「夜間中学」とは?【知っておきたい教育用語】
公立中学校の夜間学級を意味する、夜間中学。学び直しの場として期待され、注目を集めています。
執筆/文京学院大学外国語学部教授・小泉博明
目次
「夜間中学」とは
山田洋次監督の映画『学校』(1993年公開)は、幅広い年代の生徒が集まる夜間中学を舞台にした作品で、公開から30年も経ていますが、この作品を通して夜間中学の実態が知られるようになりました。時代背景等を考慮するならば、今なおこの作品のテーマは色あせていません。
夜間中学とは公立中学校の夜間学級のことで、中学校のうち、夜の時間帯に授業が行われる学級のことです。夜間中学は、戦後の混乱期の中で義務教育を修了できなかった人や、様々な理由から本国で義務教育を修了せずに日本で生活を始めた外国籍の人、最近では、中学校を卒業していても不登校などの理由で中学校に十分に通学できなかった生徒の「学び直しの場」として期待されています。
2016(平成28)年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立し、同法第14条において、全ての地方公共団体に、夜間中学における就学機会の提供等の措置を講ずることが義務付けられました。各自治体においては、夜間中学の新たな設置や、いわゆる自主夜間中学等における学習活動への支援などが求められています。なお、自主夜間中学とは、民間ボランティアの人たちの協力を得て、教育委員会や任意団体が実施するものですが、中学校の卒業証書はもらえません。
どんな授業や学校生活なのか
政府広報の資料によれば、夜間中学に通う生徒は、年齢、国籍などによる生活経験や学力も一人一人が異なるので、その実態に応じた多様な工夫をした教育が行われています。例えば、習熟度によるクラス編成や、複数の教員によるチーム・ティーチング等の指導を行っています。
原則週5日間、3年間通うことになりますが、中学校の途中まで学習していた場合には、2年以上の学年に入学する場合もあります。授業時間は平日の夕方から夜にかけて1日4時間程度で、授業以外に学級活動、清掃の時間、また運動会や文化祭、遠足、修学旅行などの年間行事もあり、給食がある学校もあります。
教科書も昼間学級と同様に文部科学省検定済教科書を使用し、卒業の際には卒業証書が授与されます。教員も公立中学校の教員ですが、日本語指導の教員や通訳の人の協力で、より充実した取組を行っている学校もあります。授業料や教科書は無償ですが、一部の教材費や給食費、遠足や修学旅行等の費用が必要になる場合があります。
どんな人が学んでいるのか
全国の夜間中学で学ぶ1,687人(2017年7月時点)を年齢別にみると、通常の学齢を過ぎた人で、60歳以上の生徒が456人(27.0%)、15~19歳の生徒が342人(20.3%)です。卒業後の進路は、「高等学校への進学」(約45%)が最多で、「就職(従来からの就職者を含む)」(約17%)となっています。中学校卒業資格を得れば、職業訓練校に入り就職に役立つ知識を学んだり、調理師や介護福祉士などの国家資格の取得を目指したりすることも可能です。夜間中学の設置状況は15都道府県に40校(2022年10月時点)で、これからも新たな設置が検討されています。
なお、中学校を卒業していない人で、学びたいという意欲があれば、何歳でも入学を申請できます。また、不登校や虐待等の様々な事情から、実質的に十分な教育を受けられないまま学校の配慮により卒業した人が中学校で学び直すことを希望した場合、ほとんどの夜間中学で入学が可能です。政府広報のラジオCMでも「夜間中学を知っていますか」と呼び掛けています。
▼参考資料
映画:『学校』山田洋次監督、松竹配給(1993年公開)
政府広報オンライン(ウェブサイト):「さまざまな事情により、中学校で勉強することができなかった人へ 「夜間中学」を知っていますか?」令和2年(2020年6月9日)
文部科学省(ウェブサイト):「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(平成28年12月)
文部科学省(ウェブサイト):「義務教育修了者が中学校夜間学級への再入学を希望した場合の対応に関する考え方について(通知)」(平成27年7月)
文部科学省(PDF):「平成29年度夜間中学等に関する実態調査」(平成29年7月)
文部科学省(PDF):「夜間中学の設置促進・充実に向けて【手引】第2次改訂版」(平成30年7月)