『持ち主が分からない落とし物箱』で安心時間が増える【どの子も安心して学べる1年生の教室環境 #8】
学校にわくわくしながらも同時に不安を抱える1年生が、安心して学べる「教室環境づくり」について提案する連載(月1回公開)です。『教室ギア55』(東洋館出版社)や『日常アレンジ大全』(明治図書出版) などの著書をもつ、教室環境づくりのプロフェッショナル〈鈴木優太先生〉が、さまざまなアイデアを紹介します。
第8回は、落とし物が格段に減り、子供の安心時間を増やす『持ち主が分からない落とし物箱』のアイデアを紹介します。
鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア55』(東洋館出版社)、『日常アレンジ大全』(明治図書出版)など、著書多数。
目次
教室環境を整える「三種の神器」
ゴミ、紙、落とし物、「3つの物の住所」を決めることが、散らからない教室への第1歩です。
①ゴミ箱(連載第6回参照)
②紙箱(連載第6回参照)
③落とし物箱
この3つの箱が、教室環境を整える「三種の神器」です。
このような「物の住所」が決まっておらず、子供たちの間でルールが共有されていないことが、乱雑な教室の正体です。
「持ち主が分からない」を目立つように表示する
教室に設けた落とし物箱に、記名のある文房具類が入っていると残念な気持ちになります。「持ち主に届けてあげたらいいのにな」と思うからです。
単なる落とし物箱ではいけません。『持ち主が分からない落とし物箱』を教室に設置しましょう。
「持ち主が分からない落とし物」
この一言を、はっきり目立つように表示することが重要なポイントです。
「持ち主が分からない」という言葉には、「名前が書いていないか確かめて、本人に届けてあげようね」というメッセージが込められています。「どうしても持ち主が分からない落とし物」としても良いぐらいです。
鉛筆1本1本にも記名する習慣を
名前が書いてある落とし物は持ち主(自分)に届くというルールを共有するためにも、持ち物の記名を教室で適宜確認することが大切です。
『気がつくと机がぐちゃぐちゃになっているあなたへ』(リズ・ダベンポート著/草思社)によると、人は1年間で「150時間」もの時間を探し物に費やしているそうです。これは、1日あたりに換算すると「30分間」もの時間になります。
この中には、落とし物に関わる時間も含まれます。「〇〇がない!」となると、見つかるまでの間、私たちの心はぐらつき、ざらつきます。なくした本人だけでなく、一緒に探す周りの人間も同じ気持ちになりますよね。たとえ落とし物をしてしまっても、持ち主の手元に素早く届くちょっとした仕組みのある環境かどうか、たったそれだけでも教室で過ごす安心感は大きく変わるのです。
教室で最も多い落とし物は鉛筆です。
ですから、鉛筆1本1本にも記名することで、教室での落とし物はほとんどなくなります。『持ち主が分からない落とし物箱』の存在により、記名する行為に実感が伴います。
「全ての持ち物に記名する」ということが1年生で習慣化できると、6年生までの間、落ち着いて学校で過ごせる時間は膨大なものになります。このような意図と共に持ち物の記名を子供たちと家庭へ啓発します。保護者の理解と協力を得ることもとても大切です。
『持ち主が分からない落とし物箱』を設置することは、子供にとっても、教師にとっても、教室で過ごす安心時間が1秒でも1分でも増えることにつながります。
保管する期限を決める
『持ち主が分からない落とし物箱』に保管する期限をはっきりと定めます。
例えば、「24時間以内」とします。さらに、この期間は、教室のロッカーの上に平置きしたり掲示したりすることもあります。
期間内に持ち主が見つからなかった落とし物は、教師と一緒に全体で最終確認をした後、すぐに「貸し出し用具」に利用する or 処分するというルールを明確に子供たちと共有します。
「貸し出し用具」に利用する場合は、鉛筆、赤鉛筆などの種類ごとに、フリーザーバッグに入れて保管します。透明で中身が見える食品保存袋であるフリーザーバッグは、とても丈夫で物の整頓に重宝します。
持ち主の見つからなかった落とし物が、誰でも借りることのできる『貸し出しフリーザーバッグ』として、第二の人生を歩みます。
①ゴミ箱、②紙箱、③落とし物箱を上手に運用している教室は整然としています。子供たちの安心時間を増やし、落ち着いた学習環境に直結する3つの箱こと「三種の神器」の一工夫を、ぜひ取り入れてみてください。
参照/鈴木優太『日常アレンジ大全』(明治図書)