子どもの「知っているつもり」を問い直す授業 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
理科の壺 子どもの「知っているつもり」を問い直す授業

「知っているつもり」。理科において、子どもたちが、ある事象について「このことは知っているし、理解している」と思っている状況です。こうした子どもたちが事前に知っている内容が正しくとも、あるいは間違っていようとも主体的に仮説を立てて検証し、問題解決を通して学習を成立させる姿勢を養うことが大切です。今回は、そのような「知っているつもり」を正す方法を考えたいと思います。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校教諭・有泉翔太
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.こんな経験ありませんか?

子どもの「知っているつもり」を想定して、授業の計画をする先生

理科の学習内容は身近な自然事象に関することが多いため、子どもが学習前からある程度の知識をもっていることもあります。
授業では、問題解決を通して理科の学習が成立できるようにする必要がありますが、学習を進める前に「先生、私知っているよ!…………でしょ!」と得意気に話し始める子がいて、困ってしまった経験はありませんか?
問題解決の過程で、予想したり仮説を立てたりする場面では、既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想する力を育みます。
「自分は知っているから」で満足している子どもに、問題解決の力を育成することはできません。
子どもたちが「知っているつもり」になっていることを自覚し、「確かめてみないと分からない!」と主体的に問題解決に取り組めるよう、教師は支援していきましょう。

2.子どもたちの「知っているつもり」を想定する

問題を解決していく中で、子どもの意識を
「知っている内容は、確かにその通りだった」
あるいは、
「知っているつもりだったけれど、実際は違った」
のいずれかに変容させる、と想定しましょう。

「知っているから確かめなくていいかな…」では学習は成立しないのです。
「自分たちで確かめたい!」と主体的に問題解決を進めていくことで、「自分たちで確かめたことで、自信をもってそう言えるようになったよ!」「自分たちで確かめたことで新発見があったよ!」と学習に価値を見いだしていけるようにしたいものです。

「知っているつもり」の解決の分岐

3.本当に「酸素を吸って二酸化炭素を吐いている」!? ~6年「人の体のつくりと働き」の場合~

⑴ ヒトは本当に「酸素を吸って二酸化炭素を吐いている」のか?

今回は6年「人の体のつくりと働き」を例に、呼吸の学習に関する子どもたちの「知っているつもり」を想定してみます。

知っているつもりになっている子どもからは「酸素を吸って二酸化炭素を吐いている」という予想が出てくることが想定されます。しかし、実際には「空気を吸って酸素を取り入れ、体内で不要になった二酸化炭素を多く含んだ空気を吐いている」というのが、正しい理解です。また、この予想では、気体の成分の変化については触れているものの、定量的な変化の予想には及んでいないことになります。

呼吸に関連する、既習の内容と、未習の内容

⑵ 子どもの「知っているつもり」を「確かめてみないと分からない!」にする問い直し

「知っているつもり」を問い直す

子どもが「知っているつもり」で満足しないために、授業では「知っているつもり」であることに気付けるような問い直しを行っていきます。今回は、イメージを表現する活動を取り入れて問い直しを行った場面を紹介します。

子どもたちの予想に対して「変化するって予想してくれたけれど、それは見た目では分からないんだよね…。もし気体が見えるのであれば、それってどんなふうに変化しているのだろう…。どんなイメージなのか教えて」と教師が問い直しを行います。ノートやICT端末などで、そのイメージを表現させます。

間違った呼吸のイメージ
Aさんの予想
不明確な呼吸のイメージ
Bさんの予想

クラスで共有していくと、「Aさんは吸うのは酸素、吐くのは二酸化炭素のイメージなんだね。」「Bさんは空気も一緒に吸っているイメージなんだね」と友達同士のイメージの違いに着目していくようになります。そこで教師が、「AさんとBさんは、同じ『「酸素を吸って二酸化炭素を吐いている』という予想なのにイメージが違うんだね。みんなはどう思う?」と問い直します。そうすることで子どもたちからは「確かめてみないと分からない!」「確かめてみたい!」と声が上がり、主体的に取り組んでいくきっかけをつくることができます。また、「吸うときには、本当に酸素だけを吸っているのだろうか?」「吐くときには、本当に二酸化炭素だけを吐いているのだろうか?」と定量的な部分にも明らかにしていきたいことが及んでいきます。

そして、「自分たちの予想を実際に確かめることはできるのかな?」と問うことで、子どもたちは「燃焼の仕組み」の単元での実験を想起しながら、実験の見通しを立て始めるようになります。

⑶「知っているつもり」から新発見へ

学習の前後で考えが変容した子どもの一例です。この子どもは「酸素を吸って二酸化炭素を吐いている」予想でしたが、「吸っているのは空気で、吐くときに二酸化炭素が多くなる」と実験結果を踏まえながら考察していきました。その後、ヒトの体の中で気体の成分が変わる場所はどこなのか?と肺の存在やはたらきに関心をもち始めていきました。

呼吸の仮説と実験結果からの結論

今回は6年「人の体のつくりと働き」から、イメージを表現する活動を取り入れて問い直しを行った場面を一例として紹介させていただきました。教師が子どもたちの「知っているつもり」を想定し、それを問い直していく。そうすることで「知っているつもり」になっていることを子どもたち自身が自覚し、「確かめてみないと分からない!」と主体的に問題解決に取り組むことが期待できるのではないかと思います。

イラスト/難波孝

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有泉翔太教諭

<執筆者プロフィール>
有泉翔太●ありいずみ・しょうた 神奈川県公立小学校教諭。川崎市立小学校理科教育研究会常任委員。神奈川CSTおよび神奈川CST協会運営委員。第56回全国小学校理科研究協議会研究大会では、会場校として研究提案及び授業提案を行った。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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