自由奔放な母親が無免許運転と薬物使用で逮捕された!〈前編〉~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド①~

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一般社団法人Center of the Field 代表理事/スクールソーシャルワーカー

野中勝治
スクールソーシャルワーカー日誌
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(写真)
野中勝治

Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。

自由奔放な母親が無免許運転と薬物使用で逮捕された!〈前編〉

虐待、貧困、毒親、不登校――様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。

学校から連絡を受け、母親逮捕を知る

「野中さん、義晴君の母親が警察に捕まったけ、姉の美里さんが通っているA中学校にすぐ来てくれんね!」

校長先生から電話を受けた私は、すぐにA中学校に向かいました。校長室に入ると、校長と教頭、担任と美里さんが神妙な面持ちで座っていました。

「お母さんが無免許で運転していたのを警察に見つかって、いろいろ調べたら……」

美里さんが口をつぐんだので、校長が続けました。

「そのときに“クスリ”も見つかった、と……」

隣町に住む母方の祖母には、私から連絡を取ることにし、美里さんを自宅に連れて行きました。

母親には“お調子者”の印象はあったものの、クスリ(覚醒剤)をやっている気配はなかったので、私は少し驚いていました。

(イラスト)
中学校の校長室で、校長と教頭、担任と美里さんが席に着いている。
立ったまま、美里さんの話を聞く野中さん。美里さんは母親の逮捕(吹き出しで、無免許運転で警察に職務質問される。警官の手には白い粉)を説明しながら泣き出す。

子供にあまり関心を向けない母親

義晴君の家は、離婚した母親が、中3の美里さんと小3の義晴君、小1の美緒さんの3人のきょうだいを育てている生活保護世帯で、2年前にこの町に転入してきました。

私がかかわったのは、新年度が始まって間もない5月、小学校に入学したばかりの義晴君が学校を休みがちになったことからでした。校長や担任が連絡をすると、母親は調子よく返事をするものの、翌日また欠席。転入前、未就学児だった下のきょうだい2人が児童相談所に一時保護された申し送りがありました。そういう経緯があったことから、今後の成り行きに不安を感じた学校がスクールソーシャルワーカーの私に協力を求めてきたのです。

家庭訪問をすると、想像していたのとは異なり、家の中はきれいに片付いていました。

義晴君の話をしようとすると、母親はいきなり身の上話や近所の噂、ワイドショーの話題をとめどなく話しはじめました。精神疾患で生活保護を受給しているので働きに出ることもなく、一日中家にいるためか、ごく限られた狭い“世間”が彼女の世界のすべてのように感じられました。

母親の長い雑談の後、ようやく本題である義晴君の登校について話題を向けると、「あー、なかなか起きてこないけ、そのまま放っといた」と。わが子に対して、虐待をするほどではないものの、あまり関心を持っていない印象を受けました。私が毎朝きちんと起こして、学校に行かせることをお願いすると、気が済むだけしゃべってすっきりしたのか、母親は上機嫌で「わかった。ちゃんと行かせる」と約束してくれました。

その後、義晴君は学校にも毎日通うようになったので、時々様子を見るようにしていました。

祖母が面倒を見ることで生活改善

美里さんを自宅に連れて戻ると、事情を知らない弟妹が無邪気に「お母さん、まだ帰ってこないけ、何かあったん?」と美里さんのところに駆け寄ってきました。

私は母親が無免許運転で捕まり、警察にいることだけ簡単に伝え、祖母の家に向かいました。祖母は我が娘の不祥事を詫び、娘が戻るまで責任を持って子供たちの面倒を見ると話してくれました。祖母が面倒を見ることで、子供たちの生活環境が以前より改善されたこともあり、私と学校は見守ることにしました。

逮捕から2週間後、裁判を経て母親が戻ってきました。初犯で子供がいることが考慮され、4年間の執行猶予がついたのです。

早速、家庭訪問をすると、母親は「野中ちゃん、いろいろありがとね! 私、もう絶対にやらんけ!」と悪気もなく話し始めました。

(帰ってきて一番、これかい……)

いきなりの“ちゃん”付けする調子よさに少しむかっとしながらも、「これからは子供たちのこと、もっとよう見てやらんと」と穏やかに話すと、「はいはいっ」とおどけて答えました。

一発奮起して高校卒業を目指す母親だったが……

その後は、学校から子供たちの状況を聞きながら様子見をしていました。母親からは度々暇つぶしの電話がかかってきましたが、ある日、「私、高校中退したんだけど、もう一度、高校に行ってみる。野中ちゃんみたいなソーシャルワーカーになるけ!」と衝撃の一言が。

(その情熱、今は子供たちに向けてくれんね……)

そう思いながらも、せっかくのやる気を削がないよう、応援することを伝えました。すっかり気をよくした母親は、通信制高校に入学し、子供たちと一緒に勉強するようになりました。

これまでの母親の言動から、どうせ長続きしないだろうと思っていた私の予想を裏切り、母親は6年かけて無事卒業。その間に、美里さんは出産して母親に、義晴君と美緒さんも中学生になっていました。うきうきしながら「高校の次は大学だねえ」と話す母親の“軽さ”に、私は少し違和感を覚えていました。

そしてその年の夏、義晴君が通っているA中学校から電話がかかってきました。

「母親がまた捕まったようです」

*子供の名前は仮名です。

取材・文/関原美和子 撮影/藤田修平 イラスト/芝野公二

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