「教育環境日本一」を目指す京都市 2つの子ども支援事業とは

子どもや若者たちを心豊かに育むまちづくりを、市民ぐるみ、地域ぐるみで実践し、「子育て・教育環境日本一」を目指している京都市。2017年には、子どもや若者に関する施策を総合的に推進する「子ども若者はぐくみ局」を創設するなど、子ども・子育て支援のより一層の充実に努めています。今回は、そんな京都市が取り組む2つの子ども支援事業、「放課後まなび教室」と「子どもの居場所づくり支援事業」を取り上げ、その概要やこれまでの成果について、それぞれの担当者に話を聞きました。

左から、京都市子ども若者はぐくみ局子ども若者未来部育成推進課の守瀬秀則 放課後まなび教室推進係長、同 育成推進課の羽田浩 青少年・若者・まなび担当課長、子ども家庭支援課の小林圭吾 子育て支援担当課長、同 子ども家庭支援課の野村和哉 貧困家庭の子ども対策係長。

自学自習の習慣化を目指して「放課後まなび教室」をスタート

「放課後まなび教室」は2007年から京都市がスタートさせた取り組みで、学校施設を活用し、地域の人たちや、学校運営協議会、学生等の協力のもと、放課後の子どもたちに「自主的な学びの場」と「安心安全な居場所」を提供するというものです。

「これは、子どもに関わる重大事件の続発、家庭教育力の低下などを背景に、国が創設した『放課後子ども教室推進事業』の京都市版です。教室の運営には地域の方たちに参加していただき、学校や家庭とは異なる、地域ならではの居場所をつくっているのが特徴です。また、京都市ではすべての子どもたちが対象というところにもこだわっていて、2009年以降は、京都市内のすべての小学校区(現在は163校)で展開しています」と青少年・若者・まなび担当課長の羽田浩さんは説明します。

費用は保険料が年間800円。授業終了後から最長午後6時まで利用することができ、学校区によって異なりますが、学校の専用教室、図書館などを利用して週に3〜5日実施されているということです。

遊びと生活の場を提供する学童クラブに対して、放課後まなび教室の目的は、子どもが自分のペースで学習する場を提供すること。それによって子どもたちに自学自習の習慣化を促すのが主なねらいです。運営は、学校単位で実行委員会を組織しているので決まりがあるわけではありませんが、基本的には子どもが宿題や計算ドリルを持参して勉強し、その様子を地域のボランティアスタッフが見守るという形がとられています。

「まずは、共働きなどの事情により家に保護者が不在で、一人ではなかなか宿題ができないという子どもや、さまざまな家庭事情により落ち着いて宿題をできる場所がない子どものための居場所づくりを目指しています。その上で、子どもたちが、学校や家庭ではなかなかできない体験活動、例えば、手芸や工作といったものづくり体験や、伝統芸能、伝統工芸、茶道などといった伝統文化にふれる体験などもできる場にしていきたいと考えています」と羽田さん。

大事なのは「自ら学ぶ意欲を育む」こと

京都市では、年に数回、実行委員会のメンバーらを対象にした研修会も実施しています。「子どもたちが喜ぶ手作り体験」というテーマで行われた研修会では、「ビー玉を使った、かんたん万華鏡(九条弘道小学校)」、「牛乳パックでつくるキュービックパズル(安井小学校)」などの具体的な実践例が紹介され、参加した実行委員たちも実際にものづくりを体験。研修会終了後には、「さっそく、自校の教室で実践しました」という報告が次々と寄せられました。また、研修会の場は各実行委員会同士の情報共有の場にもなっていて、毎回、熱心な情報交換が行われているそうです。

では、実際に放課後まなび教室に参加している子どもたちはどんな感想を持っているのでしょうか。羽田さんによると、「勉強の仕方がわかった」「みんなと一緒に学ぶとやる気が出てくる」「地域の人と話をしたり、活動したりできるのが楽しい」といった声を聞くことが多いそうです。こうした感想からも、「自学自習の習慣化」や「地域の人との交流活動」など、京都市が当初、設定した目標が、子どもたちにまでしっかり浸透していることがわかります。

また、この取り組みの成果としては、地域のスタッフと学校の教職員との連携が進んでいることも挙げられる、と羽田さんは続けます。学校の先生たちからも、「子どもに自ら学ぶ姿勢が見られるようになった」という声が多く寄せられているそうです。

「先生たちが、実行委員会のスタッフ会議に出席したり、子どもの様子を見に放課後まなび教室を訪問したりすることも徐々に増えてきました。また、地域のスタッフが学校の授業を見学し、放課後まなび教室の運営に生かすという例もあります。学校教育だけでなく、こうして子どもを地域ぐるみで育む『はぐくみ文化』が息づいているのが、京都らしさであり、強みだと私たちは考えています。市としては、こんなふうに両者が目標や課題を共有することで、どんどん相乗効果が生まれることを期待しています」

ただ一方で、取り組みが定着してきた今、放課後まなび教室の登録児童数も年々増加傾向にあり、スタッフの確保や教室の確保が困難になるという新たな課題も生まれています。これは期待が膨らんでいることの表れとも言えますが、京都市としては今後、各学校区の実行委員会、そして学校とも連携を図りながら、それぞれの状況に応じた支援を進めていく予定だということです。

「放課後まなび教室は、いわゆる貧困家庭の子どもを対象にした学習支援とは異なりますが、対象者の中には貧困家庭の子どももいますし、他にもさまざまな困りごとを抱えた子どもがいます。放課後まなび教室による自学自習の習慣化、地域の方や異学年児童との交流による豊かな体験等が、そのような子どもたちを支援することにもつながればと思っています」と、放課後まなび教室推進係長の守瀬秀則さんは言います。

 京都市が取り組む「放課後まなび教室」の模様。
京都市が取り組む「放課後まなび教室」。

民間の力を借りて居場所づくり支援の間口を広げる

そして今回、紹介するもう一つの事業が、「子どもの居場所づくり支援事業」です。こちらは、2016年に京都市が実施した「子どもの生活状況等に関する調査」の結果を受けて危機感を持った京都市が、子どもの居場所づくり支援の間口をもっと広げたいという思いではじめた事業です。すべての子どもたちを対象にしている放課後まなび教室とは違い、貧困家庭の子どもの支援につながることもしっかり意識した取り組みです。

現在、京都市がこの事業の中でサポートしている団体は、およそ70〜80程度。具体的なサポートの内容としては、子ども食堂に代表される「食事を提供する事業」、無料塾のような「学習習慣の定着や基礎的な学力向上等のために自主学習を支援する事業」、そして「その他、子どもへの生活支援や社会体験の取組など、趣旨に合致する事業」をこれからはじめようとしている民間団体に対して、事業の開設にかかる初期費用を、対象経費の総額の3分の2以内(上限10万円)で補助するというものです。

子ども家庭支援課で貧困家庭の子ども対策係長を務める野村和哉さんは、「『子どもの生活状況等に関する調査』において、貧困等の困難を抱える家庭では、保護者が多忙なために子どもが孤立しやすく、また保護者自身も相談できる機会が不足していることが明らかになっています。そのように孤立してしまった子どもが、自分が暮らす土地でいろいろな大人たちと良質な関係を築けるような取り組みをもっと増やしたい。それが私たちの願いです。手作りの食事のおいしさを知ったり、人とのつながりを感じたり。子どもたちがそんな経験をたくさんできるような活動に取り組んでいただけることに深く感謝しており、行政としても積極的に後押ししていきたいと考えています」と話します。

補助金を交付する際には、「年間を通じて、月1日以上または年12日以上、1日あたり2時間以上実施する、子どもの居場所づくりであること」や「原則、18歳未満の子どもの利用が、おおむね5名程度見込めること」といった応募要件を設けていますが、「取り組みの成果としては、1回の参加人数を追いかけるよりも、一つひとつの活動が、できるだけ長く継続してくれることの方が大事」と野村さんは続けます。

例えば、1回の開催で100人の子どもが参加したとしても、次の月に実施されないのでは、それはただのイベントになってしまいます。そうではなく、「この曜日のこの時間、この場所へ行けばこういう大人たちが待っている」と子どもたちが認識できるような息の長い取り組みになってもらえたらうれしいということです。実際、事業者たちにも、「特にスタート時は無理をしなくてもよいので、できるだけ長く継続できるような運営を心がけてほしい」とお願いしているそうです。

「最初は、子ども食堂の運営から活動をスタートされる団体が多いですが、活動を続けていく中で、『次は、学習支援にも取り組みたい』と自ら必要性を感じ、再び手を挙げてくれる団体もおられます。子ども食堂が定着していくこともうれしいですし、その中のいくつかが、次のステップに進みつつあることも支援している私たちとしては喜ばしいこと。現時点での成果の一つだと考えています」と、子育て支援担当課長の小林圭吾さんが続けます。

 子どもの居場所づくり支援事業を担当する野村氏は、
「孤立してしまっている子どもたちに、まずは手作りの料理のおいしさや、皆で食事をとることの喜びを味わってほしい」と話す。
子どもの居場所づくり支援事業を担当する野村さんは、「孤立してしまっている子どもたちに、まずは手作りの料理のおいしさや、皆で食事をとることの喜びを味わってほしい」と話す。

民間の活動がさらに充実するよう行政が後押し

ここで、ボランティア団体ハピネス(以下、ハピネス)という、子ども食堂の運営団体の活動事例を紹介しましょう。ハピネスは、子どもの孤食や貧困の連鎖をなくしたいという思いから補助金を申請し、子ども食堂をオープンさせました。しかしその後、地域には家庭環境に関係なく寂しい思いをしている子どもがまだまだたくさんいること、また子ども食堂にボランティアとして関わってくれる大人の中にもさまざまな背景を持つ人がいることに気づいたそうです。当初は、貧困家庭の子どものための支援を目指していましたが、今は、自分たちが運営する子ども食堂に関わってくれるすべての人が幸せになれる、そんな居場所づくりをすることが新たな目標になりました。ちなみにハピネスは現在、食堂運営と学習支援を月に2回ずつ開催していますが、いずれは子どもたちが寂しい思いをしたときにいつでも立ち寄れる場所にしていきたいそうです。

もちろん、課題はまだまだたくさんあります。まずは運営の質をどう担保するか。京都市でも、ガイドブックを作成したり、NPOに委託して電話や訪問等による運営サポートなどを行ったりしていますが、ここをしっかりしなければ、子どもの貧困問題の深刻さに比べ、ともすれば、近視眼的な取り組みが生まれてしまう危険もあるかもしれません。

「このあたりはまだ実際に着手できているわけではないのですが、今後は私たちが媒体となって、事業者間での情報共有なども促し、それぞれが持続可能でさらに充実した活動となるように後押ししていきたいと思っています」と小林さん。

また、事業者の人たちの中には現在も、学校の先生たちとつながりを持ちたいと考えている人が多いといいます。

「やはり子どもの情報をたくさん持っているのは学校です。先生たちと連携することで、もっと困っている子どもたちをたくさん助けたいと思っている人は多いです。ただ私たちとしては、先生たちの忙しさをよく知っていますし、個人情報の問題などもあって、連携が簡単でないこともわかっています。だからまずは手始めに、学校の先生たちにも、子ども食堂のような存在を知ってもらいたいと思います」と、小林さんは続けました。

取材・文/石川 遍

『総合教育技術』2019年9月号より

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