小学校の「探究学習」授業づくりやテーマ例紹介<後編>

東京都公立小学校教諭

渥美卓哉

東京都・三鷹市教育委員会は、勉強を教えない興味開発型の塾として全国的に注目を集める「探究学舎」と共に「探究的な学び」の視点を取り入れた授業づくりに取り組んでいます。その成果発表の会「探究カンファレンス」の様子をレポート! このカンファレンスで発表された授業内容を紹介しますので、ぜひ、授業づくりのヒントにしてください。

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小学校の「探究学習」授業づくりやテーマ例紹介<前編>

探究カンファレンス2回目トップ渥美先生写真
授業を行う渥美卓哉先生(三鷹市立第六小学校教諭)。4月16日、三鷹中央学園三鷹市立第三小学校「探究カンファレンス」にて。

約30人の三鷹市の先生が、約半年にわたって探究学舎の研修に自主参加し、自分のやりたいテーマで授業をつくってきました。今回は、その中から、探究カンファレンスで見ることができた一部の授業をご紹介します。探究学舎の授業づくりの3つの要素は「帰納的学習法」「ドラマツルギー」「ドライビングクエスチョン」。その詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。

提案授業 「時計の真の力にせまる~時間の常識を超越した二人の男~」

授業者:三鷹市立第六小学校教諭 渥美卓哉

授業全体の概要(45分)

砂時計、クォーツ時計、スマートウォッチなど、時計といってもさまざまな種類があることを確認し、「正確な時計の順に並べる」という活動からスタート。

普段、「時計は正確なもの」だと感じている子供たちは、よくよく考えるうちに、時計の正確さには差があることに気づく。そして、究極に正確な時計(300億年に1秒の誤差)である光格子時計というものがあることを知る。

しかしそもそも、なぜそんな正確な時計をつくる必要があるのか?

それは、アインシュタインの相対性理論を証明するためだったことに触れ、2019年にスカイツリーで光格子時計によって相対性理論が証明された実験を紹介。さらに、その相対性理論に支えられ、正確な時計は、時間を知るという使い方とは違う使い方で私たちの生活を支えていることを伝える。

「なぜ、こんな正確な時計をつくるのか?」

ふりこ時計、砂時計、クォーツ(水晶)時計、スマートウォッチ、原子時計、日時計という6つの時計を正確な時計の順に並べるというクイズからスタート。時計のイラストカードをグループごとに配り、子供たちに正確な順に並べさせる活動を入れました。

探究カンファレンス2回目子供がカードを並べる写真
6種類の時計を正確な順に並べる活動。子供たちはグループごとに相談しながら一つの答えを出していきます。

6つの選択肢の中で、一番正確なのは原子時計(数千万年に1秒のずれ)でした。しかし、もっと正確な、300億年に1秒しかズレない光格子時計というものがあることを紹介。しかし、「なぜ、こんな正確な時計をつくるのか?」と問いを投げかけると、子供たちはその問いに強く引きつけられます。これこそがドライビングクエスチョン。

探究カンファレンス2回目、なぜ正確な時計をつくるのかというパワポの写真
先生からの問いに、「どうしてだろう?」と子供たちは一生懸命考えました。

子供たちにしばらく考えさせてから、「あの科学者の理論を確かめたかったから」とタネあかしをします。あの科学者とは、アインシュタイン。その理論とは相対性理論。「相対性理論っていうのは簡単に言うと、めちゃくちゃ速く動くと時間が遅くすすむ。重力が弱い場所にいると時間が早くすすむっていう理論です」と、渥美先生はシンプルに理論を説明。2019年にスカイツリーで行われた光格子時計を使った実験の結果、すなわち、高さ450メートルの東京スカイツリー展望台の時間は地上よりも1日に10億分の4秒速く進んでいたという事実によって、(一般)相対性理論が実証されたことを解説。

「すごい!」という空気に包まれた教室。しかしここで、渥美先生はさらにゆさぶりをかけます。香取教授のように正確な時間を追求することや、アインシュタインの相対性理論は、何かの役に立つのか? これが二つ目のドライビングクエスチョン。 「確かに…」教室がそんな空気になったところで、実は、正確な時計と相対性理論がなかったら、GPSを使えなかったという事実を伝えます。

探究カンファレンス2回目渥美先生の授業風景写真
「2人のやったことって役に立つの?」というドライビングクエスチョンで、子供たちをぐっと引き込みます。

GPSのしくみを子供たちに説明するのはかなり大変なことですが、渥美先生は、コンパスで3点からの距離が決まれば位置が特定されること、速さ×時間で距離が求められること、という、小学生にとって身近な法則を用いて説明しました。3機の衛星(実際は4機使っている)から一定速度で電波を飛ばし、地上の測定位置まで届く時間がわかれば、測定位置が求められる。小学生でも納得感のあるシンプルな説明で、テンポよくすすめていきます。
衛星にのせている時計がちょっとでもズレてしまうと大きく距離がズレてしまうことを体感させ、正確な時計と相対性理論という、一見私たちと何の関係もないようなものが、私たちの便利な生活を支えているという驚きに包まれ、授業は終わりました。

子供たちの感想

時計の歴史の理論と技術が分かってよかった。

スマートウォッチより正確な時計があるとは思わなかった。

アインシュタインの相対性理論をもっと知りたい。

アインシュタインの理論と、正確な時計がないとGPSが使えないことを知って驚いた。

優先するのは驚きと感動、説明はコンパクトにする工夫をしました

探究カンファレンス2回目渥美先生写真
渥美卓哉先生

授業後、渥美先生に感想を聞きました。

「私は、宇宙にとても興味があり、その興味のおかげでこの授業を作れたようなものです。何十時間かかったか分かりません(笑)。

ドライビングクエスチョンは『何のためにこんな正確な時計を作るのか?』そして『2人のやったことは役に立つの?』の二つ。子どもたちが問いの解決に向かって試行錯誤するワクワクした時間をしっかりとるために、思考に必要な知識を説明する部分については、詳細まで正確に説明するということよりも、コンパクトなわかりやすさを重視しました。相対性理論やGPSについて詳しく正確に説明しようと思ったら、時間がいくらあっても足りませんし、わかりづらくなります。私は算数や数学が苦手だったからこそ、どう説明するとわかりやすくなるか、ということが見えた気がします。

個人的には、やりたかったけれどできなかった活動もあったのですが、今回の研修を受けての自分の授業として、自己採点では8〜9割あげても良いかな、と思っています。子供たちが、一生懸命考えていたり、驚いていたりする顔を見ることができてとても嬉しかったです」

■探究学舎では、この研修を様々な自治体へ広げていく予定です。
興味のある方は、こちらへお問い合わせください。
support@tanqgakusha.jp

取材・文・構成・撮影/浅原孝子


いかがでしたか?
今回の探究カンファレンス、自己採点が高かった先生も目標に至らなかった先生もいましたが、試行錯誤する先生の姿を見ることが子供たちへの素晴らしい刺激となるだろうと思います。応援しています!

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