「“いってきます”と“いってらっしゃい”」全校朝会【校長講話】文例集 #8
全校朝会での校長講話といえば、校長先生にとって腕の見せどころです。とはいえ、毎月、子供たちの知的好奇心を掻き立てたり、子供たちの心を整えたりする内容を考えるのは苦労するもの。そこで、本連載(月1回公開、全11回)では、学級経営や学校経営に関する多数の著書をもつ俵原正仁先生が、実際に使用したスピーチの全文を公開します。12月は講話「いってきます」を取り上げます。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
12月のテーマはこう選ぼう
私の勤務する兵庫県芦屋市では、12月8日の太平洋戦争の開戦日に合わせて、平和について学習する平和週間を設定して、学校を上げて平和学習に取り組みます。そこで、12月の全校朝会では、毎年、戦争や平和について触れた話をしています。
ただ、改めて平和集会でも話をしますので、全校朝会ではそれほどガッツリ行いません。今回の話も最後に軽く触れるだけにしています。この時期に平和学習を行わない場合、最後の戦争の部分をカットしても、「言葉を大切にして、あいさつをしっかりとしよう」「当たり前だと思う日常を大切にしよう」というテーマの話としても成り立つようになっています。今回のキーワードは「いってきます」です。
12月の講話「“いってきます”と“いってらっしゃい”」全文
みなさん、おはようございます。(「おはようございます」というあいさつが返ってくる)さすが、〇〇小のみんなです。気持ちのいいあいさつができています。朝、人と会ったら、今のように「おはようございます」と言いますよね。では、(朝、家から学校に出かけるイラストを見せる)…この場合は、何と言いますか?(※1)そうです。その通り。答えは「いってきます」です。
実は、この「いってきます」という言葉は、2つの言葉が合体してできたものなんです。では、ここで問題です。
「いってきます」は、何と何の言葉が合体したものでしょうか?
①行きます+起きます
②行きます+できます
③行きます+帰ってきます
①「行きます+起きます」は、朝、起きて、行きますという意味になります。
②「行きます+できます」は、行くことができますという意味になります。
③「行きます+帰ってきます」は、行って、帰ってくるという意味になります。
答えは決まりましたか? ①だと思う人? ②だと思う人? ③だと思う人?
…………………正解(※2)は、③の「行きます+帰ってきます」です。
ちなみに、「いってらっしゃい」は、「行く」+「らっしゃい」です。「らっしゃい」とは、「らっしゃい、らっしゃい、大根が安いよ」とか、お店の人がお客さんに言う「らっしゃい」…「いらっしゃい」、もう少していねいに言うと「いらっしゃいませ」ということになります。「来てくれてありがとう」という歓迎を表す言葉です。
つまり、「いってきます」は「行って、帰ってきます」。「いってらっしゃい」は「行って、帰ってきてくれてありがとう」…帰ってきてくださいねという意味になります。
日本では、昔から「いい言葉」を口にすれば、「いいこと」が起きる。「悪い言葉」を口にすれば、「悪いこと」が起きる(※3)…と言われていました。口にしたことが、実際に起きると信じられていたのです。
昔は旅をするのも、命がけでした。だから、旅立つ人は、「いってきます」と言うことで「必ず帰ってきます」という誓いをたて、見送る人は「いってらっしゃい」という言葉に「行って、無事に戻ってきてください」という思いを込めて言っていたのです。大切な人とまた会うことができるようにという願いから「いってきます」「いってらっしゃい」という言葉ができました。普段、何となく使っていた言葉に、こんな深い意味があったんですね。
特に、この思いが強かったのが、戦争中です(※4)。戦争に行く人は「いってきます」と言うことで「必ず生きて帰ってきます」という誓いを、日本で見送る人は「いってらっしゃい」と言うことで、「無事に生きて帰ってきてください」という思いを込めていました。
でも、「行ってきます」と言わない人たちもいました。
「神風特攻隊」です。「神風特攻隊」は「行ってきます」とは言わずに「行きます」と言っていました。「行ってきます」と言うことができなかったのです。歴史を勉強して平和学習をしている6年生なら、その意味が分かると思います。
今週から「平和週間」が始まります。それぞれの学年で、戦争や命、平和について学習します。一生懸命、平和について考えてください。今、日本は平和です。戦争中は、「いってきます」が言えない人たちもいたのです。
当たり前に「いってきます」「ただいま」と言える日常に感謝して、一つ一つの言葉を大切に使ってほしいと思っています。12月も、笑顔輝く〇〇小学校でいられるように、みんなでいっしょにがんばっていきましょう! これで、校長先生の話を終わります。
話し方のコツとポイント解説
(※1)すぐに、子供たちから「いってきます」の答えが返ってくるはずです。子供たちとのやり取りは必要最低限にして、テンポよく進めていきます。テレビ朝会のような対面式でない場合も同様です。ここは変な間をあけずに、一気に次の話題に入ります。
(※2)答えが分かれると思います。少し、間をとって、じらした後に正解を発表しましょう。
(※3)「前回に話した“ありがとう”もそうですよね。言った方も言われた方もあったかい気持ちになるいい言葉を使うことで、みんながあったかい気持ちになりますよね」というように、前回の話と少し絡めるのも効果的です。
(※4)この時期に平和学習を行わない学校の場合、ここから「戦争中は、『いってきます』が言えない人もいたのです」までをカットしてもかまいません。また、平和学習の一環で話をするのなら、この部分をもう少し詳しく話すのもよいでしょう。学校、地域の実態に合わせてください。
私は、パワーポイントなどで、スライドショーを作って話をしています。「音声(言葉)+映像(文字・写真)」で、より多くの子に話の内容が伝わるようになります。全校朝会を運動場で行っているのでなければ、ぜひ、スライドショーを作成してください。子供たちの興味・関心もぐっと高まり、しっかり話を聞こうという姿勢になります。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
イラスト/イラストAC
【俵原正仁先生ご著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意