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教師がしっておきたい<児童虐待>見分け方と対応法

2019/8/28

児童相談所の対応件数が年々増加している児童虐待。その実態や要因、子どもに与える影響、子どもや保護者が発するサイン、教師に求められる対応について、長年、児童虐待の研究と支援を実践されてきた加藤尚子先生にお話を伺いました。

明治大学文学部准教授 臨床心理士 加藤尚子先生
明治大学文学部准教授 臨床心理士 加藤尚子先生

児童虐待の中で「心理的虐待」が増加傾向

――「児童虐待が増えている」と言われます。小学生ではどのような虐待被害が多いのでしょうか?

平成27年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待は10万3286件であり、前年度に比べ1万4355件(16.1%)増加し、年々増えています。被虐待者の年齢別の構成割合は、学齢前の子どもの虐待の合計が43%前後と最も多く、ついで小学生が35%前後と、各年齢層ほぼ横ばいで推移しています《資料1》。

資料1 児童相談書が対応した被虐待者の年齢別構成割合
クリックすると別ウィンドウで開きます

児童虐待には、「身体的虐待」(子どもの体に怪我をさせたり、その恐れがある行為)、「ネグレクト」(保護者として子どもを守らず、基本的な養育を著しく怠ること)、「心理的虐待」(著しい心理的外傷を子どもに与えること)、「性的虐待」(子どもにわいせつな行為をする、させること)という四つの種類があります。

これらの虐待の中では、「心理的虐待」が平成26年度から顕著に増えています《資料2》。この背景には、いわゆるドメスティック・バイオレンス(配偶者等のパートナーからの暴力)を目撃した子どもについて、警察が児童相談所に通告を行ったケースが多分に含まれています。

年齢別では、「心理的虐待」や「ネグレクト」は相対的に低年齢児に多く、年齢が上がるにつれて「身体的虐待」や「性的虐待」の割合が増えていく傾向があります。しかし、実際には一つのケースに複数の虐待が混在していたり、自他に認知されていないケースも多く、各年齢層に多い虐待の実態は、統計上だけでは判別できないことも多いように思います。

資料2 児童相談所が対応した児童虐待相談種別対応件数の年次推移
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―― 虐待はどうしてなくならないのでしょう? 保護者側にはどのような要因があると思われますか?

虐待の要因は各人によって異なり、千差万別です。保護者側の要因の一つには、保護者が周産期や育児期にとてもストレスの多い状況(不安定な家庭環境、経済状況、夫婦関係、望んだ妊娠ではないことなど)に置かれている場合が考えられます。

また、保護者自身が子どもの頃に虐待を受けていたり、丁寧な養育を受けていなかったりする場合、子どもの要求に対して過剰に苛立ち、虐待に及んでしまう場合もあります。

―― 子ども側にはどのような要因が考えられるでしょうか?

その子自身が気難しい気質だったり、病気や障害によって保護者に育児への過大な負担がかかったりする場合、虐待の要因になることがあります。また、子どものどこかに保護者が嫌う人(別れたパートナー、気の合わない親など)に似ているところがある場合、これも虐待の要因の一つとなることがあります。

また、子どもは保護者に甘えられなかったり、気持ちをわかってもらえなかったりすると、保護者の気を引くためにすねたり、わざと困らせたりすることがあり、不安な気持ちから保護者の顔を凝視したり、笑顔を表せなくなることもあります。保護者はこうした態度を見ると、子どもへの愛おしさを感じにくくなり、いらだちや怒りを感じることがあります。

脳の成長も阻害される……虐待が与える深刻な影響

―― 虐待を受け続けると、子どもの心身にはどのような影響が及ぼされるのでしょうか?

虐待の心身への影響は、年齢が低い時期に受けるほど深刻です。最新の脳科学の研究では、脳が爆発的に成長する3歳頃までの時期に虐待を受けてしまうと、記憶や情動コントロールの領域など、脳の重要な部分がうまく育たなくなることがわかっています。つまり、脳の“ハードウェア”の成長が阻害されてしまうのです。

心理面においては、虐待を受けた子は自己肯定感や自己効力感がもてず、極端に自己評価が低くなる傾向があります。そのため学習意欲が低下し、「頑張っても自分には無理」という思いが強くなります。すると、結果的にテストで良い点がとれず、勉強が遅れがちになります。こうして「自分は勉強ができない子」という自己評価が“事実”になってしまうのです。

対人関係においても、最初から「どうせ自分は人から好かれない」という諦めの気持ちが強いため、人に好かれるような行動(人に親切にする、人に話しかけるなど)をとろうとしなくなります。すると、周りからも距離を置かれ、結果的に「自分は人から好かれない」という自己評価が<事実>になってしまう傾向があるのです。

―― 行動面では、他にどのような影響があるのでしょうか?

そもそも人間の恐怖刺激への対処行動には、「逃げる、闘う、固まる」という三つの種類があります。恐怖を覚えた瞬間に逃げたり、闘ったりすることができればよいのですが、幼い頃から保護者という圧倒的に強い存在から虐待を受けていると、怖いと感じたときに何もできずにその場で固まるようになってしまいます。

「固まる」ということは、自分の感情に蓋をして何も感じなくなることです。本当はとても怖いのに、その感情を態度や行動で表すことができずに心の中に閉じ込めてしまいます。こうして素直な感情が心の中に鬱積すると、その感情が何らかのきっかけに「怒り」として爆発し、周りの子どもに殴りかかったり、暴れて手がつけられなくなったりすることもあります。

虐待の子どもへの影響

虐待の早期発見にはその“サイン”に気付くこと

―― 虐待の可能性を早期に発見するには、子どものどのようなサインに気付くとよいのでしょうか?

衣服の洗濯や入浴をしていない様子が見られる、給食をがつがつ食べる、覇気がなくダラッとしている、イライラ(特に休み明けに)している、家に帰りたがらない、授業に集中しない、「どうせ〇〇だから」などの自己評価の低い発言が目立つ・・・。このようなサインが見られたら、虐待がないかをまずは確認したほうがよいでしょう。

また、保護者に書いてもらうべき書類が提出されない、宿題のやり忘れや忘れ物が多いことなども、虐待の可能性が考えられます。これらを子ども自身の不注意だと決めつけず、その背景に家庭の問題がないだろうかと考えてみることが大切です。

身体的虐待は体の傷やあざによって発見できることもありますが、ネグレクトや心理的虐待、性的虐待の場合には、高学年になれば周囲に悟られないように隠したり、ごまかしたりすることもできるようになります。したがって、子どもが発する態度や行動のサインに注意深く目を向けていく必要があります。

―― 保護者にはどのようなサインがあるでしょうか?

何度電話をかけても保護者につながらない、連絡を求めても返信がこない、子どもの様子を報告しても関心が見られない、家庭での様子を聞いてもあいまいにしか答えない、家庭や子どものことについて質問をすると拒絶的な態度を示したり、怒りを向けたりする。授業参観などの学校行事に一切出席しない・・・。これらの行動のすべてが虐待のサインだとは限りませんが、その可能性を想定することによって、子どもの様子を注意深く観察することができるようになります。

虐待の可能性のある子に対し、どのように関わるべきか

―― 子どもの虐待の可能性を発見したとき、教師はどのような対応をする必要がありますか?

教師が虐待の疑いを発見したときには、地域の「子ども家庭支援センター」などの子育て支援や虐待対応の窓口もしくは「児童相談所」に通告する義務があります。学校長等の管理職が代表して通告を行うことが原則ですが、この原則にこだわっていると、通告が遅れて重大な被害が発生してしまう可能性もあります。したがって、管理職からの通告が難しい場合には、担任等の教師が匿名でもよいので速やかに相談をするべきだと思います。

相談窓口を普段から把握しておくことが大切です。地区担当のケースワーカーは通告者の立場に配慮し、学校や家庭に上手に働きかけて、必要な支援を総合的に検討してくれます。

ただし、「通告したらそれで終わり」と考えず、その後もケースワーカーやスクールソーシャルワーカー、教職員(管理職、養護教諭、スクールカウンセラー等)と連携して子どもに必要な支援を共に検討し、協働して見守っていく必要があります。

子どもの変化にアンテナを張る

―― 虐待を受けた子どもに、教師はどのように関わり、指導していくとよいのでしょうか?

虐待を受けた子どもは、不適切な行動や間違いを注意されるだけで、自分を全否定されたと感じ、教師に背を向けてしまうことがあります。もちろん、問題となる行動を止めさせ、必要な行動を促すことは大切な指導です。しかし、前述のような感情を覚えずにいられない子どもの気持ちに寄り添い、じっくり話し合う機会ももっていただきたいと思います。

子どもの気持ちを汲み取りながら、教師と子どもの感情や考えのすり合わせを丁寧に行っていくとよいでしょう。頭から「指導」する姿勢ではなく、子どもの気持ちを聞き取ろうという姿勢を示すことで、子どもの心に「この先生は自分の気持ちを聞いてくれる」という思いが生じ、信頼関係が育っていくかもしれません。

教師は、指導の基準を明確にもつことが必要です。しかし、「ダメなものはダメ」とその基準に絶対的に従わせようとすると、虐待を受けた子は抵抗し、反発します。教師は指導の明確な基準を示しながらも子どもの気持ちを認め、少し猶予を与えながらじっくり話し合う時間を設けるなどして、柔軟に対応していくことが必要になります。

私は長年、児童虐待のケースに関わった中で、虐待を受けた子どもの心に与える担任の教師の影響は、とても大きなものだと感じています。

もちろん、教師のみの力で虐待を受けた子どもの行動を完全に軌道修正させるのは、難しいかもしれません。しかし、教師が子どもを認め、心のつながりをもとうと働きかけると、子どもは自分のそばに信頼できる大人がいることに気付くことができます。「先生には自分の気持ちを話せる」「学級は自分の大切な居場所だ」と思えるようになります。

そして、教師がその子とつながりをもち大切にすると、周りの子どもたちもその子を軽視しなくなるでしょう。すると、子どもには虐待による心の傷を抱えながらも大人の適切なサポートを受け、周りの子どもたちと協調しながら成長していく可能性が広がっていくものと考えられます。

本書では、児童虐待の現状やその実態、児童虐待が生じる要因、虐待を受けた子どもに生じるさまざまな影響等について、教師が知っておくべき情報が総合的に解説されています。教師は子どもや保護者が発するサインをどう見極め、虐待を受けた子どもに対してどのように接していけばよいのか、支援機関への通告の仕方、職場内での連携、多職種との連携のポイント、保護者への対応などについて具体的に説明しています。児童虐待の可能性を早期に発見し、虐待が疑われる子ども、支援を受けている子どもの指導をする際の参考として、ぜひ手元に置いておきたい1冊です。

取材・構成/大美賀直子  イラスト/斉木のりこ

『小五教育技術』2017年9月号より

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