映画「みんなの学校」出演者大集合!座談会 #2 いじめゼロを目指すためにできること
いじめる子、いじめられる子、学校へ行けない子を生まない学級をどうつくるのか。それを考えることは、教師としてのあり方の根幹について考えることでもあります。映画『みんなの学校』の舞台となった大阪市立大空小学校の元教職員と卒業生の座談会から、いじめ問題解決のヒントを探ります。
4年生の時に大空小に転校してきた繁田成士郎さんは、前の学校では特別支援学級に通っていましたが、ある時、学校に行けなくなりました。そんな繁田さんがなぜ、大空小では毎日登校し、みんなと同じ学級で学ぶことができたのでしょうか。
【座談会出席者】(写真手前から)
徳岡佑紀…大阪市公立小学校教諭。元大空小学校教諭。
木村泰子…大阪市立大空小学校初代校長。
山本義人…大阪市公立小学校管理作業員。元大空小学校管理作業員。
大島勇輔…大阪市公立小学校教諭。元大空小学校教諭。
繁田成士郎…大空小学校卒業生。取材時(2019年)高校2年生。
目次
教師の指導がいじめを助長する
木村 前の学校で、ずっとセイシロウ(繁田)をいじめていたのは誰だった?
繁田 学校の先生だった。友達からのいじめはなかったよ。
木村 そうですね。今は全国的に学校に行けない子供が増えています。それぞれの原因は分からないけれど、要は学校が安心できる空間になっていないということですよね。
今回問題提起したいのは、子供同士のいじめが注目されるけれど、本当は先生が子供をいじめているんじゃないか、ということ。先生の行為から子供たちが学んで、結果的に子供がいじめをしているんじゃないかということなんです。
繁田 先生が壁をつくっているのは、俺は何回も見てきている。
木村 先生が壁をつくらないようにするには、どうすればいい?
繁田 まずは子供と楽しむようなことを考えたほうがいいと思う。
木村 子供と楽しむ。なるほど。大空小は「先生」という言葉は使いませんでした。必ず「教職員」と言っていました。多くの学校では「先生」という言葉が使われていますし、先生しか子供に関わっていません。
でも、大空小は違う。徳岡や大島は教員、義人は職員。教員と職員が混ざって、大空の「大人」です。ここに地域の人も入ってきて、そういう大空の大人みんなが子供に関わります。
山本 大空小では、僕はみんなから(姓ではなく)名前で呼ばれます。子供たちも好き勝手にあだ名を付けてくれていました。「義人」って呼び捨てだったり(笑)。でも、他の学校では管理作業員さんという仕事の名前で呼ばれることが多いんです。人のことを職業名や肩書きで呼んで、人間関係を構築できるのかな…と思いますね。
木村 大空小で一番大事にしていたのは、役職やポジションが違っても、子供の前では一人の人だということです。もちろん、子供も一人の人。人と人とが学び合うから、安心と信頼が生まれます。
大島 そうですね。「大島勇輔」という一人の人として、弱みやできないことがいっぱいあるという一面を見せると、子供たちは多少なりとも安心できるんじゃないでしょうか。
ここぞという時こそ、先生になるのではなく、子供と対等な目線で一緒に考える。子供とか大人というくくりを取り払って、子供と一緒に考えている時は、何より僕自身が楽しいです。子供たちもきっとそう思ってくれていると思います。
木村 つまり、人と人の関係性をつくって、その信頼から安心が生まれたら、いじめには発展しないということですね。
小学校でいじめられているって感じる子供をゼロにする。そのために、学校は何をすればいい?
山本 子供たちに「先生」と呼ばせないようにしたらいいと思います。子供が「先生」と呼んでいる限り、先生が一番偉いというスクールカーストをつくってしまうことにつながるでしょう。学校の中に「偉い人」がいるから、子供同士にも上下関係ができるんじゃないかな。
木村 そこまでのことは大空小でもできていなかったけれど、少なくとも教員というポジションにいる人間が、子供の前で話す時の一人称は、「先生」ではなく、「私」を使っていましたよね。
教師の仕事は、子供のトラブルを生きた学びに変えること
徳岡 大空小では、「たった一つの約束」(自分がされていやなことは、人にしない・言わない)があったことが大きいと思います。「たった一つの約束」を、みんなが納得して大切にしていたから、日常的にトラブルはあっても、やり直しをして、それを学びに変えることができたのだと思います。
木村 そうです。この約束は、みんなが破るためのものなんです。そして破ったら、やり直しをすればいい。
なぜいじめが起きるのか、私の意見を語ります。それは、子供同士のトラブルに対して、教師が指導するからだと思います。校長を退任して4年間、全国の学校現場を回っていて、そのことを痛感します。
何かトラブルが起こると、いじめに発展しないようにと、教師という権威を笠に着て指導してしまう。この「力による指導」はいじめの構造とまったく同じです。そういう指導が、見えないところで全部子供たちのいじめにつながっているんです。
大島 大空小では、トラブルは指導するものではなく、全校道徳(週1回全校児童が講堂に会し、「人権って何?」などの正解のないテーマについて、異学年の小グループをつくり議論する)のテーマにするなどして、そこからみんなが学ぶものでした。
何か問題が起きた時に上から指導して蓋をするのではなく、起きたことからどう学ぶかを大切にしていましたよね。
木村 そう、トラブルは学びの宝庫。子供のトラブルを生きた学びに変えるのが教師の仕事です。それなのに力で頭ごなしに指導するから、結果としていじめや不登校につながっています。
山本 日本人って不思議ですよね。こんなに空気を読むのが上手なのに、多くの人は隣にいる人がどうしたら喜ぶか、を考えない。どうすれば隣の人が喜んでくれるかを考えていけば、世の中って変わると思うんですよね。隣の人が困っている時に、どう手を差し伸べるかを考えるだけでいいはずだと思います。
木村 セイちゃんも卒業メッセージで同じことを言いましたよね。
今、義人が言ったことを学校現場で最上位の目的にして、学校づくりをすればいじめはなくなる。義人が全部答えを出してくれましたね。
映画「みんなの学校」出演者大集合!座談会#1 学校に行けない子にどう向き合うか
取材・文/長昌之 撮影/西村智晴
『教育技術 小一小二』2019年12月号より