GIGAスクール時代の授業づくりとは 『創造性を育む「1人1台端末」活用授業』出版記念特別対談
『創造性を育む「1人1台端末」活用授業』出版を記念して、千葉県柏市立手賀東小学校・佐和伸明校長、放送大学・中川一史教授に対談をしていただきました。GIGAスクール時代の授業づくりや教師に必要な力がよく分かります。

目次
子供が主体的に学ぶなかで、創造性を育む学びを
――文部科学省で打ち出しているGIGAスクール構想において求められる「創造性を育む学び」とはどのような学びでしょうか。
中川 「創造性を育む学び」は、2019年、GIGAスクール構想に関する文部科学大臣による「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育 ICT 環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~」において「この新たな教育の技術革新は、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない公正に個別最適化された学びや創造性を育む学びにも寄与するものであり、特別な支援が必要な子供たちの可能性も大きく広げるものです」(抜粋)というメッセージが伝えられたことが大きな影響を与えました。
子供たちが端末を使って学ぶことは、令和の時代におけるスタンダードな学習の姿とされ、「個別最適化された学び」と、「創造性を育む学び」の実現が求められています。授業において、課題発見をし、課題に向けて情報収集をして、課題解決に向かっていくなかで、新しい発想をしていきます。そのような学びが創造性を育む学びにつながるでしょう。

佐和 学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」に取り組むことが提示されています。教師から一方的に教わって知識を増やすという学習を超えて、子供が主体になった能動的な学びが求められています。主体的な学びのなかでも、自分なりの発想を生かして「創造すること・発信すること」が創造性を育む学びと言えるでしょう。
それは、1つしかない答えを探すだけでなく、正解かどうかは分からないけれど、自分もしくは自分たちが納得できる一番適した答えとなる「納得解」や「最適解」を見つけ出すことによって、新しいものを創造していく力が付いていくものだと考えます。

――創造的な学びを育む際には、情報活用能力が重要になると文部科学大臣のメッセージにもありますが、情報活用能力とはどのような力ですか。
中川 学習指導要領では情報活用能力とは、「世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」であるとしています。
具体的には、「学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり、情報を整理・比較したり、得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり、必要に応じて保存・共有したりといったことができる力」であり、さらに、「このような学習活動を遂行する上で必要となる情報手段の基本的な操作の習得や、プログラミング的思考、情報モラル等に関する資質・能力等も含む」ものだと提示しています。
学習指導要領では、情報活用能力を言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けているのです。言語能力はだれしもが大事なことは分かっています。それと同等に情報活用能力が重要だということなのです。これまではICTが得意な先生に任せていればよいというような雰囲気があったかもしれませんが、得手不得手関係なく、全教師で育成していく力なのです。
佐和 創造性を育む学びといっても、思い付きで何かをつくっただけでは、子供たちに力がつくことは期待できません。途中のプロセスでの学びが重要になります。子供たちは、学習の中で発見した課題の解決に向けて、必要な情報を集め、集めた情報を整理・分析し、伝えたいことや伝えたい相手を明確にして、発信したり、成果物をつくったりします。そのプロセスこそが情報活用能力と言えるのです。
子供自身が考え、新しいものをつくっていけるような単元開発が必要
――1人1台端末時代になり、教師はどのような授業づくりをすればよいでしょうか。また、教師にはどのような力が求められるでしょうか。
佐和 創造性を育む学びは、子供自身の活動や体験を通した学びが中心になってきます。そこでは子供たちが教師にやらされていると感じるような活動やはじめから答えが決まっている学習内容では、創造性を育む学びは期待できません。子供自身で考え、子供自身の工夫で新しいものをつくっていくような単元を通した課題設定が重要になってきます。教師にはその課題設定ができる授業デザインを立てる力が必要になります。
中川 私は、全国の学校に講師として呼ばれますが、21年度前半は「端末をどのような学習場面で活用するのか」というテーマが多かったのですが、年度後半以降は日常的な活用やおさえるべき情報モラルを教えてほしいという要望が増えてきました。ICTを使った学びも次のフェイズに移ってきたということを感じました。自分たちがどのフェイズにいるのかという認識とともに、佐和先生がおっしゃるように、どのように学びを深めていくかという単元開発をする力が教師にとして求められています。
――1人1台端末の授業づくりのために、教師は何をどのようにすればよいでしょうか。
佐和 教師が一斉伝達型の授業から、子供主体の授業に変わるということを強く認識することが大切です。教師が一方的に話して、子供が聞くだけという授業スタイルを子供たちは望んでいないのです。また、そのようなスタイルは、子供の主体性を奪ってしまうことになります。
中川 子供主体の学びというのは、教師のパラダイムシフトが必要なのです。よかれと思って子供に手取り足取り、教え込んできた教師もいました。それは、子供がつまずかないように、子供が困らないようにと子供のためを思ってのことです。しかし、それによって、結果として子供を思考停止にしてきたことがあるのではないでしょうか。
誤解を恐れずに言えば、教師は少し不親切になる必要があると思います。もちろん、子供への見取りや支援は必要ですが、子供が困ることも含め、子供自身が考える場を保障すべきだと思います。
佐和 子供が主体的に活動するためには、単元開発が重要になります。これは1人の先生が考えるというより、学校全体で考え、授業も見せ合い、開発していくことがよりよい単元開発につながります。校長職である私は単元開発の相談役となって進めています。単元開発をするときには、様々な教科と横断させる、外部の支援者や外部の専門家とつなげるなど、広い視野をもつことが大切です。
中川 教師みんなで考え、情報共有することがとても重要になります。GIGAスクール構想時代の今は、教師がICTを得意とするかそうでないかということを飛び越えています。紙のノートの場合、子供が1人で書き上げるというのが普通でした。しかし、ICT端末は、友達と、あるいはクラス全体で共有することが日常の風景になります。授業デザインも教員集団で、どういう学びができるかを協働していくことが望まれます。