不登校対策では、子どもだけでなく保護者への支援も重要【連続企画 多様化する選択肢 令和時代の不登校対策 #01】
不登校のケースが多様化するなか、国も様々な不登校対策を打ち出しているが、文部科学省の調査では小中学校の不登校者数は10年連続で増加しており、その数も過去最多を更新している。文部科学省「不登校に関する調査研究協力者会議」委員などを歴任し、現在もスクールカウンセラーとして活動する伊藤美奈子氏に、不登校の実態とその対策について考えを語ってもらった。
奈良女子大学教授
伊藤美奈子
専門は教育臨床(学校現場での心理臨床実践)、発達臨床(思春期以降の心理と支援)。公認心理師・臨床心理士。大学卒業後、私立高校の国語科教諭として6年間勤務ののち研究者に。京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。慶應義塾大学教職課程センター教授などを経て現職。文部科学省「不登校に関する調査研究協力者会議」委員を務めた。著書に『不登校の理解と支援のためのハンドブック─多様な学びの場を保障するために』(ミネルヴァ書房)、『不登校―その心もようと支援の実際』(金子書房)、『スクールカウンセラーの仕事』(岩波書店)など。
この記事は、連続企画「多様化する選択肢 令和時代の不登校対策」の1回目です。記事一覧はこちら
目次
不登校児童生徒増加の実態とその背景
文部科学省が発表した2022年度の小中学校の不登校者数は約29万9,000人と10年連続で増加し、過去最多となりました。どの都道府県でも不登校数は増えており、私としても特に小学生の不登校の相談を受けることが増えたという実感があります。
近年、不登校が増加している理由の一つとして、コロナ禍による影響がよく論じられています。たしかにコロナ禍でのマスク着用によりコミュニケーションがとりにくくなったほか、行事がなくなったり、部活動が禁止になったりするといった制約が増えました。しかし、コロナ禍以前、10年ほど前から不登校者数は増加傾向にあるのです。
2016年に成立した教育機会確保法のなかで、不登校そのものを「問題」として取り扱わず、学校以外にも学びの場所や学びの機会を増やしていく動きも出てきたため、増加にはその影響もおそらくあるのでしょう。社会の風潮として、不登校に対する見方が徐々に変わってきたことが増加の背景にはあると思いますが、それだけではなく、様々な要素が複合的に合わさって今の結果に至っていると考えています。不登校の数が減っていく要因は今のところ見受けられないため、今後も増え続けていく可能性はあります。
変化していく子どもの気持ちと実態の因果関係
文部科学省の「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」の結果では、小学生の「最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ」として「先生のこと」が約30%と上位にあがりました。これまでと特に授業のやり方が変わったわけではなくても、教員から厳しく𠮟られたときの子ども側の受け取り方がより敏感になっているとも考えられます。この点は、データとしては出ていませんが、不登校の様々な相談を受ける中で肌感覚として感じています。ネット社会の弊害として、大人も含め直接対面で話し合ったり、ぶつけあったりした上で解決されたりする経験が減ったことも要因の一つでしょう。
ほかに、スクールカウンセラーとしてよく聞く不登校のきっかけは交友関係です。いじめを含め、うまく友だちが作れない、人間関係がうまくいかないといったものであり、以前からある普遍的なものです。そのほか、学校の勉強についていけないため、学校がおもしろくないなども聞いています。逆にギフテッドのように高い知性を持った子どもが授業が退屈で不登校となるケースもあります。
また、小学生の低学年では不登校者数はそれほど多くはないですが、高学年に上がり、思春期を迎えていくにつれて不登校者数は増えていきます。さらに中学生にもなると、思春期だけの問題だけにとどまらず、いわゆる「中1ギャップ」といわれるような、小学校からの様々な環境の変化に悩むことも多くなります。小さい規模で学んでいた環境から、いくつかの小学校からの生徒が集まって人間関係が多様になり、部活動の上下関係や定期テストの成績など、悩みや問題も複雑になっていきます。教員の子どもたちに対する扱い方も変わり、ある意味「一人前(大人)」として接するようになっていきます。こうした変化にうまくできずに不登校になる生徒が一定数いるのです。
時代とともに変化してきた不登校対策
私が国語科教諭として働き始めたのは1980年代ですが、当時は現在のように不登校児童生徒を支援していくような考え方ではなく、不登校を「問題」として捉えていました。不登校の子どもを何とかして学校に来させるといったような「登校刺激」を与えていた時代です。
その後、90年代からは不登校に対して徐々に「待つ」流れが強くなっていき、2002年、私が国の仕事に関わりはじめた頃には、いじめや発達障害、虐待など不登校の要因も多様化しており、「待つだけでいいのか?」という意見も出てきました。2016年の教育機会確保法成立からは、子どものことをしっかりと見立て、その子どもに合った関わり方をしていく方向に国も大きく舵を切りはじめました。こうして振り返ってみると、この20年だけでも不登校対策には大きな転換があったという印象を受けます。
2023年3月に示された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」の主な取組として、「学校の風土の『見える化』を通じて、学校を『みんなが安心して学べる』場所にする」という目標に向けて、GIGAスクール構想下で整備された1人1台端末を活用して、子どもたちの状態をタブレットで確認することなども行われています。そうした方策に加え、私がより重要だと感じているのが、先生と子どもの信頼関係の構築です。子どもたちは、心は不安でも表面上は平静を装うことができます。まずは子どもが正直に先生にSOSを発信することができるような関係を常日頃から築いておくべきでしょう。
学校では、普段の子どもたちの観察や不登校対策の運用の仕方がとても重要になってくるので、不登校、不登校傾向および特別な支援が必要な児童生徒への支援を行うスペシャルサポートルーム(SSR)の活用や、特別の教育課程を編成できる不登校特例校(学びの多様化学校)、または校内フリースクールなど、子どもたちの居場所をさらに増やしていくことが重要です。
不登校特例校や校内フリースクールは、学校により方針は異なりますが、大体は学校の勉強を進めるような雰囲気ではなく、ゆっくり子どもとお話をしたり、何人かでゲームを行ったり、勉強する気があれば個別に先生からプリントを配布して取り組むような形になっています。時間割りに追われる過ごし方とは違い、リラックスできる空間です。
また、最初から勉強がちらつくと嫌気がさす子どももいれば、勉強に焦りを持っていて勉強したい子どももいます。そのため勉強はひとまず置いて話をすることから始めたり、臨機応変に勉強の機会を提供したりと、対応はそれぞれです。不登校特例校では、一応教科や時間割がありますが、あくまでそれは原則としてであり、実際は柔軟に工夫して運営されています。
一方で、校内をいくら工夫しても学校自体が嫌いな子どももいます。そういう子は、不登校特例校や校内フリースクールでも、学校にあるというだけで足が向かないケースも珍しくありません。そういった子どもたちのために、民間のフリースクールなども総動員して居場所を作っていく必要があるでしょう。そのときは嫌だと思っていた学校も、時間が経って意欲が湧いてきたら学校に行こうと思える子どももいるので、子どもたちのそのときの状態に合わせて選べる場所が増えていくことが望ましいでしょう。
まずは保護者をサポートすることが必要
不登校対策では、保護者が子どもをサポートする前に、まずは保護者がサポートを受ける必要があると感じています。保護者は子どもと同じく(場合によっては、子ども以上に)不登校という現状に対して不安を感じています。その保護者へのカウンセリングや、親の会など保護者同士の情報共有の場、不登校の子どもを持った経験のある保護者からアドバイスを受ける機会などを得ることで、自分の子どもを支える力が湧いてくるのです。
私も保護者をサポートする取組として、コロナ禍になった2020年に2回、社会福祉協議会からの助成金で不登校の親の会をオンラインで開催しました。不登校によって切実な思いを持っている保護者からは、「このまま休ませていいのだろうか」「いつまで休ませればいいのか」など様々な不安の声があがっていました。こうした悩みに対して、ほかの参加者や不登校の親の会を卒業した保護者から意見やアドバイスが寄せられていたのが印象的でした。
保護者はとにかく子どもが、そしてその将来が心配なのです。不安があったりイライラが募ったりしても当然ながら子どもにはぶつけられないため、我慢するしかありません。保護者としてはその気持ちを安心して吐き出せる場がほしいのです。カウンセリングではなくても、先述した親の会や、友だちの中に話を聞いてくれる人がいれば相談するだけでも不安な気持ちを和らげることができるでしょう。
保護者がまず落ち着いて過ごすことができることで、子どもも安心して休むことができるのです。そういった意味で、保護者支援は、子どもにとっても大きな意味を持っています。
一人で抱え込まずにうまく人材を活用する
不登校対策については、一人の教員が頑張りすぎてしまうがゆえに、その問題を抱え込んでしまうケースもよくみられます。不登校はすぐに解決できる課題ではなく、長期的に支援を続けていく必要があります。教員のみなさんは、学年全体でその不登校児童生徒を見ていくようにし、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどともつながりながら、積極的にSOSを出してもらいたいと思います。特に若い教員だと、児童生徒の不登校を自分のせいだと思い込んでしまうこともあります。あまり重く責任を感じすぎず、いろいろな人の手を借りていくのも大切です。
管理職の教員や養護教員、カウンセラーなども含めて学校全体で不登校対策に取り組んでいくことで、それぞれが役割分担できるようになっていきます。たとえば、子どもたちには教員が対応するのであれば、その保護者の話はカウンセラーが聴いていく。そうすることで、不登校対策の重さが分散され、長期的支援が可能になるのです。また、学校内でうまくいかない場合は近くのフリースクールや児童相談所を活用することで、それぞれの子どもにあった支援につなげることもできるでしょう。
取材・文/三井悠貴(カラビナ)
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