【相談募集中】児童への指導が体罰になっていないか不安です

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先生のための個別相談サービス【みん教相談室】相談&回答一覧

特別支援学級を担任している先生から「みん教相談室」に相談が寄せられました。他害児童への指導に力が入ってしまい、体罰に当たらないか悩んでいるそうです。これに回答をくれたのは、武道家の廣木道心先生。ご自身の経験から、自分も相手も傷つけない支援介助法を提唱し、教育現場で多くの先生に支持されています。同じように悩んでいる先生、まずはすぐに自分ができることもあります。ぜひ読んでみてください。

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Q. 周囲に危害を加える児童への対応について悩んでいます

特別支援学級担任2年目です。毎日心が折れそうです。イライラするとまわりに危害を加えてしまう児童がいます。止めに入らないと友だちを叩いてしまいます。叩かずとも叩く真似をして女の子を泣かせてしまったこともあります。

児童の手をつかんで止めると通りすがりの人を足で蹴ります。「手を離して」と児童が言うのでまわりに危害を加えない約束をして離しますが、約束は守られず危害を加えます。そうなると自分の体全体で児童を止めざるを得なくなります。

自分は体罰をしてしまっていないか不安です。自分自身がいっぱいいっぱいになってしまい、児童にきつく指導してしまうこともあります。いつか自分が一線を越えてしまうのではないかと思うと、辛いです。(みん先生・30代女性)

A.先生自身の落ち着いた姿勢が、児童との関係性を変えるかもしれません

みん先生、はじめまして。廣木道心です。私は障害のある息子を持つ親であり、介護士として放課後等デイサービスにて特別支援学級や学校に通う子どもの支援や就労支援を行うなど、様々な現場で働き、福祉系専門学校の講師や生活介護の施設長の経験があります。また自身が考案した、お互いを護る「護道」という武道のスキルを通じて、障害のある子どもたちのパニック時の誘導法として「支援介助法」を考案し、指導しております。

それらの経験を踏まえて回答します。先生にとって何か支援のヒントとなることがあれば幸いです。よろしくお願いいたします。

今回のご相談の内容から「周囲に危害を加えてしまっている児童」と「ご自身の不安な精神状態」の2つの課題を感じました。

体罰には抵触しない「身体拘束の3要件」

まず前者の課題についてですが、実際に友だちや周囲の児童など第三者に直接的な危害(本人にその意思がなくとも)を加えている場合は止める必要があります。それは当然ながら周囲の児童にも人権があり、守る必要があるからです。

体罰になっていないか? ということについては、厚生労働省の介護保険施設の場合は、危険な状況で身体拘束を行って利用者を止める「身体拘束の3要件」が決まっております。

その3要件は「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つであり、すべて満たしているケースでは体罰には抵触しません。学校と福祉施設では状況が違うとは思いますが、お話のケースでは一時的に周囲への他害行動を制御するために児童を抱きかかえるのは要件を満たしていますので体罰には抵触しないでしょう。

加えて、福祉施設の場合は、事前に保護者やご家族に対して身体拘束や危機介入の際の対応の説明と共に同意書を書いてもらっています。そうした視点から考えると、学校での他害行為に関する状況を保護者へ説明して、非難ではなく共により良い対応に向けて連携を取れるよう、ご相談してみることも必要かと感じます。

友だちへの他害行為は学校での出来事ではありますが、その背景には家庭環境が影響している場合もあります。保護者やご家族と上手く協力体制を得られれば児童への理解も深まり、改善に向けたヒントを得ることができます。

不安を手放すために「話す」「書く」ことは有効

また後者の課題である「ご自身の不安な精神状態」についても、自分一人で抱え込まずに周囲と情報を共有することは大切です。介護現場でケース会議が行われるのは、様々な視点を得てより良い支援に向けたヒントを得る目的だけではなく、情報共有を通じて話し合うことで一人の支援者が抱える負担や不安を緩和する目的があります。

人間は不安になると脳内物質のノルアドレナリンが分泌され、それと同時にアドレナリンも分泌されることで、心拍数が上昇して血液が循環することで落ち着かなくなります。つまり、戦うなり、逃げるなり、とにかく行動を起こすように脳が催促するようになっているからです。

ですから、不安を解消するには具体的な行動を起こすしか軽減できないわけです。その行動方法として「話す」ことは有効です。「話すは離す(不安を手放す)」だと考えて不安を抱え込まないことも大切です。その他にも不安軽減には「書き出す」作業や「身体を動かす」ことも重要です。

介護士が日々の支援活動やケース会議で記録をつけることも客観的に事態を捉えることにつながるだけでなく、書くことは不安を外に押し出す作業でもあるといえます。今回、みん先生が質問を投稿頂いたことも脳科学的な視点で観た場合、すでに「話すと書き出す」を行っており、とても適正な行動であったわけです。

そして、不安の解消にもっとも良いのが「身体を動かす」ことです。脳も身体の一部であることからもわかるように心と身体は本来一つです。これを武道では「身心一如」といいます。

例えば不安で仕方ないときに公園のグラウンドを全力で走ってみたり、カラオケで思いっきり歌を歌ったり、温かいお風呂につかって身体をリラックスさせたりすると不安は軽減します。それは先ほど、説明した通りノルアドレナリンの分泌の目的が身体へ「行動を起こせ」という指示だからです。

対象児童を変えられるのは対象児童本人だけ

さて、ここまで説明をお読みいただいて、不安のメカニズムはわかったけど、質問に対する具体的な解決策につながっていないと感じられるかもしれませんが、実は支援者の在り方は対象者との関係に大きな影響を与えていることが多いのです。

介護士の現場での例えになりますが、真面目なヘルパーの方ほど「支援をしよう!」という想いが強すぎて、つい行き過ぎた支援になり、それがいつの間にか「良い支援とは、こちらの理想に合わせて児童をコントロールすること」に変わってしまっていることがあります。また、それが正しいと思っているので支援者側が無自覚なことも多いのです。こうなると「支援が支配」になりますので、児童はそうならないように抵抗を起こすようになります。

介護士の方々への研修でも、「対象者を変えられるのは対象者自身だけ」とお伝えさせて頂いています。つまり、気づきを得て変わっていくのは対象者である本人の課題であり、周囲ができるのは、あくまでも本人が気づきを得るためのサポートでしかありません。ですから大人が子どもを(介護士が利用者を、教師が生徒を、保護者が我が子を)思うように変えようというのは慢心であることに気づく必要があります。

では、どうしたらいいかというと「他人は変えられないが自分は変えられる」と心理学でも言うように「自分の在り方を変えること」が大切になります。そうすると、矛盾するようですが、結果的に相手が変わっていくことがあります。

それは環境とは場所ではなく、「人」だからです。どこにいるか? よりも誰といるか? が重要であり、人は常に人から影響を受けます。そのことはミラーニューロンの研究でも明らかになっています。このことをまずは念頭に置いてもらうと関係性は変わってきます。

そして信頼関係を構築できれば、お互いに歩み寄る交渉ができるようになったり、折り合いをつけやすくなったりします。もちろん、目の前で他害行為が行われている状況ですので、具体的な対応スキルを学ぶことも必要ですが、それ以上に信頼関係の構築が重要であり、そのためには、まずは自身が落ち着くことが大切です。

心身を落ち着かせる「壁立ち」「踵(かかと)トントン」

支援介助法では、まず身体を整えるための錬成法という護道の基本となる身体調整法を取り入れていますが、ここでは簡単な調整方法として、「壁立ち」と「踵トントン」を紹介しておきます。

壁立ちとは文字通り壁を背にして後頭部と背中やお尻や踵を壁につけるようにして立つだけです。これを毎日、気がついたときでいいので1~3分行うと姿勢と重心の位置が変わります。

その上で、「踵トントン」を行います。まず肩幅に足を開いて立ち、つま先に体重を移動させることで踵を上げてから、トン!と踵を落とします。この動作を3回繰り返します。そのことで身体の重心点が下がり、身体のバランスが整い、安定します。

落ち着いた状態を「腹が据わる」といいますが、これは身体に不要な力みが無くなり、重心点が定位置に定まった状態を指しています。すると心身一如ですから、身体が整って落ち着くと心も落ち着いてきます。

最初は無自覚かもしれませんが、その身体の落ち着いた姿勢が発するノンバーバル(=非言語)な情報は周囲にも影響を与えます。

身体が非言語で発する影響については、ピリピリイライラした人の雰囲気が周囲に緊張を与えていたり、ビクビクオドオドした人の雰囲気が周囲を過剰に攻撃的にさせたりすることを考えてもらえればわかりやすいかもしれません。

ですから、こちらの落ち着いた状態の姿勢が周囲に安心感を与えて、結果として技を使わずに済むようになれば理想的です。またパニックが起こった際も重心点が下がっている姿勢であれば、身体が安定しているので対応もしやすくなります。

そこから、さらに具体的な仲裁の技術としては「護道構え」という両手を伸ばしたストップの意思を伝える手の形を示しながら、場合によっては手をとって抱きかかえることで、対象児童と周囲と自分自身の安全を守る方法を指導しています。

しかしながら、こうした対応技術に関しては身体拘束の3要件を満たしていても、あくまでも一時的な手段です。

支援介助法では「対応」だけでなく、「何故、そのような行動を起こしているのか?」という分析について、身体の状態や発達の過程なども踏まえて行いながら、予防につなげていくことを推奨しています。つまり、「対応・分析・予防」はセットで必要となります。

これらの具体的な技術に関しては文字だけでお伝えするのは難しく、実際にはセミナーにて体験していただくのが一番ですが、もしよろしければ支援介助法の動画、書籍やDVDなどがありますので、参照していただければと思います。

私たち大人こそ共に助け合うことが必要

また親の立場として感じることは、子育ては一人ではできないということです。子どもは様々な人との関わりの中で成長していきます。それは大人だけでなく、子ども同士の影響も大きいでしょう。

みん先生は責任感があり、真面目な先生なのでしょう。それだけに一人で抱え込まずに、同僚、先輩、保護者、子どもたちも含めて、時には協力を仰ぐことも必要だと感じます。また、この投稿を見られた同僚、先輩、保護者の方へは、身近で対応に苦慮されている先生がいることを気付いてほしいものです。

インクルーシブ教育といわれてから随分と経ちますが、私は子ども以前に私たち大人のほうがインクルージョンしていないなと感じることがあります。私たちが率先垂範してお互いに助け合い、子どもたちのためにインクルージョンしていきましょう。

回答が長くなってしまいましたが、まだまだ説明しきれない部分もあり、また限られた情報の中での回答であるため、あくまでも一つの意見としてご参考にしていただければ幸いです。

みん先生が、この機会を成長の糧としながら、これからも力まず子どもたちと関わっていかれることを心から応援しております。

ありがとうございました。
ご縁に感謝!

▼廣木道心先生が開発した「支援介助法」についてはこちらの記事もご覧ください!
「女性教師もできる!自分も子どもも傷つけないパニック対応術」


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