小6国語「やまなし」指導アイデア

教材名:「やまなし」光村図書

指導事項:〔知識及び技能〕(1) オ 〔思考力、判断力、表現力等〕C(1)エ・オ
言語活動:イ

執筆/神奈川県公立小学校教諭・鈴木裕乃
編集委員/文部科学省教科調査官・大塚健太郎、神奈川県公立小学校校長・丹羽正昇

単元で付けたい資質・能力

①身に付けたい資質・能力

物語を読み、作者の表現や言葉から豊かに想像し、作品のもつよさを感じ取る力を養うことをねらいます。それに加え、作者の生き方や考え方についても捉え、作品の世界観を作者の生き方や表現されている言葉を根拠に想像力を広げて読む力の育成を目指します。

② 言語活動とその特徴

本単元の言語活動は「物語を読んで想像したことをもとに、考えたことを伝え合う活動」です。「やまなし」に表された世界を、そこで使われている言葉や表現をもとにしながら想像し、自分の考えを書くためには、複数の叙述を結び付けたり、表現の効果を考えたりすることが大切です。

また、作者による独特な表現に着目し、語感や言葉の使い方に対する感覚を意識することも重要です。それらを書評という形式で表す際には、自分の考えが独りよがりにならず、書評を通して作品にふれる読者のことを意識する必要もあります。

今回の書評の項目

  • はじめ…あらすじ、作品との出合いなど
  • 中…作者や作品の特徴、引用など(作品の中で心に残ったところや作者の考え方や生き方に関わるところ、表現のよさについて)
  • 終わり…自分の考え(作品を読んで感じたことや考えたこと)

単元の展開(8時間扱い)

主な学習活動

第一次(1・2時)

①「やまなし」を読んで、初発の感想から疑問を整理し、学習計画を立てる。

【学習課題】自分が想像した「やまなし」の世界を書評にまとめ、友達と感想を伝え合おう。

②「書評」にはどのようなことを書いたらよいのか新聞の書評や教師のモデル文から考える。
→アイデア1 主体的な学び

第二次(3~6時)

③④「やまなし」を読み、独創的な表現や優れた表現を抜き出し、宮沢賢治の人柄と物語とを関連付けて想像する。
→アイデア2 対話的な学び

⑤自分が想像したことをもとに、作品を通して作者が伝えようとしているメッセージをまとめる。

⑥「やまなし」の書評を書く。

第三次(7・8時)

⑦「やまなし」の書評を読み合い、他の人の感じ方や捉え方から新たな気付きを得て、再度「やまなし」を読む。
→アイデア3 深い学び

⑧今回の学習を振り返る。

アイデア1 物語から想像したり考えたりしたことを主体的に書評にまとめる

主体的な学び

児童の初発の感想は「表現が独特。」「不思議な言葉が多い。」「どんな話かよく分からない。」「なんでこのような描き方なのだろう。」など理解しにくいことが多いと思います。そこで、表現やその効果に着目した読みをしていくことを学習計画の中核とし、書評を書くことを言語活動に設定します。

書評の構成は、「はじめ」は作品との出合いを中心にまとめ、「中」には物語の世界を味わうことのできる、感動やユーモアなどを生み出している優れた叙述、暗示性の高い表現、メッセージや題材を強く意識させる表現を引用し、自分の考えにつなげます。

「終わり」は文章の内容や構造を捉え、精査・解釈しながら考えたり理解したりしたことを基に、「やまなし」の世界観を自分がどのように捉えているのかなど、自分の考えを書きます。

今回の書評は、物語から想像した世界を、自分の考えとしてまとめることをねらいとしています。それは、作品中の表現や言葉から、物語の世界をどのように想像したのかという自分の読みを自覚するとともに、表現や言葉の効果について主体的にまとめていくことにつながると考えています。

その意味では、書評にまとめることは目的ではなく手段であり、読み進めていくうちに何度も書き換えることが大切です。その際、ICT端末を活用すると書き換えの負担が減ります。

▼「銀河鉄道の夜」の書評

「銀河鉄道の夜」の書評

アイデア2 自分の読みを見直し、物語の世界を多角的に捉える

対話的な学び

「やまなし」の特徴は、物語が五月と十二月に分かれていることにあります。全文シートを使い、鉱物の表現、オノマトペ、色を表す言葉、登場人物の会話に着目し、比較しながら読むことができます。視点を明らかにしながら比較して読むことで、独特の表現であっ
たり不思議な表現であったりする理由や作者の意図に気付くヒントを得る可能性があります。

例えば、五月のかわせみの表現が、「鉄色に変に底光りして」とあるものは、比較して読まなければ、単にかわせみを表現したに過ぎませんが、十二月のやまなしの「きらきらっとした黄金のぶち」を比べて読むことで、作者が五月と十二月をどのように表そうとしたのかという情景描写の意図にまで気付き、自分の読みについて再考することができます。

五月の「鉄色に変に底光りして上の方へ」がなんだか不気味な暗い感じがします。十二月の「きらきらっとした黄金のぶちが光りました」と比べて、どちらも上へ上がっていったときの場面だけど、真逆の表現がされています。賢治は、五月と十二月を真逆の世界として描きたかったのかな。

オノマトペに注目すると、光を表す言葉が五月は「ギラギラ」とあるけれど、十二月は「きらきらっ」となっている。五月は強くて、恐怖を感じる光り方だけど、十二月は、とてもきれいで明るく温かい、嬉しい感じがする。現実には五月が初夏で十二月が冬なのに、物語では逆転している。この表現が、不思議な世界を作っているのかもしれない。

五月のかにの親子の会話からは、緊張感が伝わるけれど、十二月の会話からは、幸せそうなかにの親子の生活が感じられる。同じかにの親子なのに、登場する生き物や起こる出来事によって、心情の変化が感じられておもしろいと思った。

このように、比較しながら表現やその効果に着目して読んだことを友達と対話することで、一つ一つの表現に丁寧に立ち止まることができます。その結果として、作品との対話が進み、想像が豊かに広がります。

また、場面同士を比較することで、表現に暗示されているものや作者のメッセージのようなものをより意識して読むようになるので、多角的に作品を捉えることにつながるのです。

アイデア3 これからの読書生活を豊かにする読み方を自覚する

深い学び
深い学び

自分の捉えた物語の世界を書評という形で表現したものを他の人と交流し、自分の読書生活に生かすようにします。

同じ作品であっても、実体験や読書体験が異なることで、心に残る言葉や場面、捉え方は人によって違います。他の人とお互いの書評を読み合い、作品に対するお互いの考えを伝え合うことで、作品の優れた叙述やその効果について、自分だけでは気付くことができなかったことに気付いたり、情景描写に基づく登場人物の心情やその変化の新たな部分に気付いたりすることができます。

また、物語に使われている言葉への感覚が磨かれ、強く意識することができるので、作品や作者の魅力がより浮き彫りになります。

ここでねらっているのは、書評を介して意見や感想を交流するに留まらず、他の人との感想や意見の交流をきっかけとして、再度「やまなし」を読むことで、他の人の読みを自分に取り入れて読むことです。

そうすることで、作者の言葉の使い方や表現方法に対する新たな気付きを体験的に得ることとなり、物語から想像する世界が、広がったり深まったりすることに繋がるので、自分の読書生活を豊かにしてくれるというわけです。

再読後の感想

五月は「かわせみ」が川に飛び込み、十二月は「やまなし」が落ちてきます。私が、このことから想像できるのは、自らの意思と自然体ということです。その意味では、〇〇さんが話していた「動」と「静」という言葉が気になったので、その視点でもう一度読んでみたら、確かに五月には動きが感じられ、十二月は静かな感じがしました。五月と十二月が昼と夜に書き分けられている理由が、伝わってきました。

□□さんが言っていた、五月は「かわせみ」を「鉄砲玉」や「コンパスのように」と比喩表現で表し、十二月は「やまなし」を「トボン」や「ぼかぼか」とオノマトペで表しているので、そこに注意して読むということをやってみました。すると、単にたとえたりオノマトペを使ったりしているのではなく、ねらいをもって使っているのではないかと気付きました。比喩表現で鋭さを出し、オノマトペで柔らかさを出しているから、十二月の方が、優しく感じられると思いました。

イラスト/横井智美

『教育技術 小五小六』2021年8/9月号より

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