「桃太郎経営論」から教頭の「補佐力」を考える

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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

学校教育法第37条では、教頭の役割として「校長を助け、校務を整理し、及び必要に応じ児童の教育をつかさどる」とありますね。この「助ける」ということを、みなさんはどのように考えていますか? 経営の神様と言われた松下幸之助氏は、かつて経営論を昔話の桃太郎になぞらえて説明したことがあります。昔話の桃太郎では、主人公以上に補佐役の犬・猿・雉(きじ)が活躍することで、鬼ヶ島の討伐という難題を果たしました。ここに大きなヒントがあるように思います。一緒に見ていきましょう。

【連載】がんばれ教頭クラブ

犬、サル、キジの三匹と人間の、桃太郎風のスタイリッシュなイラスト

1 松下幸之助氏の桃太郎経営論から

世界に冠たるパナソニックグループを一代で築き上げた松下幸之助氏は、その卓越した経営論を、昔話の桃太郎になぞらえて説きました。
いわく、桃太郎は鬼ヶ島で鬼退治という偉業を達成しましたが、そのためには「犬」「猿」「雉」という家臣が必須だったというのです。様々な人の個性を生かすことで、各人の役割が生まれ、各人がその役割を果たすことで、柔軟かつ強い組織になっていくのだ、ということです。
これは学校という組織においても同じことです。それぞれの教員が自由闊達に個性を発揮できれば、これほど素晴らしいことはありません。校長を助け、補佐することが教頭の使命ですから、教職員たちの先頭に立つような気持ちで、様々な視点と多彩な発想をもち、1人で何役もこなすようにして、学校経営に寄与することを意識してみましょう。その例として、桃太郎の家来である「犬」「猿」「雉」の例えは非常に分かりやすいです。

2 忠実に寄り添う「犬」

相手の気持ちを慮り、命あらば忠実に実行すること。そして、関係部署や教職員と意思統一を図り、調整するという役割です。そこには猟犬のような、素早いスピード感も必要とされるでしょう。
また、犬は非常に社交性が高く、誰とでも仲良くなれるような気安さがあります。これが大切です。
気安さと優しさをもって、教職員や保護者、地域の方に接していきましょう。それが信頼関係の礎となっていきます。
また、校長=経営者は、孤独になりがちです。よほどの自信家でもない限り、常に「これでいいのだろうか?」「間違いはなかっただろうか?」と自問自答しながら働いています。
そこで、こうした孤高の人の頼れる友となり、その孤独感に寄り添うこと…例えば職員会議で校長指導があるときや、朝会で児童に耳障りの良くない話をしなければならないときなどは、「ご指導いただき、ありがとうございます」とリアクションすることで、気持ちを支えてあげるようにしてみましょう。
ただし、忖度はしすぎないように。校長から感想や意見を聞かれたら、率直な自分の考えを申し述べることが思いやりです。

3 アイデア豊富な「猿」

若き頃「猿」と呼ばれた豊臣秀吉もそうであったように、猿の役割で大切なのは、「知恵」です。
校長が提示した学校経営の方針に対して、どうすれば実現できるのかを考えていきます。そのために、幅広い視野をもち、深く知識を得ていかなければなりません。全国的に新しく取り入れられる教育のあり方についても常に情報収集や研修は欠かせません。
校長から「○○といったことをやりたいのだが、どうすればいいか。アイデアを出してほしい」というような依頼があったら、期限を設けさせてもらい、必ずアイデアやプランを提出するようにしましょう。教育課程作成や校内研究体制づくりなどでも、どんどん校長の意図をくみ、アイデアを出していきましょう。

4 情報収集のスペシャリスト「雉」

雉の役割で大切なのは、鳥の目線で物事を俯瞰し、時には細部に飛び込んで詳しく見る立体的な機動力…すなわち情報収集力を高め、データスペシャリストになる、ということです。
立体的ということはつまり、学校の中はもちろん、地域コミュニティの中からも、学校に対する意見を聞き取ったり協力を得たりと、まさに飛び回るような活躍です。
また、全国的に新しい指導法が提示されたときには、より高い視野から物事を見つつ、どうやって導入すればいいかを考えることが必要です。
校長から、学校に必要な地域人材は誰か、必要な教職員向け図書は何か、校内研究の指導者は誰が適任か、などの意見を聞かれることもあるかと思います。そのようなとき、即答できるように日頃からリサーチして準備しておきましょう。

5 そして、「きびだんご」とは…?

わたしは、今まで10名の校長と仕事をしてきました。
「教頭せんせいにこの件は全部任せるから、好きなようにしてください」
「教頭せんせいといっしょにお酒を飲みたい! これからの学校について話したいです」
「いつも休みなく働いているから、ここでじっくり夏休みをとって休んでほしい。代わりはわたしがやっておくから」
「昨日の会を仕切ってくれてどうもありがとう。とてもいい会の運営でしたよ」
などと校長から声をかけていただくと、信頼をいただいたということでうれしいものです。わたしはそれが「きびだんご」だと思います。
同じように教頭として、教職員の皆さんにも「きびだんご」を分けていきたいですね。

さあ、明日からも、犬、猿、雉でがんばっていきましょう!

企業の経営者の研修会では、桃太郎型経営について協議し、競合他社のことを「鬼」と設定して、その強さに注目し、攻略方法を分析する、などということもあるようです。
学校にとっての「鬼」はなんでしょうか? いじめや不登校など、昔話にもひけをとらぬほど手強く恐ろしく、しかし絶対に逃げることができない相手がいるのではないでしょうか。
あるいは「理想の学校像」という、価値高い目標かもしれません。
いずれにしても、全員が一丸となって挑まなければいけないものでしょう。
そのお手本としての多彩な行動力を、教頭は見せることが大切だと思います。

イラスト/坂齊諒一


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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