「レジリエンス」とは?【知っておきたい教育用語】
子どもたちが、いじめ、感染症、災害などの危機的な状況に直面したときのために、どのような力を、どのように育成すべきかが問われています。「レジリエンス」は、今後の社会を考える上での重要なキーワードとなっています。
執筆/文京学院大学外国語学部教授・小泉博明
目次
「 レジリエンス 」とは
2020年に、打ち上げたアメリカの民間宇宙船クールドラゴンの機体を、搭乗した野口聡一宇宙飛行士らが「レジリエンス」と命名し話題となりました。これは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染が終息し、再び世界全体が日常を取りもどすことを願ったからです。
レジリエンス(resilience)とは、復元力、回復力、弾力を意味する言葉です。精神医学や心理学では、「困難で脅威を与える状況にもかかわらず、うまく適応する過程や能力、および適応の結果のことで、精神的回復力」(最新心理学事典、平凡社)のことをいいます。今では、職務上のストレスで心身を病む従業員を出さないために、レジリエンスを向上させる企業研修も増加しています。「心が折れる」といいますが、レジリエンスはまさに「折れない心」を持つこととも言えます。
学校におけるレジリエンス
人間は誰でも満足した生活を送っている状態、ウェルビーイング(well-being)であることを望みます。ましてや発達段階にある子どもたちにとってそれはより必要なことです。また、学校は子どもたちにとって安全で安心できる居場所でなければなりません。しかし、子どもたちにとって危機的な状況となる要因があります。自然災害(地震、津波、豪雨など)、戦争、感染症などもあれば、子どもの自殺、学校活動における事故、あるいは個人的な疾病、両親の離婚や失業、転居などの要因もあります。
このような危機的な状況における 子どもたちの心の支援として、アメリカで考案されたモデルを踏まえ、日本の学校の実情に合わせた「予防」「準備」「対応」「回復」の4つの段階モデルが論じられています。とくに「予防段階」では、①ソーシャルスキルを育てる(対人関係のスキル、助けを求めるスキル、問題解決のスキル、感情をコントロールするスキル)、②自尊心を高める、③レジリエンスを育てる、④適切な時間的展望を獲得させる、といった点を高めることが求められます。(渡辺、2016)
また「回復段階」では、危機が発生した学校において安全・安心の回復、そして日常性の回復を支える支援が重要な役割となります。今後は、さらに学校の教育活動の中にどのようにレジリエンスを織り込むかを考案し、例えばカリキュラムの中に含めていくことや、学級経営に導入することなどの検討も喫緊の課題となっています。(小林、2021)
悲鳴をあげる身体
現代は「身体が過剰に観念に憑かれてしまい、観念でがちがちに硬直している、つまり身体に本質的にある〈ゆるみ〉を失っている、だからとても脆くなってすぐにポキッと折れそうなのだ」(鷲田、1998)、だからこそ「身体に宿る〈ゆるみ〉や〈すきま〉の感覚」(鷲田、1998)が必要であると言います。子どもたちの張りつめた状態に対して、レジリエンスには弾力性という意味があり、しなやかに適応し生き抜くことが求められているのです。
予測不能な多様な時代を生き抜くには、子どもたちのレジリエンスだけではなく、教員もレジリエンスを身につけて、未来を担う子どもたちを育成しなければならないのです。
▼参考資料
渡辺弥生(2016)「予防教育としてのレジリエンスの育成」臨床心理学、16(6)
小林朋子(2021)「学校教育を活かした子どものレジリエンスの育成-学校危機の予防と回復を支えるアプローチ」教育心理学年報第60集
鷲田清一『悲鳴をあげる身体』(PHP新書)
ベネッセ教育情報サイト(ウェブサイト)「令和の子どもには「レジリエンス」が必要?! 宇宙飛行士の野口さんが搭乗機に名付けた「レジリエンス」とは」