【対談・増田修治✕高山恵子】すべての子供が自分らしく成長できる教室のつくり方 #2
学級崩壊や子供の問題行動について研究されている増田修治先生と、ADHDをはじめとする発達障害のある人の支援と教育に尽力されている高山恵子先生に、今、子供たちに起こっている問題とその対策法などについてお話しいただきました。
増田修治(ますだしゅうじ)白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。埼玉大学教育学部卒業。28年間小学校教諭として勤務。2008年より現職。教育開発プログラム修士。小学校教諭をめざす学生の指導と並行して、公立保育園や私立保育園との共同研究を行う。
高山恵子(たかやまけいこ) NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。1997年アメリカトリニティー大学大学院教育学修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)。’98年同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。木村泰子先生との共著『「みんなの学校」から社会を変える』(小学館新書)など、著書多数 。
目次
人間性や他者との違いを認めることが大事
高山先生 先生がご研究されている学級崩壊など、現在学校にはいろいろな問題があると思うのですが、特に何が要因だと思われますか?
増田先生 子供たちにはそれぞれのニーズがあるんですけれども、そのニーズが非常に多様化しています。そして、そのニーズに対応しきれていないというのが大きいんです。
また、発達障害の子たちだけでなく、子供たちが理解するのに非常に時間がかかるようになっていると感じます。授業を聞いていても、よく分からないという子たちが増えてきていて、認知力や認識力が非常に落ちていると感じています。
高山先生 なるほど。私たちが小さかった頃は、今よりクラスの人数も多く、発達障害の子供も完全インクルージョンでしたよね。今考えると、アスペルガーやADHDと今なら診断名がつく子も、私を含めて結構いました。でも、先生の対応が上手だったのと、LINEなどがなかったので、クラスメートの間で陰湿なイジメにならなかったのが、学級崩壊にならなかった大きな要因かなと思います。
増田先生 LINEだけの問題ではなくて、発達障害の子たちに対する偏見を子供たちがもってなかったですね。
高山先生 今はあるんですか?
増田先生 ありますね。今、ADHDや自閉症など、言葉が広がってるじゃないですか。子供が家庭で「こういう問題があった」と言うと、親が「その子ADHDなんじゃないの?」とか言うわけです。すると、子供が覚えるんです。そして、「あいつADHDだよな」とか、学校で使ってしまう。言葉だけが先に入ってきて、そういう差別的な目で子供たちが見るようになっているんです。
高山先生 残念ですね。事実確認もなく広がるのは問題ですし、その差別的な意識はどこからくるんでしょうか?
増田先生 いろんな形で子供たちに圧力がかかってますね。具体的な話では、ある小学校で2年生から6年生のほとんどのクラスが学級崩壊しているところがありました。その学校は9割以上が私立に行く子たちで、競争させられているわけです。塾にも行くし、塾の中で順位もあるし、スクールカースト的なものがあります。そういう中で、弱者である発達障害の子たちにストレスの矛先が向かっているんですね。
高山先生 そこでこそ、クラスの先生にがんばっていただきたいですね。ある有名な芸能人がホームレスの方に対して、生きている価値がないと発言し、問題になっていましたが、その人は小学校でどんな担任の先生に、何を教えてもらったんだろうと気になります。ちゃんとした人権教育や、違いを受け入れることの大切さとか、教えてもらってない気がします。私は公的な学校で大切なことは、学力を上げるだけでないと思います。一般社会はいろんな職業や年齢など、多様な人たちがともに暮らしています。学力が高い子たちだけが集まる、だと偏ってしまいます。いろんな子たちがいて、それぞれ違いがあるという事実をきちんと認識し、多様性を尊重することはとても大切だと思います。
増田先生 そうですね。学力を抜きにしてはいけないとは思いますが、人間性とか、他者との違いを認めるというのはすごく大事なことだと思います。
ただ、競争的な立場に置かれている子供たちのはけ口が弱者に向かってしまっていて、その学校では5年生の男の子が、特別学級の子の頭をつかんで廊下を引きずり回し、「生きている意味がない」というような侮蔑的な言葉を投げかけていました。
高山先生 SNSでバッシングされた芸能人と同じような考え方、言葉ですね。その後、学校で何か対処したんですか?
増田先生 校長先生は、みんなそんな感じなんです、しかたないですという感じでした。ただこれは問題だから私が介入しますということで、校長先生とは意見があったんです。ですが、結局職員が反対して何もできませんでした。このような状態を、外部の人に見られたくないということです。
子供にとって、「分かる指示」を出す
高山先生 学級崩壊を起こしている先生って、大体オープンにしていなくて孤軍奮闘している感じがしますが、どうでしょうか?
増田先生 オープンにしていないのと、外から見たら崩壊してるんだけど、本人は崩壊していないと思っているケースもあります。本人が問題であることを理解していないわけです。
高山先生 巡回支援をしていたとき、上手な先生はたった5分でも、今何をしていて、子供たちは何をすればいいのかということが明確に分かるんです。でも、分からない先生は5分では、子供たちは今何を求められていて、何をすればいいか分からないことがあります。
増田先生 45分授業を見ても、この時間何をやってたんだろう、子供たちにどんな力がついたんだろうと思う先生の授業もいっぱいあります。
高山先生 そういう分かりにくい授業も学級崩壊を起こしている要因でしょうか。
増田先生 イコールではないですが、それも一つですね。学級崩壊が起こる先生の指示は明確じゃなくて、ドロドロしてます。あと、分からない指示が何回も繰り返されます。1回目より2回目の方が余計に分からない。そうじゃなくて、指示は1回で明確に出して、分からなかったら別の言い方でもっと詳しく説明しないと分かりません。
もう一つ、今は何をするべき時間なのか、ごちゃごちゃになってるとだめです。今は考える時間、今はノートに書きうつす時間など、授業の中でメリハリをつけられるかどうかです。
高山先生 私もよく職員研修で、「分からない指示は、残念ながら雑音化します」と言ってます。子供たちが「分からない」って言ったら、方法を変えて説明する必要がありますね。
それから子供たちに聞くと、先生に分からないと言ったとき、「自分で考えなさい」とか、「聞いてなかったからだ」と言われると。でも本人は、ちゃんと聞いていても分からなかったって言います。そういうことが積み重なって不登校になってる子もいるので、分かる指示ってすごく重要と思います。
教職課程で特別支援教育概論を教えていたことがあるのですが、全員にこれだけはマスターして、学級で必ずやってくださいと言っていたのは、「いじめをなくす授業」です。そのとき、学生たちに「言われて嫌だった言葉」をブレインストーミングしてもらったら、なんと半分くらいの学生が、学校の先生に言われた言葉をあげたんです。
増田先生 そう思います。
高山先生 先生もそう思われますか。先生って、結構子供の人格を傷付ける言葉を平気で使ってるんです。だから、「冗談でも人格を傷付けることを言ってはいけない」ということを4月に教えなさいと言ったんです。冗談が分からない子もいるわけで、「“お前バカだな”ってさっき言ったのは冗談」、というのが許される環境をつくらないように、と指導しました。
ある学級崩壊を起こした先生は、自分のどこが悪かったんだろうと研究して、言葉の問題がいろんなところで出てくるということで、「ちくちく言葉」と「ふわふわ言葉」に分けることを提唱されています。大切なのは、ただ「ちくちく言葉をふわふわ言葉に変えようね」と教えるだけじゃなく、例えば算数の授業中、だれかが「ちくちく言葉」を使ったとき、「それどっちの言葉?」と聞いて、それを書き出して、その紙を破って捨てるというのをやることです。つまり、道徳の時間などに限らず、常に「人格を否定するようなことを言ってはダメ」ということを徹底するのが大切だと思います。これを4月にきちんとやってほしいですね。
増田先生 僕自身は2種類に分けるのはちょっと反対なんです。なぜかというと、ふわふわ言葉とちくちく言葉の中間の、グレーゾーンの言葉が人間社会の中で一番多いんじゃないかと思うからです。
高山先生 そうですね。まずは2種類に分け、両極端の2つをやって、その後、受け取り方は人によって違うということを教えるのがいいと思います。ASDのお子さんは、ずっとその中間が分からないので支援が必要ですが。
増田先生 僕の指導は、黒板に「バカ」と貼って、「バカってどう思う?」というところからはじまるんです。「そんなのもできないのか、バカだな」というときの「バカ」は別に相手をバカにしてるわけじゃなくて親しみを込めているとか、そういうところをやっていきます。
高山先生 そうなんですね。
増田先生 分からない子がいるから、そういう話し合いが必要なんです。親しみを込めた「バカだな」という言葉に対して、かっとなってぶん殴るという子もいるので。そのようなグレーゾーンの言葉を、どういう文脈で使われているのか、理解させていく必要があります。
高山先生 ASDの子、それができたら一生困らないです。
増田先生 他の子も同じです。
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・その1
構成/平田信也 撮影/横田紋子