【相談募集中】いじめ対応について、学校がやるべきことを教えてください
いじめが起こってしまったとき、学校がやるべきこととは。「みん教相談室」に届いた相談への回答として、元公立小学校教諭で上級教育カウンセラーの八巻寛治先生が、いじめの問題について解説し、教師ができることについてアドバイスします。
目次
Q.学校ができる、いじめの対応について教えてください
男子児童が不登校になりました。押されたり、引っ張ったりなどの身体接触が苦痛だったそうです。加害児童たちは、日常的なじゃれあいの一環で、その子に特に圧力をかけていたわけではないと言います。被害者児童の親が、加害者側の児童や保護者の謝罪を一切受け付けず、一生許さない、の一点張りで、解決に向かいません。学校ができること、やるべきこと、できないことを教えてください。(ももも先生・50代女性)
A.”社会全体の課題”として、とらえ方を変える必要があります
これまでのいじめ対応
ももも先生のお気持ちは、筆者も学級担任をしていたので痛いほど分かります。
このようなケースの場合、被害児童の苦痛に比べて加害児童の子供たちは、普段の何気ないかかわりや関係性の構築の意味でふざけていた程度の認識でおり、いじめではないと思っているため、意識の差が生じていますよね。
これまでの生徒指導(教育相談)の視点では、ももも先生のように、いじめが起きた場合の対応の基本として、「いじめられた子ども」「いじめた子ども」それぞれ双方の言い分を丁寧に聞いた上で互いの誤解やとらえ方の違いを確認し、過剰であった場合やいじめであると認知した場合は、謝罪をして解決・解消していました。“謝罪”は、当該児童や保護者に向けての一種のけじめの一つとして理解され、解決に向かっていました。
生徒指導に関する動向
近年、児童生徒によるいじめを原因とした自死事件が後を絶たず、その悲劇を繰り返さないために、いじめに関する法律や基本法が改訂されました。
2022年12月に発表されたばかりの『生徒指導提要(改訂版)』のまえがきでは、次のように述べられています。
生徒指導上の課題が深刻になる中、何よりも子供たちの命を守ることが重要であり、全ての子供たちに対して、学校が安心して楽しく通える魅力ある環境となるよう学校関係者が一丸となって取り組まなければなりません。その際、事案に応じて、学校だけでなく、家庭や専門性のある関係機関、地域などの協力を得ながら、社会全体で子供たちの成長・発達に向け包括的に支援していくことが必要です。
生徒指導提要(改訂版)
要約すると次のようになるでしょうか。
“チーム学校”として組織で対応する
- 生徒指導の事案については、担任一人ではなく学校関係者が組織的にかかわる。
- 家庭や専門性のある関係機関、地域等の協力を得ながら包括的に支援していく。
“チーム学校”として組織でかかわること、そして、生徒指導の課題は学校・学級の課題から社会の課題へととらえ方を変えることが求められているのです。
いじめに関する動向
さらに、いじめの問題に関しては、平成29年に、『いじめの防止等のための基本的な方針』の改定とともに、改めて学校のいじめ対応の基本的な在り方が『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』として示されました。
重点事項をまとめると、次のようになります。
- けんかやふざけ合いであっても、見えないところで被害が発生している場合もあることから、丁寧に調査した上でいじめに当たるか否かを判断する。
- いじめは、単に謝罪をもって安易に「解消」とすることはできない。
- いじめが解消している状態とは、
①被害者に対する心理的又は物理的な影響を与える行為が止んでいる状態が相当の期間(3か月が目安)継続している。
②被害者が心身の苦痛を受けていない(本人や保護者の面談等で、心身の苦痛を感じていないかどうかを確認する)。
この2つの要件が満たされていることを指す。 - 教職員がいじめに関する情報を抱え込み、対策組織に報告を行わないことは法第23条第1項に違反し得ることから、教職員間での情報共有を徹底する。
- 学校は、いじめ防止の取組内容を基本方針やホームページなどで公開することに加え、児童生徒や保護者に対して年度当初や入学時に必ず説明する。
これらを踏まえると、いじめの事案が発生した際には、次のことを認識して対応に当たらなければならないということになります。
いじめの認識を変え、学校全体で対応する
- けんかやふざけ合いであっても、丁寧に調査した上でいじめに当たるか否かを判断する。
- いじめは、単に謝罪をもって安易に「解消」とすることはできない。
- いじめが解消しているかどうかの状態を確認する。
いじめにおける「重大事態」かどうかで対応の仕方が分かれる
いじめの兆候が見られたら、一般的には次のような手順で対応することが求められることになります。
- 正確な実態把握
- 指導体制、方針決定
- 子供への指導・支援、保護者との連携
- その後のサポート
この流れの中でも、「いじめの重大事態」に該当するかどうかで、教師が対応すべきことは大きく変わります。いじめの重大事態とは、『いじめ防止対策推進法』第28条第1項において、次のように定義されています。
いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
いじめ防止対策推進法 第28条第1項第1号
(「生命心身財産重大事態」という。『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』)
いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
いじめ防止対策推進法 第28条第1項第2号
(「不登校重大事態」という。『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』)
※被害児童生徒や保護者から「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったときを含む。
法第28条第1項は、いじめに関する一定の事態を「重大事態」と定め、重大事態への対処と、当該重大事態と同種の事態の今後の発生を防止するためにすべきことを規定しています。なお、各号における「~と認めるとき。」の主体は学校の設置者又はその設置する学校となります。
「いじめの存在」か「いじめとの因果関係」について、「疑い」があれば重大事態となります。
具体的にやるべきこと
いじめが起きた場合に学校がやるべき対応としては、「いじめられた子ども」「いじめた子ども」にプラスして、「保護者」「周りの子どもたち」への支援も必要になります。
いじめへの対応は、大きく以下の2つがポイントとなります。
- 日常的な児童生徒の観察や定期的な面談・アンケートにより、早期発見に努力する。
- 学級担任等が抱え込まず、「学校いじめ対策組織」で迅速かつ的確に対応する。
いじめは、どの児童生徒にも、どの学校でも起こり得るものであり、事案によっては重大事態に至るおそれがあることを常に意識して、対応に当たることが求められます。
①いじめられた子どもに対して
- 事実確認とともに、まず、今のつらい気持ちを受け入れ、共感することで心の安定を図ります。
- 「最後まで守り抜くこと」「秘密を守ること」を伝えます。
- 学校全体で組織的に解決していく姿勢を伝えます。
- 自信を持たせる言葉をかけるなど、自尊感情を高めるよう配慮します。
②いじめた子どもに対して
- いじめた気持ちや状況などについて十分に聴き、子どもの背景にも目を向け、成長支援という観点を持ちながら指導します。
- 心理的な孤立感・疎外感を与えないようにするなど、一定の教育的配慮のもと、毅然とした態度で粘り強い指導を行い、いじめが人として決して許されない行為であることや、いじめられる側の気持ちを認識させます。
③保護者に対して
- (加害者側へ)正確な事実関係を説明し、いじめられた子どもや保護者のつらく悲しい気持ちを伝え、よりよい解決を図ろうとする思いを伝えます。
- (加害者側へ)「いじめは決して許されない行為である」という毅然とした態度を示し、事の重大さを認識させ、家庭での指導を依頼します。
- (加害者側へ)子どもの変容を図るために、今後のかかわり方などを一緒に考え、具体的な助言をするなど連携を図り支援します。
- 発見したその日のうちに、家庭訪問等で保護者に面談し、事実関係を伝えます。
- 学校の指導方針を伝え、今後の対応について協議します。
- 保護者のつらい気持ちや不安な気持ちを共感的に受け止めます。
- 継続して家庭と連携を取りながら、解決に向かって取り組むことを伝えます。
- 家庭で子どもの変化に注意してもらい、どんな些細なことでも相談するよう伝えます。
④周りの子どもたちに対して
- 「いじめは人間として絶対に許されない」という意識を、一人一人の児童生徒に徹底させなければなりません。いじめをはやし立てたり傍観したりする行為もいじめる行為と同様に許されないという認識、また、いじめを大人に伝えることは正しい行為であるという認識を、児童生徒に持たせます。
- いじめられる児童生徒や、いじめを告げたことによっていじめられるおそれがあると考えている児童生徒を徹底して守り通すということを、教職員が、言葉と態度で示します。特に、いじめられている場合には、友人・教師・親に必ず相談するようにすること(まして、自分を傷つけたり、死を選んだりすることは絶対にあってはならないこと)を、メッセージとして伝えます。
学校ができること、できないこと
これまでの説明のように、学校がやらなければならないのは、いじめを受けた側・いじめた側の児童生徒・保護者に対する支援・指導・助言等は、関係者の連携の下、適切に行われるように努めることです。地域も含めた社会総がかりでいじめの防止を目指す上では、学校だけで抱え込まずに、地域の力を借り、医療、福祉、司法などの関係機関とつながることが重要です。いじめに関する事象の発生を把握した際には、迅速に対応し、必要に応じて関係機関等との連携が図れるように、日頃から顔の見える関係をつくっておくことが大切です。各学校の「学校運営協議会」や地方公共団体に設置される「いじめ問題対策連絡協議会」などが、そのような場として機能することが期待されます。
学校ができることは、これまでのように、日常的な児童生徒の観察や定期的な面談・アンケートにより早期発見に努力することと同時に、児童生徒同士がリレーションを促進できるような取組(構成的グループエンカウンター等)を行うこと。さらに、いじめ防止につながる、次のような発達支持的生徒指導を実践することで、児童生徒が、「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」ができる人権感覚を身に付けられるようにすることです。
- 「多様性に配慮し、均質化のみに走らない」学校づくりを目指す。
- 児童生徒の間での人間関係が固定されることなく、対等で自由な人間関係が築かれるようにする。
- 「困った、助けて」と言えるように適切な援助希求を促す。
いじめる心理から考える未然防止教育の取組も、今後求められることになると思われます。
ももも先生がやるべきこと
ももも先生の動きとしては、次のようになるかと思います。
- 正確な実態把握
日常的な児童生徒の観察、アンケートなど。 - 指導体制、方針決定
“ケース会議”や“学校いじめ対策組織”を開いてもらい、対応について検討してもらうようにする。指導方針を決める。 - 子供への指導・支援、保護者との連携
指導方針をもとに、誰がどのように対応するかの見通しを持ってから、それぞれの児童や保護者にかかわる。 - その後のサポート
いじめが解消している状態となるまでサポートする。
不登校の子どもとのコミュニケーション
もももさんのケースの場合はいじめから不登校になったということですが、いじめを受けたお子さんが「不登校」であるということなので、不登校の子どもとどのようにコミュニケーションをとっていくのか、という点で対応に配慮するポイントを紹介させていただきます。
前提としては「お子さんがどうしたいのか本人の意思を尊重すること」で、主に次の3点で、ケースによる対応が大切です。
- 「いじめが解決すればまた学校に通いたい」
- 「今の学校には通いたくない」
- 「今は休みたい・学校に行きたくない」
1 「いじめが解決すればまた学校に通いたい」場合
いじめ問題について本人や保護者が納得し、解決すれば在籍校に通い続けたい、という気持ちがある場合(くれぐれも謝罪することで解決したとしないこと)、保護者から連絡したいと思える学校関係者(担任・学年主任・教頭・副校長・養護教諭・SC等)に家庭訪問や電話連絡などで相談してもらいます。
お子さんが安心して学校に通える環境を整えることを前提に、チームとして対応し、配慮することを検討し、保護者に打診し了解を得ます。
例としては、いじめた子と接点を持たない配慮(別室に移動)、クラス替え等の配慮、保健室登校や別室登校、放課後登校の配慮や授業サポーターをつける等、できるだけ具体的な対策を取っていきます。
学校には「いじめ防止対策推進法」により、いじめを防止するために必要な措置を取ることが求められています。学校に安全配慮、動静把握、防止措置等の義務を認めた裁判例もあります。
その後も、継続的に状況を伝える必要(法律に定められている報告義務)がありますので、保護者との信頼関係を保つ必要があります。お勧めは次の4つです。
- 面談は複数人で行うこと:「言った言わない」を避けるため。
- 相手の話を聴く(訊く)姿勢で接する:様々な質問技法を用いて、相手のリクエストが何かを聞き、本音を語ってもらう。
- お子さんがケガをされているような場合は、学校として「学校事故報告書」を作成しているので、保護者にも共有し、意見をもらい、必要な場合は修正をする:個人情報保護条例により開示請求が可能なので、教育委員会とも相談し対応を確認する。
- 担任としてお子さんと連絡を取ってもよいかを確認した上で、学級の様子や学校の出来事等をさりげなく伝え、オンラインでの授業参加など、工夫して関係性を維持する:関わられ過ぎることへの抵抗や無視されているのではという疑念を持たれないようにするため。
2 「今の学校には通いたくない」場合
極力①の対応をお勧めしながらも、もし今の学校には通いたくないという場合は、転校も視野に入れて対応する必要があります。学区外や区域外の就学になりますので、教育委員会を通して学校指定の変更を行う必要があります(学校教育法施行令第8条)。
ただ、その後在籍校に戻るというケースも見受けられますので、保護者とは定期的に連絡を取り合うことをお勧めします。
3 「今は休みたい・学校に行きたくない」
「今は休みたい」と主張する場合も想定されます。憲法にも記載のあるとおり、学校に通うことは子どもの義務ではなく権利(憲法26条1項)ですので、無理に通学を促すことはできません。
また、教育を受ける機会は「学校」だけに限られているわけではありません。
適応指導教室や不登校特例校(公立・私立)、民間のフリースクールへ通うことも可能です。このような機関を利用する場合であっても、一定条件を満たしていれば学校への出席と同等とみなされ、交通機関を使用する場合は補助が出る場合もあります(教育機会確保法)。
この様に、いじめの関係で不登校になったお子さんの場合は、相当のダメージ(心的・肉体的)があることを踏まえたうえで、まずは本人の安心・安全の心理を優先にし、対応策を考えて、お子さんや保護者とは「つかず離れず」の関係で関わることをお勧めいたします。
いじめや不登校の問題は、社会全体の課題です。決して学級担任一人で抱え込まず、“チーム学校”として対応にあたるようにしてください。
みん教相談室では、現場をよく知る教育技術協力者の先生や、各部門の専門家の方が、教育現場で日々奮闘する相談者様のお悩みに答えてくれています。ぜひ、お気軽にご相談ください。