「給特法」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、見直しの議論が活発化している「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」。その成立の経緯や、問題とされている点について解説します。
執筆/茨城大学大学院教育学研究科教授・加藤崇英
目次
給特法成立の経緯
第二次大戦後、わが国において新たな学校制度のもとで教育が始まると、まもなく、公立学校における教員の労務管理上の課題が明らかとなっていきます。その一つに給与と勤務時間の関係がありました。つまり、公立学校の教員の給与と勤務時間については、一方では労働基準法に照らして時間外勤務手当を支給するという考え方を適用するのか、あるいは他方では教育公務員特例法に照らして教育公務員に時間外手当を支給しないこと(同時にそれは国立学校の教育公務員給与の考え方に準拠するということ)という考え方を適用するのかという、それぞれの取扱いの違い、いわばそうした矛盾の間に置かれていました。そして教員の超過勤務が大きな問題となるにしたがって、この給与と勤務時間の関係も大きな議論を呼ぶようになっていきました。
その後、当時の文部省は、1966年に全国的な教員勤務状況調査を実施します。その結果から、教員について月平均で約8時間の時間外労働を行っていると捉えることとしました。この調査結果を踏まえて、1971年に国公立学校の教員に対し、俸給月額の4%相当の「教職調整額」を支給することとしました。これは1972年度(昭和47年度)から適用されました。なお、その当時の法律は「国立及び公立学校の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置法」であり、現在は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」です。この法律を略称として「給特法」と呼んでいます。
教員の勤務条件と「教職調整額」
給特法では、教員の「職務」と「勤務態様の特殊性」に基づき、勤務条件を定めるとしています。つまり、教員の勤務については、勤務時間内・外を問わず、また、労働基準法における時間外勤務・休日勤務手当の制度を適用せずに、「教職調整額」を支給するという仕組みです。
公立の教育公務員に時間外勤務を命ずる場合は、以下に掲げる公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令で定められている業務(いわゆる「超勤4項目」)に従事する場合であって、臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限られるとされます。
超勤4項目
1.校外実習その他生徒の実習に関する業務
2.修学旅行その他学校の行事に関する業務
3.職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
4.非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務
しかし、いわゆる「教員の多忙化」が大きな問題として取り上げられるなど、実際には、教員の業務はとても勤務時間内には収まり切らない状況が学校現場において続いてきたことは周知の通りです。ですが、法律の解釈では、つまり「超勤4項目」に該当しない業務を時間外に行った場合は、そのような業務は、校長の職務命令によらない「教員の自発性、創造性に基づく勤務」とみなされてしまうことになります。
給特法の法規定と関わって、勤務時間についてはこうした運用をしてきたために、教員が勤務時間を超えてさまざまな業務にあたってきたものについては、教員が自主的に従事しているものとみなされてきました。よって、超過勤務として行っている教員の業務については、それは学校が組織として必要なものとしてやむなくやっている仕事なのか、あるいは自主的に自発的にやっているものなのか、それらの区別があいまいなまま、超過勤務という実態がいわば常態化してしまった学校があったことは否定できません。
給特法見直しの論議
労務管理上は、設置者である教育委員会や教職員の管理を任されている学校長には、教員の勤務時間を適切に把握し、管理する責任がありますが、これまで述べてきた経緯もあり、必ずしも厳密に勤務時間管理をおこなうことの意識が強くなかったことが指摘できます。しかし、周知のように、今般の「働き方改革」の流れにあって、長時間労働の是正や超過勤務時間の削減が喫緊の課題となってきました。
こうした流れのなかで議論も活発に行われてきましたが、そのなかでも特に文部科学大臣から諮問を受けた中央教育審議会では「学校における働き方改革特別部会」を設置し、多くの議論が積み重ねられました。そして、そこでの議論などを踏まえるかたちで、中央教育審議会が答申を示しました。
そこでは、給特法に関して、次のような指摘がなされています。
給特法を見直した上で、36協定の締結や超勤4項目以外の「自発的勤務」も含む労働時間の上限設定、すべての校内勤務に対する時間外勤務手当などの支払を原則とすることから働き方改革の議論を始めるべきとの認識が示された。
中央教育審議会「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」平成31年1月25日、45頁-46頁より抜粋
他方で、こうした意見に対し次のような指摘も見られます。
教師の職務の本質を踏まえると、教育の成果は必ずしも勤務時間の長さのみに基づくものではないのではないか、また、給特法だけではなく、学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法(以下「人確法」という。)によっても形作られている教師の給与制度も考慮した場合、必ずしも教師の処遇改善につながらないのではないかとの懸念が示された。
中央教育審議会「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」平成31年1月25日、46頁より抜粋
これらの議論もあり、「勤務時間の内外を問わず包括的に評価して教職調整額を支給し、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとする仕組みも含めた給特法の基本的な枠組みを前提」とした上で、「学校における働き方改革を確実に実施する仕組みを確立し成果を出すことが求められる」と指摘されました。
しかし、併せて、「教職調整額の水準については、現在の勤務実態を追認することなく、学校における働き方改革を確実に実施し、その成果を踏まえつつ、必要に応じ中長期的な課題として検討すべきである」と指摘されました。
その後も、文部科学大臣が「給特法等の法制的な枠組みを含めた処遇の在り方を検討する」(定例会見、令和4年11月18日)と述べたり、また、文部科学省において有識者会議「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」(第1回、令和4年12月20日)を設けるなど、検討の動きが見られます。いずれにしても、令和4年度「公立小学校・中学校等教員勤務実態調査」など、今後、報告される調査結果などとともに、引き続き検討がなされていくと思われます。
▼参考資料
中央教育審議会(PDF)「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」平成31年1月25日