「結果の整理」や「結果の共有」の改善と工夫【理科の壺】
「理科の授業づくりを頑張るぞ!」と思ったとき、「どんな教材で実験・観察をしようかな?」「どんな感じで考察の話合いを進めるのがよいかな?」ということを最初に検討されることが多いと思います。
一方、「結果の整理・共有の仕方」は後回しになり、授業が失敗しやすいです。そこで、今回は、ちょっとの改善と工夫で授業をレベルアップすることができる「結果の整理・共有の仕方」を紹介します。 優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・武田 陽
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.“失敗あるある” と指導の前提となるポイント
「結果の整理・共有の仕方」には、様々なものがあり、学習内容によってパターン化されているものも多いです。しかし、指導書の板書案通りに結果の整理を行っても、
「あれ…。うまくいかないぞ?」
となることはありませんか? なぜうまくいかなかったのでしょう。まずは、「結果の整理・共有の仕方」場面でどのような “失敗あるある”があるのか、確認してみましょう。
【「結果の整理・共有の仕方」の失敗あるある】
①結果の整理・共有に時間がかかりすぎて考察までたどりつかない。
②学級全体で押さえたい結果のポイントを共有できず、考察もバラバラ。自分の結果からしか考えていない。
また、「結果の整理・共有の仕方」の指導のポイントの説明に入る前に、まずは授業づくりで大切にしたい指導のポイントを押さえておきましょう。。
【ポイント】
①短時間で分かりやすく整理・共有ができるようにする。
②学級内で異なる複数の結果が出ているときは「傾向」「結果のズレ」などについて全体で確認の時間をとる。
もちろん、「結果の整理・共有」の指導に重点を置きたい場合は時間がかかることもあります。どの授業でも、教師が「この授業・単元では、○○の力を身に付けさせたい!」というねらいをしっかりもっておくことが大切です。
この点を確認したうえで、「結果の整理・共有の仕方」の指導のポイントを確認していきましょう。
2.「結果の整理・共有の仕方」の指導のポイント
「結果の整理・共有の仕方」について、基本的には以下のような流れになることが考えられます。
【基本の流れ】
(1)個人や班の結果の記録をノートに書く。
(2)個人や班の結果の記録を黒板に「貼る」「書く」「データ共有」「発言」などの方法を使って学級で共有する。
1つめの「個人や班の結果の記録をノートに書く場面」についてですが、「個人のノートにはどこまで書かせればいいのだろう?」と悩むことはありませんか?
他の人の結果を書いていて子どもたちが話合いに参加しないというケースも見られます。基本的にノートには個人の記録のみを書いて、結果の記録の共有での話合いに参加することが大切です。
2つめの「学級で共有する場面」については、学級全体で得た結果が、子どもたちに目で見て分かりやすいように黒板にまとめます。子どもたちが、黒板に示された学級での結果の記録を比較して考察しやすいように整理していくことが大切です。
3.2つの “失敗あるある” を解決!パターン別解決法
最初に「結果の整理・共有の仕方」の失敗あるあるとして、以下の2つをご紹介しました。
【「結果の整理・共有の仕方」の失敗あるある】
①結果の整理・共有に時間がかかりすぎて考察までたどりつかない。
②学級全体で押さえたい結果のポイントを共有できず、考察もバラバラ。自分の結果からしか考えていない。
ここからは、これら2つの解決方法について、ご紹介します。
(1)失敗あるある①「時間がかかる」を解決!
【授業例】実験結果を「プロット」で示してわかりやすくしてみる
結果が「数値」で出るときに、個人や班のデータを黒板に「数値」で整理すると書くのに時間がかかったり、誤差で混乱したりして時間がかかってしまうことはありませんか?
そのような時に、例えば個人や班の結果をシールなどでプロットしていくと結果の整理と共有の時間が短時間で分かりやすくなります。
実験結果が「数値」で、「時間がかかる」「誤差の処理が難しい」「結果が正確にでない」などの困りポイントが出やすいときにおすすめです。
(例:3年「風とゴムの力の働き」*物理)
プロットを使うと、
・「誤差の処理が難しい」➡ 結果を傾向として見やすくなります。
・「結果が正確にでない」➡ 大きく外れた結果を扱って、原因を学級で話し合うきっかけになります。
(2)失敗あるある②「時間がかかる」を解決!
【授業例】実験結果を「図・絵」を使ってわかりやすくしてみる
「目には見えない物の変化」「時間に伴う変化」を結果として扱う観察・実験では、子どもたちが「どこを見ればいいかわからなくなる」「細かいところにこだわりすぎる」などのことから学級での共有のときに結果のポイントを押さえられないことはありませんか?
そのような時に、例えば図や絵を活用すると結果のポイントを押さえやすくなります。
例えば、4年の「物の温まり方」など、短時間に変化していく様子について、言葉や数値で「結果の整理・共有」することは難しいです。そんな時、言葉と合わせて図や絵の活用することが有効になります。
(例:4年「金属、水、空気と温度」温まり方の違い*化学)
図や絵を使うと、個人や班で表現のバラつきが見やすくなります。 バラつきが見られたときには、それぞれの記録で共通しているところを全体で確認することで、確実に押さえたい結果のポイントを共有できた状態で考察に移ることができます。
(例:6年「土地のつくりと変化」*地学)
「天気」「太陽」「土地」などを扱う単元は各学年にあります。そのような単元では高学年に進むにつれて、「時間」「空間」の広がりが大きくなっていきます。「タイムラプス撮影」や「検索データの活用」なども実験・観察の有効な手立てになりますが、自分の目で見て体感することを大切にして、指導の工夫を行っていけるとよいです。6年「土地のつくりと変化」では、ボーリング試料を活用できます。
ボーリング試料を活用するときには、「シルト=泥」「ローム=火山灰」など難しい言葉を子どもが分かる言葉に置き換えてから観察を行うとよいです。
写真の例では、グループごとに学校敷地内で地点の異なる試料を調べました。
図と言葉で表現したそれぞれの班の結果をつなげることで押さえたい結果のポイントである地層のつながりに気付くことができます。
また、3年「太陽と地面の様子」では、正確な結果を得るために「方位磁針」「温度計」などの扱いをしっかりと身に付ける必要があります。最初は一人一個の器具を操作しながら、扱い方を丁寧に指導していけるとよいです。
4.高学年では自分たちで考えさせたい
今回は3・4年生での事例を中心に紹介させていただきました。子どもたちに3・4年生で基本的な「結果の整理・共有の仕方」のパターンを獲得させ、5・6年生になった時には、自分たちで選択・発想させる機会を増やしていけるといいですね。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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〈執筆者プロフィール〉
武田陽●たけだ・あきら 横浜市立西が岡小学校教諭/横浜市小学校理科研究会役員・横浜市教育課程研究委員(理科)を務め、理科教育の推進に携わっている。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。