子供の自殺対策 【わかる!教育ニュース#28】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第28回のテーマは「子供の自殺対策」です。
目次
子供の自殺対策に「1人1台端末」活用
自殺は個人の問題ではない。背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、社会全体で対策に取り組む。そう掲げた自殺対策基本法の施行から17年。近年、自殺者数自体は低下傾向ですが、自ら命を絶つ子どもは、むしろ増えています。
憂慮するべき事態に、政府の関係省庁連絡会議がこのほど「こどもの自殺対策緊急強化プラン」をまとめました(参照データ)。柱の一つは、国のGIGAスクール構想で1人1台配付した端末の活用です。子供に日々の心身の状態を端末で入力してもらい、自殺リスクを抱える子の発見につなげる案が掲げられました。
以前、子供が今の気持ちを「晴天」「雨」などの天気マークで端末に入力し、そのデータを基に教員が心の変調を把握する小学校を取材したことがあります。プランの案も、自殺に至る兆しを早いうちにつかみ、深刻な事態になる前に動くのが狙いです。今後、システムやマニュアルなどの整備を進め、全国の学校で展開していくことを目指します。
ただ、リスクの高い子を見付けても、適切な支援を届けなければ意味がありません。プランのもう一つの柱は、多職種の専門家チームの設置です。モデルは、長野県が2019年に設けた「子どもの自殺危機対応チーム」。精神科医や精神保健福祉士、弁護士、民間の支援団体などでつくるチームが、支援を必要とする人などに助言する仕組みです。同様の組織を各都道府県に設け、自殺未遂や自傷行為の経験があるなど、学校や市町村だけでは対応がむずかしいケースの支援をすることが唱えられました。
こども家庭庁、文部科学省、警察庁などで連絡会議を設置
警察庁や厚生労働省によると、22年に自ら命を絶った小中高校生は514人に上り、統計のある1980年以降最多でした。内訳は小学生が17人、中学生143人、高校生354人と、年齢が上がるにつれて増えています。家族の証言などから推測された原因には、学業不振や進路の悩みなど「学校問題」(281人)が、最も多く挙がりました。
そこで政府は4月、こども家庭庁を中心に、文部科学、厚労、警察などで関係省庁連絡会議を設置。自殺を防ぐ対策づくりに向け、計4回議論し、プランをつくり上げました。
これまで、子供の自殺に関するデータや情報は、各省庁や自治体、教育委員会などが別々にもっていました。基礎になる情報がバラバラでは、効きめのある対策を打つ以前に、対策自体を練るのもむずかしいものです。プランは、それぞれがもつ情報を集約して分析し、実態を解き明かす必要性にも触れました。
自殺は社会全体で向き合う問題とはいえ、子供たちを取り巻く環境は複雑になり、悩みや生きづらさの原因も多様化しています。SNSを介したトラブルやいじめ、家庭内の問題など、外に出にくいものが、自殺の根っこになっていることもあります。子供それぞれの状況や性格に沿った対処ができる体制づくりが、求められます。
参照データ
▽こどもの自殺対策緊急強化プラン(概要)
https://www.mext.go.jp/content/20230419-mxt_kyoiku02_000029047_02.pdf
【わかる! 教育ニュース】次回は、7月30日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子