ケース別クレーム対応、保護者会…春の保護者対応のキモをまとめます!
春の季節によくある保護者対応を具体例を挙げながらご紹介します。 この記事でとりあげた事例やヒントをもとに、ぜひ保護者とのよりよい関係を築いていきましょう。
執筆/長谷川かほる
目次
1年生入学前後
保護者の不安を思いやって
入学式前のクレームや要望は、入学式後と比べるとそう多くはありません。しかし、どの学校でも前年の秋ごろに実施される新1年生の就学時健診や校長面接などの機会をとらえて、保護者が要望を伝えてくることがあります。また、入学式の何日か前に学校に電話で伝えてくることもありますが、いずれにしても、入学してから担任に要望してくることが多いようです。
♦実際のクレームや要望の例
①「幼稚園のとき、A子のお母さんとうまくいかなかったので、うちの子とA子を絶対に同じクラスにしないでほしい。」(入学前)
②「となりに座っている子がいじわるをしたり、ぶったりする。席をかえてほしい。」(入学から1 〜2 週間後)
③「先生が連絡帳への返事をあまり書いてくれない。」(入学後)
♦学校側の対応として
①について
どちらかといえば、子どもより保護者の問題なので、こうした要望は校長の判断になります。担当者は(入学前で、担任がまだ決まっていないとき)、教頭や校長にそのクレームを伝えましょう。どんな事情でA子のお母さんとの関係が悪くなったのかを支障のない範囲で聴き、子ども同士の関係に影響が出そうであれば、違うクラスにします。しかし、すべてを聞きいれるわけにはいかないので、ときには保護者へ毅然とした態度で、できないことはできないと伝えることも必要です。
②について
入学してから何日かたつと、子どもたちも緊張感が薄れ、友達とのかかわりがでてきます。そんな時期に保護者からの連絡帳の内容で多いのが、この事例のような友達とのトラブルです。とくに、初めてわが子を入学させた保護者は神経質になりがちです。そしてわが子の言い分のみを信じて、担任にクレームをつけてくる人がいます。
こんなとき、一方的に「お宅のお子さんにも原因があります。」などと返事をしてはいけません。まずは、「子どもたち(両者)の言い分をしっかり聞いて指導します。」と伝えましょう。そして、その結果を必ず保護者に伝えることが重要です。ときには、保護者の要望どおりに座席をかえることが必要になることもあるでしょう。しかし、どちらにしても子どもの様子をしっかり見取ることが大事です。そして、必ず記録しておきましょう。
③について
わが子のことを、連絡帳に日記のようにびっしり書いてくる保護者もいます。しかし、担任は一人ひとりの連絡帳にびっしり返事を書く、時間も余裕もありません。そこで、連絡帳の使用目的や受け渡し方法、返事は毎日書けないことなどを、最初の保護者会や学年だより、学級だよりなどで、入学後、早い時期に知らせておきましょう。
クラスがえのあった学年
安心感をもたせることが大事
クラスがえがあった学年は、それぞれのクラスが落ち着くまでに少し時間がかかります。また、新学期のこの時期は、子ども同士のトラブルや保護者からのクレームも多くなります。しかし、この時期に保護者への対応をしっかりしておけば、その後の信頼関係の構築がらくになるはずです。とにかくこの時期の保護者には、〝この先生なら大丈夫〟という安心感をもたせることが大事です。
♦実際のクレームや要望の例
①係の決め方(席の決め方)が公平ではない。
②宿題の出し方について不満がある。(宿題をたくさん出して。出さないで。)
③となりのクラスでは持ってきてよいものが、わが子のクラスではどうしてだめなのか。(シャープペン・蛍光ペンなどの文具類)
♦学校側の対応として
①について
それまでの決め方と、新しいクラスでの決め方が違うのは当然です。まず、子どもたちが理解できるように決め方のルールを説明し、どの子も納得できて、不公平感をもたせないようにします。子どもたちからそれまでのクラスでのやり方を聞いて、部分的にとりいれるという方法もあります。それでも保護者からクレームがきたら、担任としてどのように考えて係を決め、子どもたちにどう指導したか、明確に説明できるようにしておきましょう。
クレームをつけてきた保護者の子どもに、どんなところが納得いかないのか、あらためて聞くことも必要です。また、誤った解釈をしていることもあるので、その子の思いや感じたことを聞く機会をもつことが大切です。子どもへの対応をしっかりとして、子どもの心を受けとめていれば、ほとんどの保護者は、それ以上にクレームをつけてくることはまずないでしょう。
②について
宿題は家庭学習の習慣をつけるためにも必要です。「宿題を出さないで」という保護者には、宿題の意義や、担任としてどんなねらいをもって宿題を出しているのかを伝えましょう。
それぞれの家庭に教育方針があることを受けとめたうえで、学校としての方針を伝えることが大事です。〝勝手なことばかり言って〟という思いで保護者に対応していると、相手も必ず同じように感じるものです。
また、「もっと多く宿題を出して」という保護者には、宿題以外に自由勉強でよいので、家庭学習に取り組んでほしいと伝えます。少し手間はかかりますが、家庭学習での自由勉強にも赤ペンを入れてあげましょう。
③について
これはクラス単位で決めることではなく、学年または学校全体で決めることです。学習に使わない文具類は、ふつうはどの学校でも持ってきてはいけないというきまりがあるはずです。生活指導部と連携して学校全体で共通理解し、クレームをつけてきた保護者には「学校として決められていることです。」とはっきり答えましょう。また、持ってきてもよいとしているクラスの担任には、保護者からクレームがあったことを具体的に話し、学年として歩調を合わせた生活指導ができるようにしましょう。
4 月の保護者会
信頼関係を築く第一歩
保護者は、学校でのわが子のようすを具体的に知りたいと思っています。とくに進級して4 月に行われる保護者会は、担任がどんな先生なのか、教育の専門的な立場の人間としてどのような話をするのか、自分の目で見て、耳で聴いて確かめたいと思っています。だからこそ、この4月の初めての出会いが重要なのです。最初の保護者会を成功させることは、保護者との信頼関係を築くうえで重要な第一歩になるはずです。
♦信頼関係を築くポイント
【教師の話し方】
①明るく、笑顔ではきはき話す。
②子どもたちのエピソードを中心に話を進め、子どもたちのよいところを具体的に話す。
③保護者の思いや願いを受けとめる受容の態度で話を聞き、質問などに誠実な態度で返答する。
④流行語を使ったり、友達感覚のような話し方をしない。
【教室環境】
①整理整頓し、清潔感のある明るい教室環境づくりを心がける。(教室の床、 廊下、掲示物、ロッカーの中などを点検)
②掲示物は、全員のものが貼られているか、事前にしっかりチェックしておく。
③花を教卓に飾るなど、春らしい演出をする。
【開始時刻】
①開始時刻になったらきちんと始め、時間を守る。
②教師は、開始時刻の10分前には教室にいるようにする。
【教師の服装】
①派手でなく、清潔感のある、さわやかな服装をする。
②髪型、服、ネクタイ、化粧、靴など、全体のバランスを考える。
【配付資料】
①保護者に話すことの内容を項目にまとめたレジュメを準備して、それを渡す。こうすると、欠席した保護者にも保護者会の内容がわかる。
②レジュメの裏面や空欄は、メモとして活用できるようにしておく。
【座席の形】
①教卓を真ん中にしてコの字型にする。(保護者がお互いの顔を見られるように)
②保護者はそれぞれわが子の席に座る。(担任が子どもの保護者を覚えるために)
③椅子だけで円形をつくって座る。(より親近感をもって話し合えるように)
【自己紹介】
①自分という人間を保護者に理解してもらうための自己紹介ととらえ、自分自身をひらく。
②ときにはユーモアをまじえ、リラックスした雰囲気をつくる。
③保護者の自己紹介を大事にする。(出席した保護者の顔と名前を覚えるためにしっかり聴く)
運動会前
協力のお願いを伝えるポイント
運動会実施前に保護者にお願いして、協力していただかなければならないポイントがあります。これらは、学年共通のことであれば、「学年だより」で、また、学級担任としてお願いしたいことは「学級だより」で伝えます。
♦規則正しい生活について
▶学年だより、学級だよりのどちらでも
①「早寝、早起き、朝ごはん」について、家庭で協力してほしい。
②毎日の健康観察をして、生活リズムを整えてほしい。
♦体育着や着がえ等について
▶学年だより、学級だよりのどちらでも
①体育着は洗濯して、体育帽などのひもが切れていたらつけてほしい。
②低学年の場合は、着がえに時間のかからない、一人で着脱がスムーズにできる洋服を着せてほしい。
③髪の毛が長い子はしっかり結んでほしい。
♦表現やダンスの隊形、徒競走の順番等について
▶学年だより
①クラスごとにどの場所でダンスの隊形をつくるか、またどのように移動するかなど、隊形移動の場所を図解で示す。
②学年全員分の徒競走の順番とコースを、一覧表にして知らせる。
♦保護者からこんなクレームがあったら
「リレー選手の決め方がおかしいのでは? なぜうちの子がなれないの?」
通常はタイムをとって速い子をリレーの選手にします。しかし何回タイムをとっても同タイムだったり、何回走らせてもほとんど同時にゴールして、はっきり決着がつかない場合があります。そんなときは、当事者である子どもを納得させることができるような決め方をしないと、後で保護者がクレームをつけてくることにもなりかねません。クレームを未然に防ぐためにも、決めるときに子どもたちとよく話し合い、決め方を納得させる必要があります。
〈決め方・例〉
○ 2 〜3回走らせてタイムをとり、一番よいタイムをその子の記録にする。
○ 2人のどちらかに決めなければいけないときは、2人で走らせて、決着をつける。
○リレーの正選手になれなくても、補欠で、いざというときにはかわりに走ることを、あらかじめ伝えて納得させておく。(スーパーサブの存在について)
保護者に「このような決め方をしました。」と、はっきりと言える決め方をしておきましょう。また、リレーの選手にはなれなかったけれど、Aさんはこんなところを一生懸命がんばっているなど、子どものがんばりについて、この機会に保護者に伝えることをぜひおすすめします。
「騎馬戦の練習で、馬がくずれるのはお前のせいだといつも言われている。うちの子は、いつも重いのをがまんしてがんばっているのに、なんでそんなことを言われなければならないの。」
▶対応の例
・騎馬戦の馬になる3人でよく話し合わせ、どこの位置で組めばよいか、教師が相談にのる。
・たとえ馬が崩れても、一人の子を責めないことを約束させる。
・場合によっては、チームをかえることも考える。
・子どもの指導をこのようにしたと伝え、「何事も経験することによって強くなり、ここでのがんばりは必ず後でいきてくるはずです。」と話す。
・保護者に、本人を励ましてほしいとお願いする。
家庭学習
習慣化への協力をお願いする
家庭学習を習慣化させることは、保護者の協力なしにはできません。学年全体で、家庭学習の強化週間(キャンペーン)を設けるなどして、保護者の協力が得られるように取り組んでみましょう。そして、この機会に家庭学習の意義について保護者に働きかけます。
♦子どもと保護者に強化週間の意識を
【生活リズム向上カード・例】
キャンペーン期間用の家庭学習ワークシートや生活リズム向上カードをつくり、家庭学習の強化週間であるという意識を子どもにもたせます。また、保護者にも感想や励ましのことばをカードに記入してもらうなどして、強化週間を意識してもらいましょう。
♦協力が必要であることを粘り強く伝える
子どもたちの家庭での生活リズムを向上させなければ、家庭学習の習慣化はむずかしくなります。家庭学習を習慣化するためには保護者の協力が必要であることを、粘り強く学年だよりや学級だよりで伝え、お願いします。
♦家庭用ワークシートづくりのポイント
家庭学習ワークシートは、それまで学習してきたことを中心に、取り組みやすい問題や、ときには親子で考えるような問題など、子どもの興味関心を喚起するよう、工夫してつくりましょう。時間がなくて手づくりできないときは、それまで使用してきた音読カードや計算ドリル、漢字ドリルなどを活用してもよいでしょう。保護者には、音読カードへの感想やプリントの採点などをお願いします。
♦協力が得られない保護者には
まず、子ども自身に「やればできる」という実感をもたせます。そして、協力できないさまざまな背景、理由が保護者にもあることを理解しましょう。そのうえで、けっして保護者を責めるのでなく、担任としてできる最大のことを考えて実行し、あきらめず、保護者に伝えていきます。
保護者ボランティア
連携してよりよい関係を築く
学校公開や授業参観で、積極的に保護者に参加してもらう工夫をすることにより、教師と保護者のよりよい関係を築くことができます。また、日常的な教育活動でも保護者にボランティアなどをお願いし、教師と保護者がともに子どもを育てていくパートナーシップであるということを、お互いに意識できるようにしていきましょう。
♦保護者ボランティアを募集する
一学期の4月に、お手伝いカードを提出してもらいます。どんなことでお手伝いをしてもらえるかアンケートをとり、登録制にして、必要なときにお手伝いしてもらうシステムにするとよいでしょう。
【保護者ボランティア内容リスト】
授業のお手伝い(学習や教育活動に関するボランティア)
○生活科や校外学習での安全ボランティア
▶付き添いで一緒に活動できる保護者
○算数のそろばん授業での学習支援ボランティア
▶そろばんのできる保護者
○パソコン授業での学習支援ボランティア
▶パソコンのできる保護者
○総合の英語活動での学習支援ボランティア
▶英会話ができる保護者
○読み聞かせや本の整備などの図書館ボランティア
学校行事へのお手伝い(母親だけでなく父親の出番もある)
○運動会の事前準備や後片付けボランティア
▶テント張りや杭打ちなどができる保護者
※お手伝いカードにお父さんにも登録してもらっておくと、男手が必要なときに協力してもらえる。
♦ボランティアを通し、学校への協力度、理解度がアップ
ある保護者の感想
生活科の「まちたんけん」に、安全ボランティアとして参加させていただきました。いろいろなお子さんがいて、先生方の苦労がよくわかりました。担任の先生はこんなにおおぜいの子を、いつも一人でみているのですね。わが子がどんな行動をしているのかもよくわかりましたし、子どもたちといっしょに町探検の学習ができたことがなにより楽しかったです。
このように学校、学級での子どもたちのようすをよく理解してくれ、とても協力的にサポートしてくれる保護者がふえます。ボランティアとして参加してくださった保護者の方へ、感謝の気持ちをはっきり伝えることも担任として忘れてはいけません。
♦ボランティアのお願いのしかた
【ボランティアのお願い・協力チェック表】
【2年ボランティア一覧表】
始めに年間の見通しをもち、保護者ボランティアの活動計画を立てます。各教科の年間計画と照らし合わせ、どの教科のどの単元で、いつごろボランティアが必要かを考えます。学年で話し合っておくのもよいでしょう。
そのうえで、どのような教育活動や学習に、どのくらいの保護者ボランティアをお願いするかを考え、チェック表をつくります。保護者にチェック表を配り、これなら協力できるというものに○をつけてもらい、ボランティア一覧表を作成します。そして、これを保護者に配布します。どの保護者も、年間に1 回はボランティアとして授業に参加してもらうようにしましょう。
イラスト/たなかあさこ
教育技術MOOK『COMPACT 64 保護者対応12か月』より