地域、行政をいかに上手に巻き込んでいくのか【グッとラクになる「学級づくり・授業づくり」第3回】

前回、前々回と保護者を巻き込みながら、子供の伴走者として共に教育に携わっていただくことが大切だということと、その具体的な方法についてのお話をしてきました。それは生活面だけでなく学習面においても同様で、その最たるものが総合的な学習の時間(以下、総合学習)だと私は思います。ちなみに、昨年度1年間、私は長期研修に出ていたのですが、その間、5年生の担任の先生と一緒にやらせていただいた総合学習で、保護者はもちろん、地域の方や専門家、行政を巻き込みながら地元の森についての学びを深めていきました。その過程をざっと紹介しながら、保護者、地域、専門家、行政を巻き込むことの意義についてお話ししていきます。

多様な専門家に出会うと、その計画を超えた学びが必ずある

本校がある野田市には、市内に8つの市民の森があるのですが、本校の校区内には2つの市民の森があります。その1つは市民の方によってきれいに手入れされ、管理されているのですが、柳沢西山市民の森という森はほとんど人の手が入っていませんでした。ただ、そこにはお社もあり、地域の方に聞くと、昔はとても大事にされていた場所だったそうです。例えば、「木さらい」といって落ち葉を掃いて、それを使ってご飯を炊いて食べたり、冬にはスキーをしたりと、地元の人たちの生活にも関わりが深い森だったのです。それが、何十年かの間にだんだんと関わりが薄れ、今や保護者の世代の方もそこがどのような場所なのか知らない状態になってしまっていました。そこで、その森について知り、どのような課題があるのか考え、その解決に向けて、地域にどのようなアクションを起こすのかといったことについて、私が全15回の授業を担当させてもらうことになったのです。

その学習では、まず森に出かけ、そこがどのような森かを調べたり、地域の方から学んだりするような活動をしていきました(写真1参照)。やがて学習がある程度進み、子供たちが森について詳しくなっていったところで、(そのときは私の学級ではなかったのでやりませんでしたが)もし私が担任している学級であれば、「今は絶対、この森のことについてはあなたたちのほうが家族よりも詳しくて賢いんだから、家で自慢しておいで」と話したことでしょう。そうすると、子供たちは嬉しそうに家庭で総合学習で学んだことを話しますし、それを聞いた保護者は、森についての関連記事や資料、あるいは昔の情報などを出してきてくださったことでしょう。それによって、さらに子供たちの学びも広がり、深まっていくわけです。

(写真1)まず森に出かけて現在の森の実態を知り、多様な活動を進めていく子供たち。
(写真1)まず森に出かけて現在の森の実態を知り、多様な活動を進めていく子供たち。

そう話したのは実際に先行実践があったからでした。実は2019年度、20年度に担任していた学級でSDGsに関連する学習をした時、まだSDGsが社会的には十分に認知されていなかったので、ある程度学習が進んだところで、「今、あなたたちのほうが詳しいんだから、家の人に説明して教えてあげて」と言ったのです。すると、子供たちから話を聞いた保護者の方々も興味をもってくださり、子供と一緒に探して、「牛乳パックにSDGsのことが載っていました」「こんな関連記事を見付けました」と言って、子供に多様な資料を持たせてくれたのでした。

ちなみに保護者側からの情報は、私と保護者との関係ができあがるに従って増えてくるので、年度当初よりも2学期に入る頃からのほうが多くなっていきます。つまり信頼関係が築かれることによって、生活面での子供の伴走者であると同様に、子供の学習面での伴走者にもなってくださるということです。

もちろん純粋に子供の学びを深める上でも、保護者の参画は重要だと思っています。保護者の方も一人一人が様々な仕事の専門家ですから、子供の学びに参加してもらい、専門分野の考えを入れてくだされば、総合学習の学びが広がり、かつ深まっていくと思います。

それと同時に、子供は総合学習では保護者も知らない実社会の課題について学んでいるわけですから、その分野では保護者を超えていけるのです。ですから、家に帰って「ドヤ顔」で話ができます。それは子供にとってはとても快感だし、もっともっと学ぼうとする意欲にもつながります。子供は保護者だけでなく、教師も簡単に超えていきますし、そういう子供のほうが将来にわたっても伸び続けていけると思います。ですから、学んだことはどんどん保護者に自慢したり説明したりするように、と話しています。つまり保護者に自慢や説明するということを通して、保護者を学びに巻き込んで学びの質を高めるとともに、子供の意欲も刺激していくわけです。

余談ですが、野田市には自然科学ライターのわぴちゃんという有名な方がいて、天気にも詳しい方なのですが、そういう方にも来ていただいたことで、子供のものを見る視点も変わったと思います。たまたま地域にすごい方がいたということなのですが、やはり、そういう地域の「本物」に出会うのは大切です。学校に来ていただくために多少の事務作業は必要にはなりますが、子供の学びには本当に生きていきます。

何よりそういう専門家と関わるのは教師である私自身も楽しいのです。そうやって、大人である教師が本気で楽しんで学ぶことも大事だと思います。もちろん単元を計画する上では、ある程度の基礎的な知識はもって準備するようにしています。しかし子供と共に探究し、多様な専門家に出会うと、その計画を超えた学びが必ずあるので、自分もそこから学ぶモデルになるようにしています。

「自分たちが大人を動かした」ということは、子供の大きな自信になる

総合学習を進める上では、保護者や地域、専門家とつながることが、子供の学びを広げ、深めることはもちろんなのですが、行政との関わりも大切です。行政には本当に多様な情報があり、それを活用しないのはもったいないと思います。

例えば昨年度、市民の森についての総合学習を通して、行政とのつながりができました。そして、今年度は「市民の森の伐採作業があって、本来は大人がするものなのですが、子供たちに体験をさせることができますか?」と、行政側から早速ご提案いただいたのです。「いや、それはむしろこちらからお願いしたい」ということなのですが、「伐採したナラの木でスプーンを作ることもできますよ」ということを後から言われるわけです。正直言えば、「昨年度の学習のときに言ってほしかった」というところもあるのですが、やはり行政の各部署にはそうした情報や予算があるので、そこを巻き込むことは大事だと思います。

結局、我々教師だけで考えてもその道の専門家ではありませんから、アイデアはそれほど広がらないことが多いです。その時に、行政のような情報の集まる場所、さらに専門家にもたくさん関わってもらえると、子供の学びの可能性はどんどん広がると思います。昨年度の実践では、途中で市の行政に協力していただいたわけですが、できれば計画段階から巻き込むことができれば、もっと多様な可能性が広がったかなとも思います。

ちなみに昨年度の総合学習では、学習の過程を通して、「森にゴミがあるので、クリーン活動をしよう」という話になりました。そこで、保護者や地域の方、さらには市長も参加してくださって、清掃活動を行っていきました。その後に、もっと森について知ってもらうために、子供たちが理想の森を描いて、協力してくださった方にプレゼンを通して発信したのです。その次の学習では、「活動に参加してくださった方以外の保護者や地域の方は、そもそも市民の森を知らないのでは?」という新たな課題から、「市民の森ポスター・写真展」というポスターと写真の展覧会という形で、地元公民館をお借りして行いました(その製作と発表は担任が担当)(写真2参照)。さらに、動画とパンフレットも作成して校内で発表しました。

(写真2)地元公民館で開催された「市民の森ポスター・写真展」の様子。森の美しさを伝える写真や、倒木が放置された池といった問題点を伝える写真など、多様な展示。
(写真2)地元公民館で開催された「市民の森ポスター・写真展」の様子。森の美しさを伝える写真や、倒木が放置された池といった問題点を伝える写真など、多様な展示。

このように子供が発信したことがきっかけになって、後に柳沢西山市民の森に市の財源から管理費を出してもらえることになったのです。実は野田市では、市長が各学校に来校してくださり、市政について話す会があるのですが、その時に子供たちが総合学習を通して気付いたことを市長に尋ねたのです。そこで、市民の森は市内に8か所あって、他の森には予算が付いていたり、しっかり管理されたりしているのに、なぜ柳沢西山市民の森は放置されているのかといった内容の質問をしました。おそらくはその質問や子供の活動が契機になって、市からその森に予算が付くようになったのではないかと思います。いずれにしても、これは子供たちにとって「自分たちが大人を動かした」ということで、大きな自信につながりました。

いずれにしても、先生自身も子供と共に学びながら、まず身近な保護者や地域からスタートし、多様な人を巻き込んでいくことで子供の学びは本当に大きく広がり深まっていきます。それによって、「自分たちが周囲の大人を動かした」という体験は、主体的に地域行政に参画する市民の育成という意味でも大きいものだと思っています。

【グッとラクになる「学級づくり・授業づくり」】次回は、月25日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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