小1 国語科「むかしばなしをよもう」(おかゆのおなべ)全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小1国語科「むかしばなしをよもう」(光村図書)の全時間の板書例、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/相模女子大学学芸学部 子ども教育学科専任講師・成家雅史
執筆/東京学芸大学附属小金井小学校・小野田雄介
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
この学習をする頃は、1年生もだいぶ学校生活にも慣れてきたことでしょう。「読むこと」の学習も複数回重ねてきて、自分で本を読むことも増えてきたのではないでしょうか。
本単元は、外国の昔話に親しみ、読んで感じたことを友達と共有しながら、いろいろなお話があることを知っていく学習です。
児童にとっては、既に読んだことがあるお話も出てくるかもしれません。ですが、それが外国の昔話だと知っている児童はそれほど多くはないでしょう。お話の中にも、いろいろな仲間分けがあると知ることは、読書の世界を広げていくことにつながります。
また、友達と感じたことを共有していくことで、さらにその世界が広がっていくでしょう。感じたことを共有するためには、児童それぞれが、本の内容と自分の体験を結び付けて感想をもつことが必要です。内容との関連を考えながら、知識や実際の経験を十分に想起していくことが大切です。
共有の際には、一人一人がどのような感想をもったのかを共有しやすくなる環境を整え、互いの思いを受容する雰囲気をつくっていけるとよいでしょう。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、「1」で示した資質・能力を身に付けていくために「外国の昔話を読んで、感想を伝え合う」という言語活動を設定しています。その特徴は2点あります。
1点目は、本のジャンルを限定している点です。このことによって、本はいろいろな仲間分けができることを学びやすくなります。ジャンルがあることを知ることで、自分の読書傾向について考えるきっかけになるでしょう。例えば「ぼくが好きなあのお話も、外国の昔話なんだな。今度は日本の昔話も読んでみたいな」といった形で、読書の世界を広げていくことにもつながっていきます。
授業を行う際には、司書教諭や地域図書館と連携するなどして、学級(あるいは学年)に外国の昔話の本をたくさん用意できるとよいですね。すぐ近くにあることで、児童は本を手に取りやすくなります。また、教科書会社のホームページには、教材別資料として、世界の昔話の読み聞かせをアップロードしたサイトが紹介されています。学級の実態に応じて、こうしたサイトを活用することも考えられます。
2点目は、感想を共有する点です。ここでいう「感想」とは、本の内容と自分の体験を結び付けた「感想」であることを指しています。
例えば、本を読んで、以前に自分が経験したことが思い出され、だから「おもしろかった」というような感想が求められます。「おもしろかった」だけでは、どのような体験と結び付いているのか分からないため、不十分です。しかし、1年生にとって、自分の体験と結び付けて感想をもつのは容易ではありません。教師の支援や、友達との協働的な学びが求められるところです。
そうして書かれた感想を共有することで、思いを分かち合ったり、感じ方を認め合ったりすることができます。また共有の活動を通して、読書の楽しさを感じていくことも期待されます。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 自分の体験と本の内容をつなぐ「むすびカード」
外国の昔話をたくさん読む学習と聞いて、喜ぶ児童は多くいることでしょう。その中には、次から次へと、のべつまくなしに本を読んでいく児童がいるかもしれません。その子の「やる気」は認めてあげたいですが、「主体的な学び」とは分けて捉えていく必要があります。
本単元では、感想をもち、それを共有する力を身に付けていくことが主眼の一つになります。この資質・能力の獲得を目指して意欲的に学ぶことが必要です。そのために、本の内容と自分の体験を結び付ける学習活動を取り入れることは、有効でしょう。
本単元は、学び方を知るために、最初にみんなで「おかゆのおなべ」というお話を読みます。そこで感想のもち方や共有のしかたについて学んだ後、グループに分かれてさらに本を読んでいく、という構成になっています。
「おかゆのおなべ」を読んだ後に、おもしろかったところや、心に残ったところを聞き、板書していきましょう。ある程度意見が出たら、「似たような経験がある人はいる?」「このお話を読んで思い出したことはある?」と発問してみます。
1年生は自分の話をすることが好きでしょうから、きっといろいろ話してくれるはずです。
その際、一人一人の話が、本の内容のどの部分と結び付いているのか、教師が確認したり、他の児童に聞いてみたりするようにしましょう。この活動を教師が価値付けていくことで、児童はお話と自分の経験をつなげて読む楽しさや心地よさを学んでいきます。
全体での学びが一段落したら、下のような「むすびカード」に感想をまとめます。!マークの方に、おもしろかったところ、心に残ったところを書き、★マークの方に、自分の体験と結び付けて感想を書きます。グループに分かれて本を読むときも、同様の形で感想をもつことで、主体的な学びの実現に迫っていけるでしょう。
〈対話的な学び〉 友達と同じ本を読む「グループ読書」
感想を共有しやすい環境を整えることは、対話的な学びを生むことにもつながります。
共有しやすい環境をつくる上で、同じ本を読んでいるということは重要です。1年生が、読んでいない本の感想を共有し合うには、様々な難しさが考えられるからです。
単元後半のグループでの読書の際には、「グループ読書」として、グループで同じ本を読む学習形態をお勧めします。グループは3〜4人ぐらいが適切でしょう。一人一人、読みたい本を一冊決めたら、グループのところにもっていき、それぞれが選んだ本を順番に読んで、「むすびカード」に感想をまとめていきます。もしも、カードが「文」か「☆」の片方しか書けていない、あるいは、書けていなかったら、友達に相談してよいことを伝えておきましょう。書けないということは、そこにその児童の学びの壁があるということです。その壁を乗り越えられるように、対話的に学びを進めていけるとよいですね。
全員が本を読み終えたら、共有の時間にします。どんなところがおもしろかったのか、また心に残ったのか、そこからどんな体験と結び付いてどんな感想をもったのか、話し合います。
この活動を通して、共感や新しい発見があるでしょう。いずれにせよ、互いの意見を受容する雰囲気が対話的な学びを支えます。
また、カードが半分しか書けていない、あるいは書けていない友達がいたら、グループで一緒に考える活動を取り入れてみましょう。「おかゆのおなべ」の学習を想起し、「おもしろかったところ、心に残ったところ」、あるいは「似たような経験、思い出したこと」について話し合うよう促してみましょう。話し合うことで、考えが整理されることがあります。
児童だけで難しい場合は、教師が話合いに参加し、カードを書けるように支援していきましょう。
〈深い学び〉 学びを振り返る「ふりかえりカード」
本単元における学びを、児童が自ら整理する活動を行うことは、深い学びにつながっていきます。そこで単元の終わりに「ふりかえりカード」を書いてみましょう。
本単元において振り返りたいことは、大きく3点です。
1点目は、外国の昔話を複数冊読んだことについてです。
このことについて振り返ることで、「もっと読んでみたい」「日本の昔話も読んでみよう」等の、読書の世界を広げていくきっかけになります。
2点目は、「むすびカード」を使って、自分の体験と本の内容と結び付けて感想を書いたことについてです。
本の世界と、自分の世界をつなげて感想を書いたことについて振り返ることで、文章に対してより豊かに思いをもてたことを再認識する場になるでしょう。
3点目は、「グループ読書」を通して感想を共有したことについてです。
普段は、一人で読書をすることが多いでしょう。それゆえ、友達と同じ本を読んで感想を共有したことには、新鮮な楽しさがあったはずです。その気持ちを振り返ることで、共有する活動の意味を感じられることでしょう。
学級の実態に応じて、これら3点のうちからいくつか選んで、あるいは全てについて「ふりかえりカード」を書きます。項目ごとにカードの色を変えておくと、振り返る視点をより明確に意識できるようになります。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
端末を、共有のための準備ツールとして位置付けることができます。
例えば、「おかゆのおなべ」を読んで書いた「むすびカード」を、それぞれ写真で撮り、投稿アプリ等にアップロードすることで、全員が見ることができます。
このとき、全員が同時に終わっている必要はありません。ある程度の児童が終わった段階で、投稿を呼びかけてみましょう。終わった子にとっては、友達の意見を知る場となりますし、終わっていない子には、友達からひらめきをもらう場になるかもしれません。
また、教師も投稿に目を通すことで、全体での共有を図るための入り口を探ることができます。
「〇〇ちゃんのカードを読んでみて、似ているよっていう友達はいる?」や「□□君と△△さんは、同じ文を選んでいるけど、感想が違うね」等、意見の交通整理を行いながら緩やかに全体での共有を始めることができます。
また、読書記録のツールとしての位置付けも可能です。
読んだ本の表紙と「むすびカード」を一枚の写真に収めることで、本の題名、作者、感想の読書記録となります。実態に応じたアプリを用いて、写真を読書記録として整理できれば、本単元終了後も、読書記録用のツールとして活用していくことができます。
6. 単元の展開(7時間扱い)
単元名: がいこくのむかしばなしをよもう
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時、3時)
① 「おかゆのおなべ」の読み聞かせを聞いて、学習の見通しをもつ。
②「おかゆのおなべ」の大体の内容を把握したり、登場人物の行動を具体的に想像したりする。
③「おかゆのおなべ」の面白かったところや心に残ったところを選び、それと似たような経験や思い出したことなどを話し合い、「むすびカード」に感想をまとめる。
・第二次(4時、5時、6時)
④ 外国の昔話を読み、「グループ読書」に向けて、本を一冊選ぶ。
⑤「グループ読書」を行い、読んだ本の感想を「むすびカード」にまとめる。
⑥ 前時にまとめた感想をグループで共有する。
・第三次(7時)
⑦ 学習を三つの視点で振り返り、「ふりかえりカード」にまとめる。
※教師は団体貸し出し等を利用して、教室に外国の昔話の本を用意しておくとよいでしょう。
全時間の板書例と指導アイデア
1時間目は、単元の始まりの時間です。学習へのワクワク感を高めつつ、見通しがもてるような時間にしたいものです。
読み聞かせが好きな児童は多いはずですから、本時では「おかゆのおなべ」の読み聞かせをしてみましょう。
ただし、読む前に、「グリム童話を知っていますか?」と尋ねることを忘れないようにしてください。
知らない児童も一定数いると思いますので、簡単な説明をします。そして教科書の42〜43ページを見たり、教室に用意した本を見せたりしていくと、これまでに親しんできたお話の中には外国のお話もたくさんあったことに気付いていくでしょう。
その後「おかゆのおなべ」の読み聞かせをします。楽しいお話ですので、それが伝わるように読みましょう。読んだら、面白かったところや心に残ったところを聞いていきます。この学習では、外国の昔話を読んで感想を伝え合っていくことを伝え、見通しがもてるようにしましょう。
2時間目は、「おかゆのおなべ」の大体の内容や登場人物の行動について想像していきます。
これまでの「読むこと」の学習を振り返り、「誰が、どうして、どうなった」か、また「女の子」や「おかあさん」の行動について、下のように児童と対話的に押さえていくとよいでしょう。
また板書では、お話の流れを矢印でつなぎ、具体的に想像したことを吹き出しにして書くと分かりやすくなります。
単元後半で行うグループ読書でも、こうした構造と内容の把握や、精査・解釈を踏まえた上で感想をもっていくことが重要です。
女の子が「なべさん、なべさん、にておくれ」と言う時、どんなふうに言ったと思いますか。
魔法使いになった気分で言ったと思います。
魔法の言葉を言うみたいに、言ったと思います。
なるほど。女の子が話す姿が想像できていますね。
おかゆがどんどん出てきて、お母さんの様子はどうなったと思いますか。
すごく喜んだと思います。
魔法みたいで、びっくりもしていると思います。
ある程度、選ぶことができたら、発表してもらいます。
このとき、理由が言える児童には言ってもらいましょう。下のような対話的なやりとりを通して、自分の体験と結び付けていく様子を全体で共有して、次時へつなげていきます。
「うち中おかゆだらけになりました」のところで、選んだ理由を教えてくれる友達はいますか?
何かおもしろかったからです。
おかゆだらけになったらおもしろいですよね。
普通はそんなことはないからです。
そうですね、こんなことがあったら大変ですね。
でも、これと似たような経験はありませんか。ここを読んで思い出したことでもよいですよ。
この前、弟が買ってもらったジューズを全部こぼしちゃって、ジュースだらけになりました。
それは大変でしたね。
朝顔に水をあげようと思って、ジョウロに水を入れていたら、ぼーっとしていて、気付いたらジョウロから水があふれて水びたしになってしまいました。
そうでしたか。今、お話と自分のことをつなげて話してくれました。素晴らしいです。お話と自分をつなげて読めるようになると、本を読むのが楽しくなりますね。
イラスト/横井智美
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