「多様な学び」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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多様性が重視される現代社会の中で、学びや学校のあり方にもまた、多様性が求められています。画一的で硬直化した現在の学校教育に対する教育のあり方として、「多様な学び」が注目されています。

執筆/大阪府立大学准教授・森岡次郎

みんなの教育用語

学校以外の場で「学ぶ権利」

2017年、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」が施行されました。この法律は「多様な学び」について考える上でも、画期的なものです。

この法律の目的には「不登校児童生徒に対する教育機会の確保」が掲げられています。教育支援センターや適応指導教室、民間のフリースクールやフリースペースなどでの活動を「学習活動」に位置づけ、不登校児の「休養の必要性」についても言及し、既存の学校(公教育)以外の場における子どもたちの学ぶ権利を保障するものです。

国が、学校以外の場所における活動を「学び(学習)」として認めたことには、大きな意味があります。

全国の小・中学校における不登校児童生徒数は、2020年の調査によれば196,127人で、過去最多となっています。在籍児童生徒全体のうち約2%の子どもたちは「不登校児」ということになります。

不登校の原因は、いじめや学業の不振といった学校を原因とするものの他にも、家庭や生活環境の変化によるもの、生活リズムの乱れや無気力など様々です。新型コロナウイルスの影響もあるようです。

いずれにしても、多くの子どもたちが学校に通うことができず、義務教育を受けられずにいます。そして、学校以外の場所で学んでいる、多くの子どもたちもいます。

近代学校の意義と課題

日本においては学制発布(1872年)以降、社会の近代化を目指し、すべての子どもに一律の知識や技能を身につけさせるために学校制度を整備し、子どもたちを教育してきました。そのことにより、国民の知的レベル(たとえば識字率など)は劇的に向上し、社会は発展してきました。しかし、学制発布から150年を経た現在、日本の公教育は制度疲労を起こしています。

子どもたちはそれぞれ個性的な存在です。この多様な子どもたちを、同じ時間、同じ空間(学校)に収容して一斉に同じ活動を行うことには、根本的に無理があります。

学業に限定して考えてみても、算数が得意な子もいれば国語が得意な子もいます。もっと先まで内容を進めたい子もいれば、もう少しゆっくりと進めてほしい子もいます。同一のカリキュラムを一斉に教える現在の学校制度を前提としていたのでは、すべての子どもの多様なニーズに応えることはできないのです。その結果、いわゆる「落ちこぼれ」や「浮きこぼれ」といった問題が生じています。

こうした状況を改善するためにも、「多様な学び」をより具体的に法制化することが求められています。

「多様な学び」を可能にする教育デザインを

上述の「教育機会確保法」は、当初は「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案(教育多様機会確保法案)」という試案として公表されました。しかし、「普通教育」は学校で行うべきであり、不登校児は既存の学校に復帰することが前提であるという主張により、法律からは「多様な」という文言が削除されました。その背景には「多様な学び」をめぐる困難な問題が存在しています。

このような状況にあって、まず目指すべきは、子どもたちのニーズに即して教育をデザインすることです。既存の学校に適応できない子どもたちが数多く存在している以上、その子どもたちのニーズにも応えなければならないからです。

とはいえ、その内容についてどこまでを公的な「学び(学習)」として認めるのかは、とても難しい問題です。たとえば、フリースクールで一日中友達とゲームをすることや、「ホームスクーリング」で家事の手伝いをすることは、その子どもにとって重要な「学び」であるには違いありません。しかし、それが学校での学び(教科学習)の代替として認められるかどうかには、議論の余地があります。

学校という場所で、教員免許資格を持った人が、学習指導要領に基づき教科書の内容について教えることによって、日本の教育制度は成立しています。しかし、この制度では多様な子どものニーズを満たすことができません。

フリースクールやホームスクーリングの他にも、シュタイナー教育やデモクラティックスクール、外国人学校(民族学校)やインターナショナルスクールなど、日本の公教育の外部には多くの「多様な学び場」が存在しています。それぞれに「子どものため」を思って用意された学び場ですが、質的にも量的にも(ソフト面でもハード面でも)、その内容には大きな偏りがみられます。多くの場合、教員免許を持たない人が、学習指導要領とは異なる内容について、独自の教材を用いて教えています。

「多様な学び」への子どものニーズと、公的に保障すべき学習の内容についての葛藤が存在しています。

子どもや保護者が「多様な学び」を選択できることは、よいことであるように思えます。しかしながら、その選択の結果生じる不利益、たとえば学習内容の偏りを「自己責任」としてもよいのか、公的には受け入れがたいような危険な思想教育をどこまで認めるのか、子どもや保護者のニーズばかりに依拠すると教育がサービス産業化するのではないかなど、考えるべき課題は山積しています。

一方、現在の学校で行われている教育もまた、普遍的でも価値中立的でもありません。どこまでを「多様な学び」として認めるのかという難問を解決するのは容易ではありません。

学校外の「多様な学び」を可能な限り認めつつ、学校においても学習指導要領や画一的なカリキュラムに縛られすぎず、一人ひとりの教師の創意工夫によって自由に「多様な学び」を実践できるような制度が求められています。

▼参考資料
永田佳之『オルタナティブ教育:国際比較に見る21世紀の学校づくり』‎ 新評論、2005年
フリースクール全国ネットワーク・多様な学び保障法を実現する会編『教育機会確保法の誕生:子どもが安心して学び育つ』東京シューレ出版、2017年
前川喜平・寺脇研『これからの日本、これからの教育』筑摩書房、2017年
永田佳之編『変容する世界と日本のオルタナティブ教育:生を優先する多様性の方へ』‎ 世織書房、2019年

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