根拠のある予想や仮説を発想しやすくするための準備をしよう! 【理科の壺】
「予想」と聞くと、子どもからはあれこれと「○○だと思う」と意見が出ます。しかし、ただ勘で言っているだけかも知れませんし、その発言の自信度もわかりません。理科では、より確からしい結果を導くために問題解決をしています。そのため、理科での「予想」は可能な限り根拠をつけることが求められます。第4学年では、根拠を含めた予想が子ども自身でできるのかどうかで思考力の観点の評価をします。場当たり的に子どもに聞いても根拠ある予想はできません。では、どのようなことに留意したらよいのでしょうか。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校主幹教諭・岩本 俊
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1 予想や仮説の「根拠」は何をもって根拠とする?
本時の学習問題が決まって、子どもたちに予想を書かせる際に、「予想」と「その根拠」をセットで書くことになっていますが、その際、手が止まってしまう子どもはいませんか?そのような子どもにどんな支援をしたらよいか、先生はどんな準備をしたらよいかご紹介します。
「○○だと思う。なぜならば、○○だから」や「○○だから、○○だと思う」のように予想を書く際に、子どもたちが予想の根拠とすることは、大きく分けて
①学習経験(学習を通して身についた知識など)
②生活経験(普段の生活の中で経験していること)
の2つです。
これら根拠となりうる2つの経験を学習に結びつけ、子どもたちが根拠のある予想や仮説を発想するためには、子どもたちがどんな経験をしていて、どんなことを知っているか、先生が確認し、把握していることが大切です。
今回は、4年生で多く学習する「空気・水・金属」についての学習、「とじこめた空気や水」「ものの温度と体積」「ものの温まり方」という単元を例に、根拠のある予想や仮説を発想するために先生が整理し、想定しておくと良いことについて紹介します。
2 子どもの「学習経験」を事前に整理する
新しく学習を始める時に、根拠のある予想や仮説を発想するためには、子どもたちがどんな経験をしていて、どんなことを知っているか、確認することが大切です。4年生は、空気・水・金属について学習する単元が多くあります。「とじこめた空気や水」「ものの温度と体積」「ものの温まり方」という単元です。例えば、「ものの温まり方」を学習する際には、「とじこめた空気や水」で学習した経験が予想の根拠となることが考えられます。
例1:「ものの温度と体積」学習前に「とじこめた空気や水」について対話する
空気や水について、今まで学習したことで知っていることはなにかありますか?
空気は、見えないけど、つかまえると押し縮めることができるよ。
水は押し縮める事はできなかったよ。
水は見えるけど、手でつかむのは難しい。
水も空気も入れ物がないと捕まえることができないね。
例2:「ものの温まり方」学習前に、ワークシートでこれまでの学習をふり返る
例1のように、先生との対話を通して学習を想起したり、例2のようにワークシートなどで、過去に学習したことを思い出す時間を設定したりすることで、子どもが学習経験と今の学びとを結びつけて考えることができるようにしましょう。
3 「子どもの生活経験」や「先生の生活経験」を事前に整理する
例3:「ものの温度と体積の学習」前に、子どもの生活上での経験を想定しておく
<経験>
●ペットボトルを冷蔵庫から出しておいたら、ふくらんでいた経験。
●お湯をわかしたら、増えているということを見た経験。
●冷蔵庫にペットボトルを入れて冷やしたら減っているのを見た経験。
●お風呂のお湯は、ぬるくなったら減って、温め直したら増えるというのを見た経験。
●温めたフライパンが大きくなるというのを見た経験。
例3のように、子どもたちが、これまで生活する中で経験したことがありそうなことを想定し、子どもたちの予想と結びつけるようにします。最初は教師が意図的に対話を進め、この予想と生活経験とを結びつける思考訓練をしていきましょう。例4にて、意図的に予想と生活経験を結びつける対話を紹介します。
例4:意図的に予想と生活経験を結びつける対話
水は、空気と同じように、温度を変えると体積が変わると思います。
生活の中で、水の温度を変えて体積が変わったところを見たことがありますか?
例えば……お風呂を温めたら、水が増えるのかな?
お風呂のお湯が増えるのは、見たことがないから、空気とは違って、目には見えないくらい体積が変わると思います。
もし水が増えるなら、お湯をわかしたら溢れてしまうことになるよ。そんなの見たことないから、変化はないんじゃないかな。
空気のようには、変化しないと考えているんだね。
少ししか変化しないとなると、ただ見ただけじゃ分からないかもしれないね。
例4のように、予想と生活経験を結びつけることで、自分の予想の根拠を再度考えることにつながります。また、最後の子どもの発言のように、少しの変化を見ようと実験で確かめることの視点がはっきりします。そうでないと、水や金属の体積変化は、空気のように大きな体積変化がなく、見えにくいので、「変化しない」と結果をまとめてしまうかもしれません。予想の根拠をはっきりさせることは、実験で確かめることの視点を定めることにもつながります。
例5:「ものの温まり方」の前に想定した、予想と結び付けられそうな子どもの生活経験
●ストーブの近くは温かいけれど、横よりも上のほうが、より温かくなる経験。
●学校の中で階が上がるほど暖かく感じた経験。
●サウナに入ると階段があって上の方が暑いという経験。
●焼肉をしたときに、焼けた肉を網のはじに置く経験。
●プールに入るときに、水面のあたりでは温かく感じたが、体がすべて水の中に入ると、底のほうは冷たかったという経験。
●お風呂を沸かしたとき、上の方から温かくなっていく経験。
例5のように、生活経験を先生があらかじめ整理しておくことで、学習経験に生活経験という根拠を結びつけることができるようになります。最初から子ども同士や、子ども自身で結びつけることができればなおいいですが、そうでない場合が多いと思います。思考訓練が進めば、自発的にできるようになってきます。
先生が子どもの思考について根拠ある予想をして、単元の学習に入れると良いですね。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
岩本 俊●いわもと・しゅん 横浜市立本郷小学校主幹教諭。同校研究推進委員長・横浜市教育課程研究委員(理科)・横浜市小学校理科研究会役員など、理科教育の推進に携わっている。
著書に「実践指導細案」(大日本図書)等がある。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。