小6 国語科「狂言 柿山伏」「柿山伏について」板書例&全時間の指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「狂言 柿山伏」「柿山伏について」(光村図書)の各時の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した全時間の授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/福岡教育大学附属福岡小学校・大村拓也
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、登場人物である山伏と柿主のやりとりのおもしろさについて、登場人物の相互関係や心情を基に捉えることを目指していきます。
また、伝統的な言語文化の一つである狂言という教材の特性を生かし、『柿山伏について』(古典について解説した文章、教科書P 174〜)を関連付けて読み、現代を生きる自分と昔の人の話し方や生活の相違点、ものの見方や感じ方についての共通点を見いだすことで、昔の人のものの見方や感じ方を知ることを目指していきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本実践では、昔の人のものの見方や感じ方を知るために、狂言『柿山伏』の音読劇発表会を言語活動として設定します。音読劇として表現するためには、昔の言葉の意味やその背景にある昔の人のものの見方や感じ方を考えたり、狂言独特の動きの意図を考えたりする必要があります。
そのための資料として『柿山伏について』を関連付けて読みます。そうすることで、登場人物の相互関係を捉えながら狂言のおもしろさに気付くとともに、昔の人のものの見方や感じ方を知ることができるでしょう。
その他のアイデアとして、総合的な学習の時間などと関連付けて、自分たちが伝統文化を継承していくその発信者として、地域社会や同世代の子どもたちに、今回作成した音読劇動画を発信(公開)することも考えられます。
または、学習後に『柿山伏』以外の演目の狂言、能や人形浄瑠璃、歌舞伎、落語など古典芸能を幅広く鑑賞することも考えられます。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 狂言を劇化して表現する目的を大切に
主体的な学びを生み出す上で大切なのは、目的意識を高めて言語活動を遂行することです。
そのために様々な古典芸能の映像を視聴し、劇化し、おもしろさに浸る場を設定することが大切だと考えました。
本単元では、冒頭で『狂言柿山伏』の台本の文章を読みながら映像を視聴します。
そうすることで「何百年も昔の話なのに今でもおもしろい」「独特な言葉遣いや動きが今と大きくちがう」といった感想が得られることでしょう。
ここで、狂言が室町時代から現代にまで続いていることを伝えます。すると、「数百年のときをこえて、継承される理由は何だろう、時代をこえる魅力は何だろう」という問いや「昔の人と今の私たちで考え方が似ているところや違うところがあるのかな」といった問いが生み出されます。
本単元で取り扱う狂言の音読劇発表会という言語活動は、この問いを解決するために行うとよいでしょう。子供たちは、この問いの解決を目指して、「現代の人々にも共感できる場面」「古典芸能ならではの独特な言い回しや所作がある場面」といった音読劇発表会で紹介したい場面を決定していきます。
このように、中心の問いを解決するという目的を大切にすることで、自ら音読劇発表会で紹介したい場面を選ぶといった自己調整的な学びの姿や、何度も音読劇に挑戦をする姿、『柿山伏について』と関連付けて理解しながら粘り強く学習に取り組む姿などが見られると考えます。
〈対話的な学び①〉 友達と対話しながら音読劇をつくりあげる(友との対話)
昔の言葉の意味や使い方の理解、物語の展開や登場人物のやりとりの理解を促すために、友達とペアやグループで対話的に学習を進めていくことが有効です。
本単元における対話的な学びは、「山伏と柿主の役割を友達と担いながら音読劇をともにつくりあげ、登場人物の相互関係を捉えること」や「難しい言葉の意味について教科書の注を調べたり、『柿山伏について』を読み、内容を教え合ったりすること」を目的に行うとよいと考えます。
〈対話的な学び②〉 演じて分かる昔の人の見方や感じ方(先哲との対話)
本単元のように古典芸能を教材として取り扱う際には、対話的な学びとして昔の人の見方や感じ方との対話(先哲との対話)を意識付けるとよいでしょう。
具体的には、「昔の言葉で書かれた文章からおもしろさを見つけたり、登場人物の会話や行動の背景にある昔の人の考えに思いを馳せたりすること」だと考えます。
そのために、 単元の2・3時間目で「音読劇を通して、おもしろいところや共感できるところを見つける活動」「『柿山伏について』を読み、昔と今の共通点や相違点を整理し、自分の考えをつくる活動」を設定しました。
その際、昔と今の共通点や相違点を、端末の同時編集機能を活用して友達と分類・整理します。
そうすることで、昔の人の暮らしや感じ方、現代を生きる私たちにも共感できるものの見方や感じ方を捉えることができると考えます。
〈深い学び〉『柿山伏について』を関連付けて読むタイミング
深い学びに向かうためには、「登場人物の行動や会話の背景にある昔の人のものの見方や感じ方を捉える」ことが大切です。音読劇だけでは気付きにくい昔の人の見方や感じ方について『柿山伏について』を読んで関連付けていきます。
深い学びに向かうためには、『柿山伏について』を読むタイミングが重要だと考えます。
教師が一方的に読むのではなく、2・3時間目で行う「音読劇で紹介したい場面の話し方や動き方について演じたり話し合ったりする活動」の中で、「どの場面を音読劇として選べば柿山伏の魅力が伝わるかな」「昔の人と現代の人の共通した感じ方は何かな」といった子供の疑問が出たタイミングで提示することで、狂言の言葉の背景を探る深い学びが実現できるでしょう。
このことから、指導計画上は、第二次の②としていますが、子供の求めに応じて『柿山伏について』を提示するタイミングは変えてよいと思います。
また、音読劇をつくりあげる際には、端末の動画撮影機能を活用し(5(2)で詳述)、音読劇の様子を撮影し、相互評価を行います。お互いに助言を行うタイミングで、『柿山伏について』を読むことで、「ごまかしてその場をやり過ごそうとしてしまう人間の弱い心」や「相手を追い詰めることはしない心の豊かさ」といった今も昔も変わらない人々の心や人間らしさや昔の時代ならではの人々の暮らしや感じ方を劇として表現することにつなげることができるでしょう。
このように、音読劇の表現を通す中で、『柿山伏について』を読み、その内容を関連付けることで、登場人物の相互関係の背景にある昔の人のものの見方や感じ方を捉え、自らの考えを問い直そうとする、深い学びに向かうことができると考えます。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)同時編集機能で現代と昔の感じ方の共通点と相違点を可視化
2・3時間目に行う、狂言柿山伏を音読劇にして発表する活動では、劇化をしながら気付いたことを端末のホワイトボード機能に友達と同時編集で記録します。
そうすることで、多くの考えを生み出すことができたり、考えの違いを見いだしたりしながら、背景にある昔の人の見方や感じ方を見いだすことができるでしょう。
また、同時編集を行うシートにベン図を入れておくことで、現代と昔の共通点や相違点を様々な観点で整理することができます。その結果、狂言の登場人物の行動や会話の背景にある昔の人の見方や感じ方を現代と比較して見いだすことができるでしょう。
(2)動画撮影機能を活用し、狂言の音読劇を自己評価・相互評価する
3・4時間目には、「音読劇の様子を動画で記録し、狂言のおもしろさを音読の工夫や、動き、表情などで表現することができているかを自己評価したり、繰り返し視聴し、友達と相互評価したりし、自分の考えをまとめる活動」を設定しました。
音読劇のような演じる言語活動を位置付ける場合、端末に劇の様子を動画として保存することは、言語活動を通して、昔の人のものの見方や感じ方を表現することができているかを問い直したり自覚したりする上で有効だと考えます。
その際、動画の姿を通して、どのような姿を求めていくのかを見極めることが大切です。
本単元においては、「昔の人のもの見方・感じ方を知ること」と「登場人物の相互関係を捉える」ことがねらいですので、蓄積した音読劇の動画を基に、「なぜその場面を劇化したのか」や「音読の声の出し方や動きの工夫で伝えようとした昔の人の見方や感じ方は何か」を話し合うことで、昔の人の会話や行動から相互関係を捉えるとともに、昔の人のものの見方や感じ方を知ることができるでしょう。
6. 単元の展開(4時間扱い)
単元名: 狂言『柿山伏』の音読劇発表会をしよう
【主な学習活動】
・第一次(1時)
① 柿山伏の映像を視聴し、おもしろいと思ったことを話し合う。
・第二次(2時、3時)
②『「柿山伏」について』を読んで、狂言の特徴について現代と昔の共通点と相違点を基に整理し、音読劇として表現したいところを話し合う。〈 端末活用(1)〉〈 端末活用(2)〉
③『狂言 柿山伏』を台本に、古典芸能のおもしろさが最も表れる場面をペアで音読劇として表現する。〈 端末活用(1)〉〈 端末活用(2)〉
・第三次(4時)
④ 狂言の音読劇発表会を通して気付いた昔の人のものの見方や感じ方を学級全体で話し合う。〈 端末活用(2)〉
板書例と全時間の指導アイデア
イラスト/横井智美、小野寺裕美
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