便利な実験キット、ひと手間かけるだけで「理科の力」が身に付きます! 【理科の壺】
理科では、実際に子どもたちが体験することが重視されるため、子どもたち一人一人にしっかりと体験させられる実験キットは、とても有益です。しかしながら、子どもたちに、どのように実験キットと出合わせるかは、先生の意識によって大きく異なります。今回は、実験キットを単に渡すのではなく、どのような意識をもたせながら渡すのか、注目してみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/東京都公立小学校主任教諭・木月里美
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
実験キットは1度、箱や袋から出しましょう
便利な実験キット。電気の学習や空気と水の性質などで、利用される先生は多いのではないでしょうか。実験キットは一人一人が実験することを可能にし、使用後は持ち帰れる嬉しさもあります。
先生方は、その実験キット、どのように子どもたちに配っていますか? 教材屋さんから届いたときのまま、箱ごと、袋ごと、配っていませんか? それはとってももったいないですよ。
ちょっとひと手間かかってしまうのですが、その手間を惜しまなければ実験キットを有効に使って子どもたちの理科の力を伸ばすことができます。
「実験キットを配るよー。これは、1人1セット自分の物ですよ」なんて、箱や袋に入った実験キットを見せたら、たちまち子どもたちは「やったー!」と盛り上がるでしょう。
そして、実験キットを配ったら、「へー、こんなことできるんだ!」「これ作ってみたい!」「こんなのが入ってるよー」。そんな声が聞こえてきませんか? 子どもたちが目を輝かせていると、ついついこちらまで嬉しくなってしまいますが、ちょっと待ってください。今調べようとしていた実験のこと、そっちのけになっていませんか?
実験キットはとっても便利で魅力的です。子どもたちも先生も、説明書を見れば実験の方法もやり方がよく分かるように、丁寧に作られています。
でも、それって、子どもたちにこれから「調べたい!」と見出してほしいことまで、バラしてしまうことになりませんか?
例えば、これから100回巻のコイルを作るのに、実験キットの中には、すでに200回巻のコイルが入っているとか…。それでは、理科の資質・能力を育成することはできません。だからこそ、ひと手間かけて、実験キットの中身をバラして、子どもたちが「調べたい!」と見つけた問題に応じて必要な部品だけ配ってほしいのです。
事例1 4年 ~電流の働き~
今日は、暑いねー。暑いから先生、こんなの作ったんだ。(ミニ扇風機を出して動かす)あー、涼しい。
いいなー。
ずるーい。
ぼくの家にも、持ち歩ける扇風機あるよー。
実は、みんなの分の材料も用意してあります。
やったー
この扇風機を作るために必要な物、見つけられるかな。
プロペラ!
電池!
導線!
モーター!
じゃあ、みんなのいう材料を順番に配りますね。
と、いうように子どもたちから必要な物を出させてからその部品を配ります。モーターは、4年生で初めて出てくるので気が付かないこともあるかもしれません。そんなときは、あえてモーターは配らず、子どもたちからの「プロペラを動かす物がないとダメだよ」という言葉をぜひ引き出してから、配ってください。
事例2 4年 ~空気と水の性質~
今日は、こんなもの持ってきたよ。(空気でっぽうを見せる。ただし、筒の中身は見えないように筒を画用紙で覆っておく)棒でこの筒を押したらどうなると思う?(と言いながら、弾を飛ばす)
えーーー
わー、すごーい
やりたい! やりたい!
みんなの分も用意したよ。
やったー
何が必要かな。
発射する筒!
弾!
弾を押す棒!
じゃあ配りますね。(この時、あえて弾は1個しか配らない)
と、いうように私はこの単元を始めます。筒の中が見えないようにしておくことで、前弾と後弾の2つが必要なことは分からないようにしています。すると、弾を1個だけ配ったとき、子どもたちは「あれ? 先生みたいに飛ばないよ。なんでだろう?」となります。そして、誰かが気が付きます。「もう1個いるんじゃない?」と。そして、弾を増やしてあげます。こうすることで、この単元で大切な『空気を閉じ込める』ことに気付かせることができます。
どうですか。子どもたちの「探究したい!」気持ちが見えてきませんか。忙しい毎日ですが、ぜひ1度試してみてもらえたら嬉しいです。
最後に、留意点をお伝えします。実験キットは、私費で購入する学校が多いと思います。必ず最初に、数の不足や不備がないかを確認するようにしましょう。配った後は、名前を書かせるなどして、1人ずつチャック付のクリア袋などに入れておくと管理しやすいですよ。
学習の最後には、配り忘れのないように箱を含めた全ての材料を配付します。実験キットを効果的に使って、子どもたちと楽しい授業をつくってください。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
木月里美●きづき・さとみ 東京都公立小学校主任教諭。大学では理科専攻にて学び、卒業後は学級担任、理科専科を経験。教科書の編集委員として教科書作りに携わる。共著に「これからはじめる “GIGA” 全学年・全単元×1人1台端末×活用事例 小学校理科5・6年」(日本標準)、「小学校理科『フローチャート型』授業ガイド」(東洋館出版社)など。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。