです。
見え方やしゃべり方ではわからないことがたくさんあると思った。
ほんとうに人それぞれだなと思いました。それをばかにするひつようはない。ほかのひとのことを、ほかのひとがきめるひつようはない。

⑵ 授業の成果と課題

ゲストティーチャーとして当事者の方に来ていただいたことで、児童にとって、遠い国のどこかの誰かの話ではなくなりました。
また、LGBTQ+について学ぶのではなく、「性の多様性」として受け止め、「私たちの生き方」について考えてくれた児童がいました。
性のものさしの説明が難しいと授業前から感じていましたが、実際に児童の反応を見てもそのように思いました。ゲストティーチャーに前時の授業の振り返りを話したところ、NHK for Schoolの動画を紹介していただきました。
授業後、児童から「先生もレインボーフラッグ書いて!」と言われたことをきっかけに、授業を参観した教職員もレインボーフラッグを作成しました。児童や教師、子ども大人関係なく、全員が「1人の人」として同じ目線で、答えのない問いに対して「自分に何ができるかを考える」取組となりました。
筆者自身が「児童を傷つけてしまわないか。価値観の押し付けになってしまわないか」と不安を感じ、自問自答したり、養護助教諭や学級担任、キャリア教育担当と相談したりしながら授業を組み立てました。結果、当初1人で悩んでいた時よりも、より良い取り組みになりました。

【参考文献】
日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB」
豊中市人権政策課 小・中学生向けジェンダー平等教育啓発教材「With you」

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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