ギフテッドの特性ゆえに学校に行けない子を、どう支援する?
増え続けている不登校。「学校に行けない子どもたちの中には、ギフテッド対応が必要な子どもがいることを念頭に、具体的な支援が必要な時期に来ている」と言うのは、高知大学大学院の是永かな子教授です。ギフテッドの特性への支援について、お話を伺いました。

目次
「教育的ニーズの保障」を大切にする北欧諸国
是永かな子先生は、北欧の社会システムの研究者です。「ギフテッド支援を考える上で、なぜ今、北欧なのか?」。今回は、そこから話を始めましょう。
世界の「ギフテッド教育」のマッピング
ギフテッドという言葉は、日本ではまだまだ耳慣れないかもしれません。けれども、世界を見渡せば、多くの国で関心が持たれています。
まずは、「他国でのギフテッドの教育は、どうなっているのか?」ということを、知っておきましょう。筆者が調べたところ、大きく2つに分けられます。
- 選抜して英才教育をする : 韓国、シンガポール、中国等
- 教育的ニーズと捉え保障をする : 北欧諸国 等
近年、「旧来の一斉指導型授業のフレームからはみ出してしまう、『特別な教育的ニーズがある子』が増えている」という認識は、全国の現場の先生方が共通してお持ちでしょう。
例えば、発達障害や愛着障害がある子、外国人児童などです。
是永教授によると、その『特別な教育的ニーズがある子』の中にギフテッドの子どもたちが確実にいることを、学校現場がきちんと認識すべき時期に来ているようです。
日本の「ギフテッド」教育の目的は、困難の解消
文部科学省は、今年度(2023年度)から正式に予算をつけ、「ギフテッド」の支援事業を開始しました。事業の目的は、「子どもの困難の解消」です。
まず目指したいのは、「子どもの困難の解消」です。学校生活と学習、その両方で困っている子がいる…。その子たちが、どうすれば、学校で過ごしやすくなり、学びやすくなるのか? そこに取り組んでいきます。
文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒」支援の現在進行形
筆者は、上述の記事作成のため、文部科学省に取材に行ってきました。
その結果、「日本が目指すギフテッド教育は、北欧諸国の取り組みと相性が良さそうだ」と、感じています。なぜなら、北欧諸国のギフテッド教育は、教育的ニーズの保障に重きを置いているからです。
そこで、この記事では、北欧・デンマークのギフテッド教育の動向について、是永先生とのQ&A形式でお伝えしていきます。
デンマークは、どんな国?
2024/25年度から、ギフテッドのスクリーニングのためのチェックリスト活用を目指しています。「ギフテッドの教育が動き始めつつある国」として、1つのベンチマークとなりそうです。
ギフテッドの「特別な教育的ニーズ」とは?
ギフテッドの定義
ー デンマークには、ギフテッドの定義はあるんですか?
はい。各自治体や各学校で異なる場合もありますが、デンマークで行った調査では、大きく3つの概念でギフテッドの子どもを定義していました。
- 発達検査(WISC)で測定されるIQ130以上の「特別な能力のある人」
- 成績が伸び悩み「努力の人」である優秀な子ども
- 特別な教育的ニーズのある子ども
ー 「特別な教育的ニーズのある子ども」とは、どんな子なのでしょうか?
通常の教育形態(例えば一斉教授・画一教材)では十分に学習が保障されていない子どもです。非常に繊細で、精神科の診断を受ける子どももいます。
ギフテッドの学習特徴
ー 他に、ギフテッドの特徴とされることはありますか?
学習にも特徴があります。いくつか挙げてみましょう。
- 学習時間が短く、抽象的かつ、多面的に教材を捉える。
- 特定のテーマに熱中してしまい、集中力をそらすのが難しい。
- 「抽象的 ⇒ 具体的」の方向性での学習が可能。
ここで大切なのは、「ギフテッドは独自の学習方法や、より高度な課題を欲するニーズがある」という認識を持っておくことです。(是永先生)
ー 学校で「ギフテッドの教育的ニーズ」を満たせない場合、どんなことが起こるのでしょう?
子どもは能力を十分に発揮できず、成績不振や社会的・情緒的・行動的問題を引き起こす可能性があります。
是永先生の論文の中から、「ギフテッドの困難」について書かれた箇所を抜粋します。
ギフテッドの子どもはあるときは授業をまったく受けず、またあるときは退屈のために落ち着きがなく集中力を欠き、授業について行く意欲を失い、学習意欲を失う。そのため、教員はそれらを問題視することがある。子どもは自分の能力を発揮できず、「退屈」を理由に授業から退出するなど、社会的、感情的、行動的な困難も経験している。ギフテッドの子どもが、外界に対する行動や反応の結果、ADHDと診断されることは珍しくない。
デンマークにおけるギフテッド教育
ー 上記は、筆者が取材を通じて出会ってきたギフテッド当事者像と重なる部分があります。国が異なるのに、日本でも同じことが起きています…。
日本でも通常学級で十分には学べない「特別な教育的ニーズ」の対象者として、ギフテッドを捉えることが重要です。
不登校の子の中には、ギフテッド対応が必要な子どもがいることを念頭に、具体的な支援が必要な時期に来ているのです。(是永先生)