私のChatGPT活用アイデア:漢字短文づくりで対決|中村優輝 先生(奈良県公立小学校)

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ChatGPTがもたらす教育パラダイムシフト
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ユーザーからの様々なリクエストに高度で自然な回答を返すAIサービス「ChatGPT」を、教育の現場でどのように扱ったらよいのか、教室での手探りの実践が始まっています。今回は奈良県の公立小学校教諭・中村優輝先生から届いた実践事例の紹介です。

実践報告/奈良県大和郡山市立平和小学校教諭・中村優輝

数年前タブレット端末が全国の学校に配布されました。当時、研修でこんな話をよく聞きました。

「タブレット端末やロイロノートなどのアプリを使うことが、目的になってはいけない。手段であるべき。」

タブレット端末が導入されてから数年。現在は、手段であることに納得できます。ですが、導入された当初は、私たち教員も子どもたちも未知の領域。「とりあえず使ってみよう」という私と似た考えの方もいらっしゃったのではないでしょうか。

私は、今回のChatGPTも同じように考えました。もちろんChatGPTを活用することによる懸念事項があることも知っています。そもそも学校教育に進んで取り入れるべきものかもわかりません。しかし、ITの普及やAIの発達が急激に発展し、将来の変化を予測することが困難といわれている時代だからこそ、子どもたちにChatGPTを体験してもらいたいと考えました。

今回は、小学校3年生国語科の漢字の学習でChatGPTを活用した実践を報告します。

単元について

単元名 漢字の広場

ねらい 
◯第3学年までに配当されている漢字を書き、文や文章の中で使うことができる。
◯間違いを正したり、相手や目的を意識した表現になっているかを確かめたりして、文や文章を整えることができる。

単元計画 
第0時 ChatGPTを体験しよう
第1時 教科書に記載されている、漢字の読み方や熟語の意味を確認する。
第2時 ChatGPT vs 活動班

2年生までに学習した漢字を使い、教科書の絵を見て、絵の内容を紹介する文や文章を書くという単元です。

第0時 ChatGPTを体験しよう

まずChatGPTを体験する時間をとりました。ChatGPTとはどのようなツールであるのかクラス全員で共有するため、そして第2時にむけて意欲を高めるためです。第0時の最後には、

今度、このChatGPTを使って勉強します。ChatGPT vs みなさんです。さてみなさんは、ChatGPTに勝つことができるのでしょうか。楽しみです。

と、あえて何の学習で活用するかは伝えずに予告をしました。

よっしゃー!

どんな勝負をするんだろう?

第1時 教科書に記載されている漢字の読み方や熟語の意味を確認する

続く第1時では、ChatGPTは活用せず教科書を使って学習を進めました。教科書に記載されている2年生までに学習した漢字を使い、教科書の絵を紹介するお話を個人で作り、クラス全体で共有しました。

そして次時の予告として

明日は、班対抗で、あるものと勝負してもらいます。

と伝えると、数人の子どもたちは、すぐに勝負の相手はChatGPTだと勘づいていました。子どもたちの意欲をひしひしと感じながら、第1時を終えました。

漢字で勝負、勝つぞ!

どんな勝負だろう?

絶対にChatGPTの方が漢字を知っているよね。

第2時 ChatGPT vs 活動班

「家、当、弓、谷、太」の全ての漢字を使って、一番短いお話をつくろう。

というテーマを設定しました。この5つの漢字は、前時に学習した教科書に記載されている漢字の中から、子どもたちが選びました。文字数を数え、一番短いお話をつくった班の勝利です。

例 私はサッカーが好きです。

句読点は数える。漢字はふりがなではなく、数えやすさを重視し、漢字の文字数で数えるため、上記は12文字とカウントします。

ChatGPTへのリクエストと回答は以下の通りです。

家、当、弓、谷、太の漢字をすべて使って、できるだけ短いお話をつくって
太い男が弓を持って家を出た。谷で狩りをしようとしたが、弓が当たらず、家に帰ることにした。

かなり短くまとめられています。数えてみると44文字でした。果たして、子どもたちはChatGPTに勝つことができたのでしょうか。

学習活動として、子どもたちは、最初に一人でお話を考えました。その後、班で一番短いお話をつくった代表者を選びました。

たくさんの班がChatGPTよりも短いお話をつくっていました。しかしお話ではなく文章になっている点は、子どもたちと別の時間に考えていきます。

授業の最後に、子どもたちの前で、もう一度ChatGPTに回答を求めました。ChatGPTの回答は以下の通りです。

家、当、弓、谷、太の漢字をすべて使って、25文字以下のお話をつくって
太い男、弓持ち谷へ。家へ当たらず。

ちゃんとお話になっている!

やっぱりChatGPTすごすぎる。

おわりに

今回は試行錯誤しながら、漢字の学習でChatGPTを活用しました。この学習活動は、ChatGPTを活用しなくても、私たち教員が文章を提示することで、担任 vs 活動班という学習でも成り立つなぁと実践しながら感じていたのが正直な気持ちです。しかし、ChatGPTを体験し、そして意欲的に学習に取り組むことができたという点では、効果的であったと感じています。

実は、『漢字の広場』の単元は、今年度の終わりまでに残り4回、計8時間あります。

「次もChatGPTと勝負する?」

と聞くと、多くの子どもたちから肯定的な反応がありました。『全ての漢字を使った一番短いお話をつくろう』というテーマは変更するかもしれませんが、次回以降も、子どもたちの意欲を引き出すことができるような学習を展開していきたいです。

執筆:中村優輝
奈良県公立小学校教諭。道徳科の授業づくりを中心に学び、「子どもと共に考え、共に本気で迷う授業」を目指して日々奮闘中。著書『内容項目から始めよう 直球で問いかける小学校道徳科授業づくり』(東洋館出版社)。「みんなの教育技術」(小学館)、『道徳教育』『授業力&学級経営力』(明治図書出版)などにも執筆。

講評コメント

講評/北海道公立小学校教諭・藤原友和

中村優輝先生の実践、とても興味深く拝見しました。小学3年生の子どもたちがノリノリでChatGPTに挑んでいく様子がとても生き生きと描かれていますね。「ChatGPTと勝負」だなんて、子どもたちはわくわくすること間違いなしですね!

ところで、中村先生の報告の末尾にはこのように書かれています。

この学習活動は、ChatGPTを活用しなくても、私たち教員が文章を提示することで、担任 vs 活動班という学習でも成り立つなぁと実践しながら感じていたのが正直な気持ちです。

なるほど。確かに活動を成立させるためにChatGPTが絶対に必要だったかといえば、中村先生ご自身がふり返っていらっしゃるように、必ずしも必要であるようには見受けられません。

しかし、それではなぜ、子どもたちとともにワクワクする時間をつくりだすことができたのでしょうか。そして、この学習をどのようにして「ChatGPTを使う必然性のある授業」につなげていけばよいのでしょうか。

この時間のChatGPTの使い方は、この一時間だけを見れば確かに必然性の薄いものに見えるかもしれませんが、「言葉が世界を作り出す」機能を実感するためのヒントが隠されているように思います。そしてそれは、詩の学習や物語の学習の中で生きてくるのではないでしょうか。

さて、まず「ワクワクの理由」を私なりに考えてみます。私は2つあるように思えました。

 ① 初めて触れるツールであること
 ② 「意外性」があること

①についてはわざわざ説明するまでもないですね。新しいものを教室に持ち込んだとき、それが社会科や理科の「ミニネタ」的なものであろうと、初めて使う国語辞典や漢和辞典であろうと、子どもたちは興味を示しますよね。ChatGPTという、(教師にとっても)未知のツールが目の前で動くことによって「なんだこれ?」と子どもの興味関心を引き出したと言えるでしょう。

②はChatGPTの特徴をよく反映したものと思います。ChatGPTは、事前に学習した大規模な言語モデルを参照して、妥当性が高そうな「続く言葉を予想する」仕組みです。ですが、まだまだ自然な日本語になりきれない場合が多々あります。

こうした特性は、(正しい文脈の文を作らせようとするならば)「人間が適否美醜を判断しなければならない」という制約にもなるということを意味します。しかし、今回のように「漢字の意味が合ってさえいれば、荒唐無稽な文章が出ても問題ない」場合には気にする必要はありません。しかも「なるべく短く」文章を書くという課題にすることによって、「ある状況を正しく説明する」という方向性は予め排除されています。

その結果、「漢字を正しく使っている文」と「漢字を正しく使っている文」が実に奇妙な繋がり方をすることで「ヘンテコなんだけど、あり得る文」が生まれます。そのヘンテコさを楽しむことができるChatGPTの使い方だなぁ、と思います。

これって、ただの言葉遊びであるようにみえて、発達の段階にとてもマッチした使い方ではないかな、と思いました。

詩人の川崎洋は、大人とは違う子どもの言語感覚に芸術的価値を認め、『こどもの詩』(文藝春秋、2000年)という少年詩集を刊行しています。川崎洋は子どもの詩について、「連想の豊かさ。大人の思いつかないイメージの跳躍力。常識や既成の考え方から離れ自由にはばたく」という感想を述べています。

ChatGPTがもたらす「普通は使わない使い方」は、もちろん想像力の発露のようなものではありません。あくまでもAIが吐き出した演算結果でしかないわけですが、「この言葉とこの言葉をこうやってつないでしまうんだ」という驚きをもたらす効果はありそうです。

このことは例えば、「夕日が背中を押してくる」(阪田寛夫「夕日がせなかをおしてくる」)や「まるで きりがみのように ゆうひを すこしずつ ちぎって」(野呂昶「ゆうひのてがみ」)といった詩的言語を受け取るための言語感覚を磨くことにつながっていくのではないでしょうか。

今後、中村先生は8時間あるという漢字の単元の中で「対決」していくとのことです。そこで生まれる「語と語の(意外性のある)組み合わせ」から広がる世界を、詩の学習につなげて、「言葉を楽しむ」「言葉を広げる」学習を展開していってほしいな、と思いました。

中村先生、素敵な実践報告をありがとうございました。

『みんなの教育技術』では「ChatGPT」を使った授業実践の事例レポートを募集します。ご寄稿いただける先生は、お問い合わせフォームより記事原稿のデータ(Word形式)をお送りください(編集部)※ご寄稿は掲載を保証するものではありません。

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