【木村泰子の「学びは楽しい」#2】「教える授業」から「子どもが主語の授業」へ

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

雑誌「教育技術」の人気連載「学びは楽しい」が、2022年度よりウェブ版としてリニューアル、再スタートしました! 映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長、木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスします。今回は、新学期、誰もが気になる「授業のつくり方」についてのお話です。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

木村泰子の「学びは楽しい」5月 イラスト
イラスト/石川えりこ

子どもの表情を見ていますか?

コロナ禍で、ほとんどの講演やセミナーがオンラインでの実施でしたが、3月の終わりに久しぶりに対面でのセミナーに出かけました。

オンラインでもできることはたくさんあるとチャレンジしてきましたが、対面との違いをリアルに感じました。そこでは、学び合うすべての時間に、目の前の人たちの表情がつぶさに見え、息づかいを感じることができるのです。

コロナ禍以前は対面がすべてでしたが、ここまでその価値を感じることはありませんでした。それは、対面での講演が当たり前だったからです。ところが、オンラインでの講演が当たり前になった今、対面での学びがどれだけ大切であるかに気づくのです。

あの人の表情が曇ったな、涙を拭いている人がいる、うなずいている、首をかしげている、ほとんどの人が笑っているが表情一つ変えずに座っている人がいる……など。

もちろん、私が独りよがりに感じることで、正解なんてありません。ただ、伝える側の言葉は、そのつど予定している言葉ではなく、瞬時に伝えたい言葉に変わっていきます。

オンラインでも「自分から 自分らしく 自分の言葉で語る」ことは変わりません。ただ、本当に一方通行の言葉になってしまうのです。この人たちに今はこの言葉を伝えたいと、伝える側のニーズがほとんどを占めてしまいます。伝えた後で、感想や質問タイムがあっても、なかなか豊かな学びの時間にはならないですよね。聴いている間に頭の中がモヤモヤして自分で考えているうちに時間は過ぎていくわけです。

そんな一方向の学びを終えて、聞いていただいたみなさんが感想を送ってくださいます。ためになったとか考え直しをしたとの感想をいただいて、それなりに自分の講演を(まあ、よかったかな……)と自己評価してしまっていた自分にやり直しをしなければ、と痛感した対面での時間でした。

否定的な感想を書いていただく方にこそ向き合って対話が必要です。それでなければ子どもを取り巻く社会の空気は変わりません。

授業も同じです

いい授業をすることが目的になれば、子どもはそのための手段になってしまいます。

「先生の授業、まったく面白くないわ!」と、教室から子どもが出ていく場面に出くわしたとき、何を感じてどんな行動をとりますか? 子どもがこんなふうに言ってくれればまだいいのですが、何も言わずに黙って出ていく子どももいます。こんな子どもはだめな子どもですか? 協調性がない子どもですか? それとも我慢ができない迷惑をかける子どもですか? 授業者の自分に逆らう子どもですか?

「自分の言うことを聞いてくれない子がいる」と悩んでいる先生たちが全国にたくさんいますが、この瞬間はピンチですか? ピンチと捉えるから、落ち込んで自信を失っていくのでしょう。チャンスなのですよ。

私自身も、今だからみなさんにそう伝えることができるのです。教員時代は、(子どもに問題がある!)と思いたい自分がいました。しかし、多様な社会の多様な価値観の中で生まれて育った子どもが小学校に入学してくるのです。一人一人違っていることは当たり前です。「先生」という一人の大人の価値観で目の前のすべての子どもを教えるのが先生の仕事だなんて考えていたら、子どもが不幸です。

時代は動いています。学ぶのは子どもです。これまでのように「いい授業」をするために教材研究に多くの時間をかけ、わかりやすい授業をするために教材の準備をして授業に入るというあり方でいいのでしょうか。計画通りの授業の進め方に子どもをはめ込んでしまいますよね。そんな授業を進める中で、一人一人の子どもの表情は見られますか?

「子どもを主語に」との言葉は広がっています。じゃあ、これまでの「教える授業」から「子どもが主語の授業」にチェンジするにはどうすればいいかを問い直していますか?

極端な表現をすれば、本時の課題とまとめがブレていなければ、どのような展開になろうと、「その子がその子らしく」学んでいるならいいのです。整然と座って、シャキッと手を挙げて、「はい」と返事をする子どもの姿が目的ではありません。子どもが本気で考えているときって、みんな違いますよ。机の上に肘をついたり、床に座ったり、その子なりのリラックスした姿になっています。

大人の私たちも緊張した職員会議のような場では自由な発想は生まれません。職員室でお茶を飲みながら雑談している中で豊かな言葉が生まれてきます。子どもも同じです。従前の学校教育の中で評価されてきたような、みんなが同じ姿勢で同じ表情で授業を受けている「きっちりした授業」では、一人一人の子どもの考えやつまずきや困り感などが先生たちに見えるはずもありません。

残念ながら、まだまだ「授業は指導案・板書・発問を重視」との考えは残っています。もちろんこれらが必要ないと言っているのではありません。このことよりも最上位の目的を問い直したいと思っています。見える姿がバラバラで落ちつきがないと評価されることより、「すべての子どもが、この時間、自分らしく学んでいたか」という評価が大切な時代になっていることを忘れないで行動してほしいと願うばかりです。

大人の価値観で計画通りの「いい授業」をするより、「その時間、すべての子どもが、その子らしく学んでいたか」を大切にしよう。

 

木村泰子の「学びは楽しい」
プロフィール画像

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

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