教師の仕事は「あなたらしさ」を認めること! パラ五輪バスケ・古澤拓也選手×恩師・杉﨑有平先生対談

2020東京パラリンピック車いすバスケットボールで、見事銀メダルに輝いた日本チーム。その中心選手である古澤拓也選手の原点は、小学五年生当時の担任教師との出会いにありました。子どもの将来に大きな影響を与えた教師の向き合い方とは。今回は古澤選手の単行本発行を記念して、恩師・杉﨑有平先生との対談をお送りします。

写真左から、古澤拓也さん、杉﨑有平先生

杉﨑有平
1984年2月6日生まれ。2006年から横浜市立小学校の教員となり、2年目に古澤拓也さんらのクラスを受け持つ。古澤さんの小学5、6年時代の担任。今年で教員17年目。

古澤拓也
1996年5月8日生まれ。車いすバスケットボール選手。WOWOW所属。先天性疾患(二分脊椎症)とその合併症の影響で、小学6年から車いすでの生活となる。13歳の時に車いすバスケットボールを始め、高校2年でU23日本代表デビュー。日本代表として出場した東京2020パラリンピックで銀メダル獲得。『車いすでも、車いすじゃなくても、僕は最高にかっこいい。』を上梓した。
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﨑先生の言葉で、車いすユーザーとしての第一歩を踏み出せた

――当時の杉﨑先生の印象を教えてください。

古澤:杉﨑先生は情熱のある先生という印象でした。嘘偽りなく、いいものはいい、悪いものは悪いと言ってくれる。僕に障害があるなし関係なく、いいことをしたらほめられるし、悪いことをしたら怒られる。本当に親身に向き合ってくれる先生です。最近発売した自伝『車いすでも、車いすじゃなくても、僕は最高にかっこいい。』の中でも書いたのですが、僕は小学校5、6年生の頃から、体がどうしてもつらい時には車いすに乗ることになりました。最初は「かっこ悪くて嫌だな」と思っていたのですが、車いすで初登校した時に杉﨑先生が言ってくれた「車いす、かっこいいな!」という言葉にとても救われました。嘘のない先生だったからこそ、本当にホッとしました。あの言葉があったからこそ、車いすユーザーとしての第一歩を踏み出せたのだと思っています。

杉﨑:思わず「かっこいい」と言ったのは本当に正直な感想でしたが、車いすで学校に来ることに抵抗があったことはお母さんからも伺っていました。自分の生活が変わるのは乗り越えなきゃいけないことですし、不安は拭ってあげたいなと思いました。

古澤:歩く距離が長いことや、車いすでの参加は前例がなかったことから、僕が修学旅行に行けない可能性が高かった中、杉﨑先生が学校側に交渉してくれて参加できるようになったこともよく覚えています。

杉﨑:それはどちらかというと古澤くん個人への思いかな。全員で参加したいじゃん! 行けないはずない、なんとかなるでしょ! と。誰かだけ行けないというのが嫌だなという気持ちが強かったんです。

小学校5年の古澤さんと、杉﨑先生。

古澤:あの頃は、病気の進行で足の筋力が落ちていっていて、学校で遊ぶことが生活の中心だったのにそれができなくなっていく過程の、気持ちが急降下している最中でした。みんなと一緒に遊んだりスポーツしたりはできなくとも、クラスの行事には参加できていたので、先生のおかげでいい経験ができたし、楽しい小学校生活でした。
今も当時のように、学校側への働きかけはしているんですか?

杉﨑: 十数年前までは、クラスだけをすごく大切にしていたので、ああいった行動ができたんだと思います。今は学年全体、学校全体も大切にしなければいけない立場になってきたこともあり、やりたいことばっかりはできないなと思っています。隣のクラスとのバランスも考えないといけないですから。それこそ古澤くんがいた6年3組はすごくまとまりがあったのですが、クラスによって雰囲気は差があって。あの頃は自分のせいではない、と思っていましたが、何年かしてから、もっともっと学年で足並みをそろえるべきだったなと気がつきましたね。

子供が望むことを見極めるさじ加減の重要性

――様々な違いを持つ子供たちがいる環境で、均等な教育機会が与えられるように配慮することと、特別扱いされたくないという子供の気持ちの間で悩まれたことはありますか?

杉﨑:それこそ、長い距離を走ることが難しくなっていた古澤くんも参加できるように、運動会の100m走にアレンジを加えることをクラスのみんなが提案しようとしていた時に、「嫌だ」と言ったことがあったね。控えめな性格だった古澤くんが、その時は明確に意思表示をしたので印象的でした。

古澤:僕の友達は運動が好きな人が多く、運動会で輝くために練習しているのを知っていたから、僕のためにみんなが輝けなくなるのは嫌だな、と思ったんです。当時は今みたいに上手く伝えられないから「嫌だ」だけになってしまいましたが……。

杉﨑:その代わり、古澤くんには表現運動の種目で太鼓をたたいてもらいました。

古澤:「めっちゃ大事な役だよ」とプレッシャーをかけられましたが、リレーなどの走る競技に参加できない分、ここで輝くぞ! とモチベーションになっていました。

杉﨑:当時はやれることはできる限り全部やってあげたいと思っていて、古澤くんに「自分だけができない」とは思ってほしくなかったんです。結果的に新しいモチベーションになっていたのならば、成功だったんじゃないかと思います。

ただ、子供たちも変わってきているので、今はさらにこの部分のさじ加減が重要です。全体的に自信のない子が多いので、経験値を上げることに注力しています。上手くいかないことも当然ありますが、失敗しても経験になりますから、じゃあ次にどうする? という発想に切り替えるよう促しています。一方で、特別扱いされることを嫌がる子供もいるので、合理的配慮をしつつ、周囲を見ながら対応するようにしています。例えば、声のかけ方一つとっても、子供の表情を見てサインを出していると感じたら僕が声をかけるし、僕じゃないなと思ったら友達を巻き込んでフォローに入ってもらうこともあります。

――当時の古澤選手のように自分自身の変化に戸惑いを感じている子供と接する際に、意識していることはありますか?

杉﨑:例えば、古澤くんの場合は、入院などで長期間学校を休むことがしばしばありました。そうなるとクラスの変化とか、勉強に対する不安があるだろうなと思っていたので、お見舞いに行った際に伝えるようにしていました。「平気だよ、みんな何も変わっていないよ!」と。

古澤:僕は小学校5年生くらいから少しずつ車いすを使わなくちゃいけないタイミングがあって、その時に先生がオリンピックの話をしながら上手くパラリンピックの話をしてくれたんです。それをきっかけに車いすテニスの国枝慎吾選手の存在を知りました。その後、6年生の終わりくらいに手術をすることを決断して、もう立ってスポーツができなくなること、華やかなスポーツの世界を諦めることを覚悟していました。それでも、卒業文集に「パラリンピックでメダルを獲る」と書いたのは、先生の影響。入院期間中がちょうど卒業文集に取り組む時期だったのですが、先生が病院に来てくれて、本当は「健康」とか「平和」とか書こうとしていたのに、先生に「卒業文集なんて、みんな大きいことを書いているんだよ!」と言われたんです(笑)。

教師の仕事は「あなたらしさ」を認めること

――古澤さんのいたクラスを受け持ったのは、教師になって何年目だったのでしょうか?

杉﨑:2年目です。23歳か24歳の頃だったと思います。

古澤:今の僕のほうが年上なんですね。考えられないです。

杉﨑:若かったから、怖いもの知らずなところもあったんです。ただ、とにかく子供が大好きで、子供たちのためなら何でもしてやるという気概はありました。おかげで周囲から「子供に甘すぎる」と言われたこともあります(笑)。当時は子供たちが楽しくにこにこしてくれていればいいと思っていましたが、今になってもっともっと育てなきゃいけない部分もあったのかなと思います。ここに来るまでに壁はありましたが、こうやって立派に育ってくれた教え子がいるということは僕の自信であり、原点ですね。

古澤:以前から何度も試合に来てくださっていて。先ほど先生から、控えめな性格だったという話もありましたが、人前で意見が言えるようになったのは、U23日本代表のキャプテンなどを務めた経験も大きいです。

杉﨑:本当に、立派になられて、と思いますね。これまでたくさんの子供たちと関わってきた中で、一人ひとりに個性があると改めて感じています。僕はこの個性という言葉をすごく大事にしていて、苦手も得意も個性、本人がプラスと思っていることもマイナスと思っていることも個性、という風に捉えるようにしています。いろんな子がいて、いろんなバックグラウンドを持って生きているのだから、その子たちの今を見つめてあげたい。仕事をすればするほど経験が増え、思考が固くなりがちですが、柔軟性は忘れたくないですね。僕たちの仕事はちょっとした声かけや働きかけで子供の人生を変えてしまう可能性を孕んでいます。個性を認めて伸ばしてあげるとまではいかなくても、あなたらしくいればいいんじゃない、と認めていきたいですね。

写真/五十嵐美弥
文/あまのさき

先生の夏読書に。学級文庫にもぜひ置いてほしい一冊

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冒頭から、杉﨑先生との印象的なエピソードが綴られ、前思春期の多感な時期に古澤さんがどのようなことを感じ、先生からどのような影響を受けてきたか、やがてそれがその後の人生へとどう繋がっていくか、こちらのインタビューとともに読むことで、教職の魅力を改めて感じられる内容です。
「置かれた状況によって人生が決まるわけではない」
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学級文庫に置いて子供たちともぜひ読んでほしい一冊です。

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