写真の見せ方ひと工夫で観察力アップ&課題意識向上【タブレットで変わる授業デザイン】#1
GIGAスクール時代に、いよいよ超スマート社会(Society5.0)へ移行する時が来ました。教師の皆さん、学校の授業も新しくデザインしましょう。子どもたちが自ら学び、深く思考し、楽しむ学習を創造するために、タブレットはそれを可能にするツールです。
ICT活用認定ティーチャー等のいくつもの資格をもつ西尾環先生が、小学校の現場で自ら取り組んできた授業実践の中から、今回は、タブレットのカメラ機能や、画像の表示を工夫した授業デザインを紹介します。
執筆/熊本県公立小学校教諭・西尾 環
目次
01 写真の一部拡大でクイズ大会
2年生活 はるのいきものクイズ大会をしよう
生き物の美しい模様や面白い形・色に気付き、進んで詳しく観察したり記録したりしようとする態度を養います。
生き物の体の一部をタブレットで撮影して提示します。大きく映し出すことではっきりした形や鮮やかな色を目にすることができ、観察に役立ちます。また、クイズ形式で問うことで、子どもは、生き物の姿に対する関心が高まり、詳しく見たり探したりしようとする態度が育ちます。
①校内の昆虫や花など身近な生き物を、教師がタブレットのカメラで撮影し、美しい形や色の模様をアップして提示します。羽の模様を拡大した写真を見て、どんな形や色かを答えます。
「シマシマだ」
「三角の形がある」
②何の生き物なのか、想像します。
「シマウマかな?」
「アゲハチョウ!」
③アゲハチョウの実物か、全体写真を見ます。
「やっぱりアゲハチョウだ! 形と色で分かった」
④野外に出て、生き物探しをします。
⑤見つけた生き物の模様を観察し、絵に描きます。(子ども用タブレットがあれば、写真に撮ります)
⑥自分たちが見つけた生き物で、「いきものクイズ大会」をします。
クイズという言葉に子どもたちはやる気を見せ、大いに盛り上がりました。また、なるべく他の人と違う生き物を探そうと一生懸命に活動しました。
撮影はなるべくアップにしたほうがよいですが、焦点をきちんと合わせて写しましょう。タブレットは指で拡大したり(ピンチアウト)、縮小したり(ピンチイン)容易にできます。その方法で、部分だけを見せることが可能です。また、カメラや写真のアプリが標準的に搭載されています。それらを使って、画像の一部を切り取る方法でもよいでしょう。
写真を活用した授業は、様々な教科でいろいろなことをねらいにして行うことが可能でしょう。以下、例です。
●図画工作1・2年:動物園に行って絵を描く場合、事前に動物の写真の一部を隠してどんな形かな? と問いかけたり、わざと白黒で示して本当の色は何でしょう、などと考えさせたりすると、しっかり形や色を見て描きます。
●外国語:身の回りの物の一部を撮影してスライドにして見せながら教師が “What is this?” と尋ね、子どもたちが “It’s a book!” と答えるように仕向けます。これを歌いながら行うと、チャンツになり、楽しい英語の授業になります。
02 問いを立てる、導入の資料提示の工夫
5年社会 工業のさかんな地域
余分な情報を遮断し、必要な問題や資料だけを見て、学習に集中できるようにします。特に導入で問いを立てるため、多くの資料があっても、それぞれの意味を理解し、関連付けて問題意識をもてるようにします。
ある教科書の「工業のさかんな地域」は、見開き2Pで様々な情報・資料が掲載されています(下図参照)。その中から、資料を数枚タブレットで撮影して1枚ずつ提示します。「資料を関連付けて考えよう」と述べられていますが、これだけの資料を、一斉に目にすると、混乱する子どもが多くいます。したがって、効果的な順番で必要分だけ1枚ずつ見せて確認していくと、自分たちで問いも立てられます。特に、注意力散漫な特性をもつ子どもに対する支援にもなります。
①教師がタブレットで撮影した教科書資料(各工業地帯、地域の写真)を1枚ずつ見ながら、気付きを述べます。
「工場がいっぱいある」
「海が見える」
②工業生産額の帯グラフを見て、気付きや疑問を述べます。
「差があるなあ。中京工業地帯が1番多い。」
「それぞれ、どこにあるのだろう?」
③学習の問いを立てます。
「それぞれの工業地帯は、どこにあって何を作っているだろう」
④教科書を開いていろいろな資料を関連付けて、その答えをまとめます。
1枚ずつ見せたことで、子どもは、それぞれの資料の意味を、的確に捉えることができました。帯グラフも算数の学習とつなげて、考えることができました。
もし、デジタル教科書で資料が別々にある場合はそれを活用できます。社会科資料の場合、1枚で見せても文字が小さい時がありますから、ズームアップして見せることも忘れないようにしましょう。
教科書資料を分割して提示する手法は、多くの教科で使えます。
●算数全学年:算数の教科書には、問題と同時に解き方のヒントが述べられていたり、同じページにまとめが書かれていたりします。そこで、自ら考えさせたい場合などは、問題を切り取って提示するとよいでしょう。
●図画工作全学年:図画工作の教科書は、参考作品や製作過程、活動場面など大量な情報が色鮮やかに目に入ってきます。一斉指導で見せたい部分を絞って提示することで、子どもは必要な情報に集中できます。効率よく造形活動も進めることができるでしょう。
03 構想を立てる力を養う工夫
6年図画工作 お気に入りの場所を描こう
自分の思いを表現するために、写真を活用して、形や色、奥行きなどを工夫して表す構想を立てる力を養います。
子どもがお気に入りの場所の風景を、数枚タブレットで撮影します。教室に戻り、タブレット内の写真から描きたいシーンに近いものを1枚選び、絵を描くときの工夫などを書き込みます。
時間の制限や天候などによって、常にその場所で描けるわけではありません。また、どのように工夫して表すかは、一人ではなかなか考えづらいものです。そこで、教師の一斉指導のもと、写真をもとにして構想を立てると学習が進みます。
①教師が教科書の参考作品を分割撮影して映し出した画像で、絵の鑑賞をし、絵の主題や描き方の工夫を見つけます。
②一人一人タブレットを手に校内を歩き回り、描きたいお気に入りの場所を数か所撮影します。
③教室に戻り、その中から、最も表したい場所の写真を1枚選び、絵にどのように表すか書き込みます。ここでは、ロイロノートというアプリに写真を取り込んで行います。
構想図があったことで、子どもたちは、スムーズに絵を描くことができました。自分の思いを表現するというねらいを多くの子どもが達成し、満足感を得ました。
大切なのは、「写真通りに描かなくてよい」と助言を与えておくことです。その日の天候や季節によって風景は変わるもの、また気持ちによって感じ方も変わると伝えます。子どもたちは安心して省略や色の変更を考えます。
また教師側のタブレットに子どもたちの構想図を入れておいて、表現活動の際に電子黒板に映し出しておくと、意識して描くこともできます。
子どもがタブレットの写真や図に、考えを書き込む例です。
●3年理科:太陽とかげを調べよう
時間が経つにつれて、影の向きがどうなるか調べる時に、最初の時間に写真を撮り、予想を書き込ませると、結果と比べることができてよいでしょう。
●3年社会・総合:学校の周りを調べよう
学校の周りや校区の上空から撮影した写真(GoogleMapなど)に、見学のコースや施設等を書き入れると、俯瞰的に見たり見通しが立ったりします。
西尾 環(にしお・たまき)●熊本県立公小学校教諭。小学校教諭として学校現場一筋。体育主任、研究主任、教務主任などを歴任。熊本大学教育学部情報教育研究会、熊本県市図画工作・美術教育研究会、学級づくり研究会、D-project(デジタル表現研究会)、ArtMile共同壁画プロジェクトなどで長年活動する。ADE2011、ロイロノート認定ティーチャー、シンキングツールアドバイザーなどの資格を持つ。
過去に、「日本子どもの版画指導者賞」「ちゅうでん教育大賞優秀賞」「D-pro booksアワード賞」など受賞。著書に「ゼロから学べる図画工作授業づくり」(明治図書出版)、分担執筆に「楽しい!学級づくり5・6年」(小学館)など多数。
GIGAスクール構想で、学校現場も本格的なタブレット活用の時代です。ICTの先進的な熊本市のベテラン教師が執筆。小学1年生から6年生までの、タブレットを活用した様々な授業実践を紹介しています。タブレット1人1台の時代に、すぐに役立つ授業デザインが満載です。
著/西尾 環
発行/小学館
B5判/80頁
ISBN:9784091126047
構成/浅原孝子 イラスト/藤崎知子