運動が苦手な子に対する指導アイデア|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
子供たちの自主性を引き出す斬新でユニークな実践が話題の「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、個人差が出やすい教科のひとつ「体育」について、運動に苦手意識がある子に対する指導のポイントを聞いてみました。
目次
苦手な理由=恐怖心を取り除く
勉強にも得意・不得意があるけれど、体育は特に得意・不得意が顕著に表れやすい科目だよね。
とはいえ、どんな運動も習得するためのコツがあり、苦手な理由も比較的明確だ。
だからボクは、教師がその苦手ポイントを理解し、指導法を工夫すればどんな子も上達すると思っている。
例えば、マット運動の前転はできるのに、跳び箱の台上前転ができない場合。
なぜできないのかその理由を考えてみよう。
恐らく誰でも幅1メートルの板の上を歩くことはできるよね。
でも、もしその板が地上300メートルの場所にかかっていたら?
同じ幅の板でも、心理的ハードルがグッと高くなるだろう。
なぜなら、「落ちるのが怖いから」だ。
マット上では前転ができるのに、跳び箱の台上前転が苦手な子は、それと同じ理由かもしれないよね。
そこでまずは恐怖心を取り除いてあげよう。
ただし、「怖がらないで!」「怖くないよ!」と声がけするだけでは恐怖心を取り除くことはできない。
「落ちても痛くない」という環境を作ったり、「落ちても大丈夫」という体験をさせたりすることが肝心だ。
ガムテープを利用したマット運動&台上前転の指導アイデア
例えば、跳び箱の両脇にエアーマットを敷いて練習させるとよいだろう。実際に跳び箱から落ちても痛くない(しかも落ちるのも楽しい)ので、跳び箱が苦手な子も喜んで取り組んでくれる。
また、跳び箱と同じ高さに積み上げたマットの上に、ガムテープを使って跳び箱と同じ幅に合わせて2本のラインを作り、そのラインの間を前転させるのも効果的だ。
体が横にそれても「落ちない」のでより安心感があるし、恐怖心を取り除いた状態で何度も取り組ませることで、きちんと回れば跳び箱から落ちないということも分かるようになる。
実際、この方法で練習したらクラスのほぼ全員、台上前転ができるようになったよ。
どうしても回っている途中に姿勢が崩れて体が横にそれてしまう子には、おへその部分にガムテープを貼ってあげるのもお薦め。
きれいに前転するためには、おへそを見るように意識することが大事。そうすると頭の部分がちゃんとマットに着き、体が丸まって上手に回りやすくなるからだ。
でも逆さになると感覚を失ってどこを見てよいかわからなくなってしまうこともあるよね。だからおへその部分にガムテープを貼り、意識すべきポイントを示してあげるといいだろう。
水泳指導のポイントは「浮く練習」と「息継ぎ」
水泳が苦手な子の多くは、恐怖心から前を向いてしまったり、頭全体を水から上げて泳ごうとしたりするので、足や腰から沈んでしまう。だからなかなか泳げるようにならない。
とくに子供の場合、頭部は身体の中で最も重量があり、浮力を受ける部位。浮くか浮かないかのポイントもこの頭の位置にかかっている。
まずはあおむけになった状態で浮く「背浮き」をさせて、後頭部を水につけていると浮きやすくなるという感覚を覚えさせよう。
また、息継ぎが上手にできない子の場合、顔は外に出ているのに、息が吸えずに慌ててしまう子が多い。
この場合は一度息を吐かなければ空気は吸えないということを教えてあげる必要がある。
顔を上げる直前に、鼻から息を吐き、顔を上げると同時にしっかり息を吸う練習をさせてあげよう。
運動の得意・不得意は「取り組んだ量」で決まる
運動が苦手な子は、「自分は運動ができない」と決めつけているけれど、実は経験が少ないだけ。
ボクは小学生レベルであれば、運動の得意・不得意は結局のところ、「取り組んだ量」だと思っている。
例えば走るのが速い子は、常に走っているよね。
体育の時間だけでなく、家から学校までも走って来るし、休み時間は常に校庭を走り回っている。
ダメだよと言われても廊下を走って移動するし、教室で「先生のところにプリントを取りにおいで」と言うと、どんなに狭い場所でも走って取りにくる(笑)。
つまり、練習量が違うから人より速いだけなんだよね。 だから、運動に苦手意識がある子も、上手に恐怖心や苦手意識を取り除き、楽しく何度も取り組ませることで必ずスキルアップできるはずだよ。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵