教員研修プラットフォーム「授業てらす」が生まれたワケ~創業者・星野達郎が目指す学校教育のHAPPYな未来とは~

教員のみなさん、はじめまして。星野達郎と申します。

私は2022年の4月に教員を退職し、教員研修プラットフォーム「授業てらす」を運営しています。「授業てらす」は現在、全国から500名の現役教師が参加し、共に学ぶ場になっています(2023年9月現在)。

今回は「みんなの教育技術」の場をお借りして、「授業てらす」がどうして生まれたのか、学校はどうしたらHAPPYになるのか、私のライフヒストリーとともにお伝えしたいと思います。学校教育の未来に希望を示すことができたら幸いです。

1.グアテマラでみた途上国の教育

大学卒業後、私は中米のグアテマラで2年間働きました。

日本とは地球を挟んで反対側にある、人口約1700万人の途上国です。

日本人ボランティアとして初めて赴任した県で、現地の授業を見て驚きました。公立小学校では、すべての学年でたし算・ひき算の筆算をやっていました。学年が上がるに連れて桁が増えていき、6年生では13桁同士のたし算・ひき算の問題を解いていきます。

2桁以上の筆算は仕組みが同じで、何桁になろうと計算の仕方が変わることはありません。これでは数学的な見方・考え方を育てることはできず、子どもの可能性は閉ざされたままです。

賄賂や児童労働が当たり前だった当時のグアテマラで、子どもの未来を照らすために教育が核になることを実感させられました。授業を通じて子どもの未来が切り拓かれていくイメージは、今も大切にしています。

2.日本の教師は質が高く、対話が無い

帰国後、青森県の小学校教員として6年間働きました。グアテマラ帰りの私にとって日本の教師の質の高さは驚きでした。教える技術が高く、集団を動かすための指示がとても上手でした。

しかし、違和感もありました。それは職員室に漂う閉塞感です。子どもや保護者、同僚への愚痴が飛び交う職員室も経験しました。これまで多くの職員室を見てきましたが、校内で教師が授業や教育について本音で語り合う姿をみることはほとんどありません。

日本の学校は、高い能力を持つ教師がその個性を発揮する機会が圧倒的に不足しています。それは教師のせいではなく、仕組みのせいなのです。この事実に気が付くまで、長い時間がかかりました。

3.学校で自分を出せない子どもたち

高学年で担任したある児童から言われた言葉は、今も忘れることはありません。

 「先生、あたし学校合わないんですよね……」

真面目で大人しいと言われていた彼女は、休み時間に独り読書をして過ごすようなお子さんでした。本当は明るくて、朗らかで、人懐っこい性格にも関わらず、学校では本来の姿を出せないでいたのです。彼女だけではありません。今、多くの子どもが、学校で好きな自分を出せずに苦しんでいます。

 教師として子どもに教えてもらったことは

「明るくない子どもなんていない」

「問題児なんていない」

ということです。

たったの一人として、暗い子ども、悪い子どもなんていないのです。

子どもが学校で自己開示・自己表現をできるようになるにはどうしたらいいのか。それが教師としての研究テーマとなり、人生の軸にもなっていきました。

4.新しい教育像を求めて校外に出た

能力を発揮できない教師、自分を出せない子ども、これは将来大変なことになると、教師になった2016年に思いました。学校は国民のほぼ全員が通う場所です。それがハッピーじゃないという事実は、国の未来に暗い影を落とすことになると感じたのです。

そこで、校外に学びの機会を求めました。学校教育を俯瞰的に見つめ直すことが重要だと考えたからです。海外に出たことで日本の文化や歴史の価値に気付いた経験が、ここで生きたように思います。

まず、地元の老舗旅館「新むつ旅館」のボランティアをしました。当時80歳の女将が「この旅館を守りたい」と熱く語る姿に心打たれ、手伝おうと決めました。約2年間、コロナ禍で経営が難しくなった旅館を女将と二人三脚で立て直しました。旅館の魅力を詰め込んだオリジナルポストカードを市の施設で販売することで、地元認知度が向上し、コロナ禍でも宿泊客が増えていきました。

次に、八戸学院短期大学部の幼児保育科と協働して、子どものあそび場「星のあそび塾」を立ち上げました。子育てを経験し、休日の子どもの遊び相手が親ばかりであること、子育てが親中心であることに課題意識をもち、地域で子どもを育てることに挑戦しました。結果は大盛況、多くの親子が笑顔になる居場所をつくることができました。

校外活動を通して、私は仕組みの大切さに気付いていくことになります。

オリジナルポストカードという仕組みをつくることで歴史文化財に地域民が触れやすくなること、あそび場をつくることで親子が笑顔になること。あらゆる問題は人のせいではなく、仕組みをつくることで解決できるのではないか。これが、今の事業に大きく繋がっていきます。

5.人を責めず、仕組みに向き合う

日本中の子どもと教師がハッピーになるためにはどうしたらよいのか。まずは、ハッピーな教室とそうでない教室を観察することからはじめました。その結果、「対話」と「子ども主体」の教室では、子どもも教師も楽しそうに過ごしていることが分かりました。

自分の意見を話し、互いの異なる主張を尊重し合う。対話が多い教室で子どもは自然と自己開示・自己表現ができるようになり、学びや挑戦、コミュニケーションを楽しむようになります。その姿をみた教師も、仕事が楽しくなります。

しかし、残念なことに、日本の教室では、1時間目から6時間目まで対話をせずに過ごす子どもも少なくありません。学校生活の大部分を占める授業を対話的で子ども主体にするにはどうしたらよいのか。これを仕組みからつくることが、私の使命だと決めました。

大切なことは、誰のせいにもしないことです。教師のせいでもなく、子どものせいでもなく、家庭のせいでも国や自治体のせいでもない。教室に「対話」や「子ども主体」の文化が定着しない負の仕組みを見つけ出し、それが行われるように善の仕組みにつくり変える。そうして生まれたのが、「授業てらす」です。

6.対話的で子ども主体の授業が教室をHAPPYにする

対話的で子ども主体の授業が全国の教室で行われるために、ブラックボックス化している教室や授業を開放する必要がありました。さらに、単に開放するだけに終わらせず、教師自身が、対話的で自分主体の学びに価値を見出せなければ持続可能な改革には繋がりません。大人ができなければ、子どもはできないのです。

そこで、「①みる、②本音で語り合う、③繋がる」という独自の授業改善メソッドをつくりました。シンプルですが、教育現場ではできないことです。

まず、一流教師の授業や子どもとの関わりをいつでもどこでも見られるようにしました。授業を変えるためには、目標となる授業イメージをもつことが不可欠です。想像できないことを人はできません。よりよい授業に手軽にアクセスできる環境をつくりたかったのです。

次に、本音で語り合う文化をつくりました。形式に逃げず、型にとらわれず、子ども観・教材観・指導観・人生観について本音をさらけだせる場にしたかったのです。授業てらすという名には、教師が授業を語れる中庭という意味が含まれています。

最後に、全国の学ぶ教師と繋がるコミュニティにしました。私自身が、青森県で志高い教師と出会いこの仕事を楽しいと心から思えることができました。人口減少で単学級が増えているなか、地域や学校の枠を超えて学び合う場が必要だと思ったのです。

7.現場の教師が主体となり世界をハッピーに

学習指導要領の中核をなす「主体性」は、英語の「Agency」から来ています。Agencyとは、「世界をハッピーにできると信じられること」だと私は定義しています。

日本財団によると、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた日本の若者は18.3%と、諸外国と比べ圧倒的に少ないのが現状です。それは、大人も同じではないでしょうか。

子どもと多く時間を過ごす教師が、国や社会を変えることができる!と信じられるようになれば、子どもたちもおのずとその背中から学ぶでしょう。

今、授業てらすと通じて全国の教師が繋がり、新しい実践や学び方、新しい教師のあり方が続々と生まれています。肩書や年齢に関係なく、対話を積み重ね、自分たちで教育をよりよいものにしようと日々変容をし続けています。

多くの教師と向き合ってきて分かったことは、子どもと授業に向き合う教師はこの国の希望だということです。現場が主体となり、国や社会を変えられると信じられるようになることが、この国の未来を照らすのだと私は信じています。

2023年8月に東京・六本木にて開催した公開イベント「磨け、授業力。ALL HAPPY」には全国から延べ約1000人(オンライン参加含む)の先生が参加した。

次回は私たちが「授業てらす」でどんなことをやっているか、より具体的にお伝えしたいと思います。お楽しみに!

執筆/星野達郎(元教師、教育起業家、株式会社NIJIN 代表取締役)
1990年生まれ。横浜市出身。ツアー添乗員、青年海外協力隊等を経て小学校の先生として6年間勤務。
子どもの不登校や先生の精神疾患など、現場で感じた教育課題から「全国の教室をHAPPYに」するために起業。授業てらす、学校CHLOOS、先生コーチ等の教育事業を展開。

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