私のChatGPT活用アイデア:自分の予想とAIの回答を比較させて気づきを与える| 近藤泰生 先生(埼玉県公立小学校)

連載
ChatGPTがもたらす教育パラダイムシフト

ユーザーからの様々なリクエストに高度で自然な回答を返すAIサービス「ChatGPT」を、教育の現場でどのように扱ったらよいのか、教室での手探りの実践が始まっています。今回は埼玉県の公立小学校教諭・近藤泰生先生から届いた実践事例の紹介です。

実践報告/埼玉県鴻巣市立小学校教諭・近藤泰生

1.ChatGPTを理科で使う理由

私は、ChatGPTと児童を同じ目線に立たせて活用できないかと考えました。そこで、3年生の理科の「児童同士の予想を比較する活動」でChatGPTを使ってみることにしました。

理科では、これまでの学習や日常生活の中での経験や体験をもとに予想を立てていきます。しかし、3年生という発達の段階では、予想やその理由が具体的な体験を基にした言葉で表現されることが少ないと感じていました。

ChatGPTは、情報を活用して文章を書くことを得意としています。そこで、ChatGPTに予想の文例を書かせ、児童の予想の比較対象として使う事によって、児童の思考を助け、体験をもとにした予想を書きやすくすることができるのではないかと考えました。

また、どんなプロンプト(システムの操作時に入力や処理などを促す文字列)を使えば、児童が必要とする情報を得ることができるのかも検討してみました。

2.授業の様子

(1)モンシロチョウの幼虫の姿について

まず、授業の課題である「モンシロチョウの幼虫は、どんな姿や生活をしているのだろう。」について、児童に予想を立てさせました。それぞれの予想を発表させたあと、ChatGPTに予想を書かせました。

まず使用したプロンプトは以下の通りです。

モンシロチョウの幼虫はどのような姿や生活をしているのか以下の条件で教えてください。

・小学校2年生の知識で答えてください。

・50文字以内

すると、ChatGPTは以下のような回答をしてきました。

モンシロチョウの幼虫は細長い形をしていて、葉っぱを食べています。 体が大きくなって蛹になり、羽化して成虫になります。

ほぼ完璧な回答です。児童からは「確かに葉っぱを食べていた。」「葉っぱは、キャベツだね。」「“さなぎ”になって、“せいちゅう”になるって書いてある。」などの発言がありました。

そこで、私から「この予想に分かりにくいところはないかな。」と聞いたところ、「細長いってどんな形なのかな。」という発言がありました。そこで、

細長い形とは、具体的にはどんな形ですか?

と返してみました。その回答が

モンシロチョウの幼虫は、細長くて円筒形をしています。長い体には細かい毛が生えており、体は緑色や赤色をしています。

というものです。児童は、自分の予想や経験から

赤色のモンシロチョウの幼虫もいるのかな?

円筒形ってどんな形?

言葉が難しいよ。3年生に分かる言葉で言ってほしい。

という発言をしていました。そこで、私から

では、円筒形という言葉が難しそうだからChatGPTに聞いてみよう。みんなに分かるようにするにはどうするかな。

と言って「円筒形」について質問を深めてみることにしました。

円筒形を幼稚園児に教えてください。

というプロンプトに対しての回答は、

モンシロチョウの幼虫は、ほーいへんぽうがちの形をしています。

でした。思わず、

なにそれ?

じょうだんいってる?

ふざけてるの?

と児童も言っていました。漢字変換すると「方い扁方がちの形」でしょうか。幼稚園児への説明という点で、ChatGPTは苦手な部分があるようです。そこで、

ほーいへんぽうがちの形とは?

と返してみました。回答は以下の通りです。

すみません、誤解を招く表現でした。おっしゃる通り、「ほう」や「へん」といった幾何学的な形状を幼稚園児に伝えるのは難しいです。モンシロチョウの幼虫は細長い形で、ミニワームのような姿と表現することができます。また、一部の子供は「ヘビみたい」とも理解するかもしれません。

児童は、この回答を見て

ミニワームってなに?

へびみたいならわかる。

という具体的で身近な動物と比べる表現に納得していました。

この活動を通して分かったことは、「幼稚園児」という言葉を入れることで、ChatGPTが説明を分かりやすくしようと努力することでした。また、回答に苦慮して意味の分からない冗談のような言葉を使ってしまうことがあることも見えてきました。

(2)風の力について

次に、「風の力について」の予想をChatGPTに書かせました。帆掛け車に風を当ててその進む距離を予想する活動です。プロンプトは以下の通りです。

かぜの強さによって、帆掛け車が動く距離は、どのように変わりますか?以下の条件で予想と理由を作成してください。

・帆の大きさは、縦10㎝、横15㎝

・強い風は風速10m程度

・弱い風は風速5m程度

・帆掛け車は、スタート時に風を受けるがその後は受けない。

・幼稚園児の知識で答える

・理由は、子どもの体験から考える。

今回も、「幼稚園児」という言葉を入れています。回答は、

幼稚園児の知識で考えると、かぜの強さによって帆掛け車が動く距離は次のように予想できます。

1.強い風(風速10m程度)の場合:

強い風が吹くと、帆掛け車は強い力を受けて前に進むでしょう。風速が速いほど、帆掛け車にかかる力も大きくなります。したがって、帆掛け車は強い風の力で遠くまで進むことが予想されます。

2.弱い風(風速5m程度)の場合:

弱い風では、帆掛け車にかかる力は強い風ほど強くはありません。そのため、帆掛け車は弱い風の力でのみ前に進むことになります。風速が弱いため、帆掛け車が進む距離は強い風ほど遠くならないと予想されます。

以上の予想は、幼稚園児の日常の体験や観察に基づいています。例えば、強い風の日には、風で紙飛行機が遠くまで飛ぶことや、風の力で凧が高く上がることを経験しています。また、風が弱い日には風船があまり遠くに飛ばないことなども観察できます、このような体験から、かぜの強さが物体の動きに影響を与えることが予想されます。

でした。きちんと予想をした後、幼稚園児までの体験をもとに理由を提示しています。

この予想を読んで、児童から

自分の予想と同じだ。

理由ってこう書けばいいのか。

などの発言がありました。

私が注目させたのは、予想の下段の部分です。児童に

どの部分が分かりやすい?

と問うと、

紙飛行機の部分が分かりやすい。

確かに凧は風の強い日にやるとすごく飛ぶ。

などの発言がありました。

ChatGPTが、理由を凧や風船を飛ばした時の体験をもとに書いているので、児童も自分の予想と比較しやすくなったようです。

ChatGPTの予想を見た後、児童は以下のような予想を書いていました。

「強い風の時には、7m進む。弱い風の時には6m進む。理由:強い風の時は紙がいっぱい飛んだ。弱い風の時に紙が飛ばなかった。」

「弱い風より強い風の方がきょりが遠い。強い7m 弱い3m 理由:弱い風が来た時、紙しか飛ばなかったからです。」

まだ、書き方に慣れていなかったり、2年生の体験などに戻れていなかったりしていますが、ChatGPTと比較検討することによって予想と理由が実体験をもとにして書けるようになってきていました。

3.授業でChatGPTが果たした役割とプロンプトの工夫について

今回の授業では、ChatGPTを児童の予想の例示や比較対象として活用しました。また、児童がChatGPTの間違いや不思議な点に気付き、教師と一緒に考えていく場面を設定しました。児童は、ChatGPTの回答を参照することで自分の予想と比較し、確かめたり修正をしたりすることができていました。

このことから、今回の授業においてChatGPTが果たした役割とプロンプトの工夫の2点について考えていきたいと思います。

(1)ChatGPTの役割

今回の実践では、ChatGPTを児童の予想をよりよくするための比較対象として活用しました。予想については、比較することなく全員が、「強い風の方が弱い風よりも遠くに進む」ということを書くことができていました。しかし、理由については、ChatGPTの予想が例示や比較の対象となっていました。児童が理由を書くときに、ChatGPTがこれまでの体験を思い出すヒントとなり、2年生までの学習や日常体験が生かされた予想を書くことができました。今後も、グループやペアの活動と組み合わせることで多様な考えに触れ、思考を深めることができそうです。

これまでも、教師との対話の中で予想を改善していく活動は行ってきました。しかし、児童の予想は教師が書いた文を写すだけになってしまっていたり、自分の書き方から離れられなかったりしていました。今回は、比較対象を教師の言葉でなくChatGPTの言葉を使って示すことで、教師のまねではなく、自分の予想とAIの予想を比較検討することができました。その結果、児童の予想が変化して自分の経験をもとに書けるようになってきたのが、今回の取組の成果だと考えています。しかし、ChatGPTの使う言葉が難しすぎる事が、課題として見えてきました。

(2)プロンプトの工夫

ChatGPTを使う上でプロンプトの工夫は、避けて通れません。今回は、「幼稚園児」という言葉を入れることで、ChatGPTが回答を分かりやすくしようと試みました。なぜなら「2年生」では「円筒形」や「蛹」「羽化」など未履修の内容が入っており、児童にとって分かりにくかったからです。また、「1年生」という言葉も入れてみましたが、「2年生」とあまり言葉の傾向は変わりませんでした。そこで、小学校入学前の知識を使って、もっと簡単な言葉で説明をしてもらおうと考え、「幼稚園児」を入れてみました。その結果、体験から予想を立てさせたい場面で、児童の体験をもとにした具体的な回答が見られました。この具体的な回答に、児童も納得している様子でした。特に、理由を書くことに苦手意識をもっている児童は、ChatGPTという見本があることで自分の経験をもとにして理由を書くことにつながりました。

しかし、「幼稚園児」という言葉を入れないプロンプトでは、「摩擦」や「空気抵抗」などの言葉を使った難しい表現が出てくると共に、小学生にとって大人びた言い回しが出てきていることも確かです。こちらで条件を制御し、児童にも分かりやすい形で示すことができる工夫を探すことで、ChatGPTを児童と対等の目線で運用できる状態にしていきたいと考えています。

今回は、課題に対しての答えがはっきりとしている理科でChatGPTを活用してみました。使ってみて感じたことは、児童がChatGPTを万能だと感じなくなったことでした。間違いがあることや表現が難しくなってしまいがちなことに気付き、「批判的な思考」をもってChatGPTと関わるようになってきていました。これからも、児童が実際にChatGPTと関わることで生まれる気付きを生かし、活用場面を増やしていければと考えています。

執筆者:近藤泰生

埼玉県鴻巣市立箕田小学校教諭。1982年埼玉県秩父市生まれ。上越教育大学大学院学習臨床コース修了。児童が「じりつ」して学べるような学習環境作りを目指して実践を継続中。


講評・コメント

講評/藤原友和(北海道公立小学校教諭

近藤さんから素敵な実践報告が届きました。3年生という発達の段階を踏まえ、「自然現象を言葉で説明する」困難さを、ChatGPTのサンプル文を使うことで乗り越えようとした授業です。

学習指導要領を紐解きますと、第3学年の「観察・実験などを行い、問題解決の力を養うこと」という教科の目標では「主に差異点や共通点を基に、問題を見出す」ことが位置付けられています。近藤さんの実践報告ではモンシロチョウの幼虫の生態についてChatGPTに説明させ、一つ一つ検討を加えています。すなわち、

A 細長い形
B 葉っぱを食べる
C 体が大きくなると蛹になる
D 羽化すると成虫になる

という4つの要素から、「モンシロチョウの幼虫の特徴」と「成虫になるまでの成長と変態の様子」について説明モデルを生成させているわけです。3年生の理科ではトノサマバッタやカブトムシなどと比較しながら、蛹になる昆虫と、蛹にならずに成虫と同じような姿のままで成長していく昆虫を比較し、前述の教科目標(差異点や共通点を視点に観察することによる問題解決)にせまるというステップが組まれています。こうした「生物の構造と機能」を出発点として、「生命の連続性」の学習につながり、「生物と環境の関わり」にまで広げていくことが第3学年における「生命、地球を柱とする内容構成」の学習サイクルと考えられます。

さて、この時、子供たちが日常的に使用している「生活言語」と、理科の「表現」とは重なる部分もありながら、術語としての側面も無視するわけにはいきません。昆虫の「頭、胸、腹」は「あたま、むね、はら」であって、「腹」を「おなか」と言い換えてしまうことは、脊椎動物の体の構造との差異からも好ましくないのです。

近藤実践では、幼虫の体の形を説明するにあたり、「細長い」を「円筒形」と言い換えたChatGPTの説明の適否を検討しています。「正確であり、わかりやすい」というベクトルの異なる方向性を同時に達成するのは時に難しいわけですが、それゆえに「こういう言い方をすることになっているんだよ」というテクニカルタームの大切さに気づくことができるのではないか、と思いました。

こういうふうに、「暮らしの言葉」と「理科の言葉」の間には、実は小さくないギャップが存在しています。生活科から理科への橋渡しの難しさの一つがこういった言葉の問題です。理科という教科の土俵に乗って学習を進めていくための誘い方として非常に興味深い実践であると思いました。

近藤さん、実践報告有難うございました。子供たちが「理科の言葉」を使ってこれからどんどん学習を深めていくことを楽しみにしています。

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