学校経営新年度への準備「アフターコロナは学校の在り方を見つめ直すチャンス」

2021年度は、2020年度に引き続いて“ウィズコロナ”を意識した学校経営が求められました。そんな今年度の振り返りと次年度に向けた改善のポイントや、コロナ禍の経験を今後に活かすために必要となる考え方などを、文部科学省初等中等教育局視学官を務めた國學院大學の田村学教授に伺いました。

國學院大學・田村学教授
國學院大學・田村学さん

コロナ禍で得たものを今後に活かす意識が大切

コロナ禍では、否が応でも教育活動の削減や縮小が求められました。新型コロナウイルスが収束に向かえば、コロナ禍で失われたものを何とか取り戻したいという気持ちが強くなると思います。

しかし、PDCAサイクルの見直しの場面においては、元に戻す意識よりも、コロナ禍を経験して得られたものを大事にする意識が必要になります。具体的にいえば、教育活動や業務内容を見直し、新しい学校づくりを進めるための視点や発想です。

精選していくと、その活動の本来の意味や目的、何が大切かといったことがわかってくるはずです。せっかくスリム化できたわけですから、そのまま維持するくらいの思い切りのよさが求められます。少なくとも、実施可能になったから元に戻すという安易な発想をもつことだけはしてほしくありません。

教員の負担が軽減されることによって時間的・精神的な余裕が生まれれば、本丸である授業により力を注げるようになるでしょう。そうして授業の質を向上させ、教員に手応えをつかんでもらう絶好のチャンスといえますから、業務内容の改善や削減については大胆に判断したほうがよいと思い ます。

その最終的な決断をするのは校長です。 担任教員は、ミクロの視点で自身の学級、一人ひとりの子どもに絞り込んで見ていく姿勢で問題ありません。一方で校長は、学校の教育活動や教育課程を俯瞰する立場にいます。一つひとつの取り組みを集約すると校内全体がどう機能するかを、他の教員より少し高い位置から見て、負荷がかかっていると感じるところがあるのなら軽減するなどして、教員一人ひとりがより光り輝くように調整することが求められます。

以前からそうした取り組みをしていたと思いますが、コロナ禍と新学習指導要領の全面実施が重なったことで、この1、2年はさらに思い切った判断が求められ、本当の意味でのカリキュラム・マネジメントが実行できたのではないでしょうか。

ウィズコロナ時代の経験は、学校がバージョンアップするきっかけになると思います。悲観して振り返るのではなく、今までに経験したことのない事態で貴重な財産を獲得したととらえ、今後の学校経営やカリキュラム・マネジメントに活かすことが望まれます。今こそ、学校のあり方を見つめ直すチャンスであり、校長のリーダーシップが試されるときです。

校務分掌を見直し若手の活躍の場をつくる

同様の考え方で、校務分掌の見直しも必要になるでしょう。通常であれば例年どおりの校内体制で進めていくと思いますが、それで本当によいのかをこの機会に考えてほしいと思います。

たとえば、ICTを推進するためのチームや、子ども同士の関係を深めることをめざすチームをつくったり、緊急時に即時に対応できる仕組みを構築したりと、自校の事情やめざす方向に合わせた改革ができるとよいですね。

その際に、どのような人的配置を行うかは校長が果たすべき重要な役割です。古くからの年功序列にこだわらず、適材適所を意識する、とりわけ若手教員のパワーを上手に活用することが、トップリーダーに求められる視点のひとつになると考えます。 近年、若手教員が増え、その中には力のある人も多くいると感じています。その勢いやフレッシュさを活かさない手はありません。特にICT活用の場面などは、若手が活躍する絶好のチャンスです。ぜひともこの機会に大きな見直しを図り、若手の力が存分に発揮されるような校内の組織づくり、システム構築を検討してみてください。

校長にとっては不安な部分もあると思いますが、責任を与えられたり、新しいことにチャレンジしたりすることによって得られるものは、確実に大きいです。そうすることで一人ひとりに力がつきますし、若手同士は高め合い、ベテランも刺激を受けるはずで、校内全体の活性化につながることが期待できます。

さらに、学校組織の中でミドルリーダーが果たす役割も、より重要になっていくと考えられます。校内全体を俯瞰して方向性を定めるのがトップリーダーの役割なら、その意を受けてトップとボトムをうまくつなぎ、各教員の力が最大限に発揮されるように調整するのがミドルリーダーの役割です。

難しいとは思いますが、ミドルリーダーの先生方には、ぜひ自分が組織を大きく変えていく重要な役目を担っているという自覚をもち、積極的かつ前向きに取り組んでほしいものです。

教師集団の対話を増やしコミュニケーションの活性化を

また、コロナ禍で教員間のコミュニケーションが不足し、校内研修の機会なども減少した学校は多くあると思いますが、子どもを育てる現場ではコミュニケーションの活性化や教職員の一体感といったものが欠かせません。

コロナ禍でオンライン活用が進んだ一方、対面で互いに気持ちを通じ合わせることや、膝を突き合わせて話し合うことの価値やメリットも改めて実感できたのではないでしょうか。この機会に、教師集団の対話を増やすことも必要です。

学校組織の中で教員一人ひとりのパフォーマンスを向上させるためには、いかに学びの連続をつくれるかがカギになります。その意味では、校内研修をはじめとして、教員が時間と空間を共有して語り合う機会を意図的に設定することが重要です。

とはいえ、単に話し合う機会を増やせばよいというわけではなく、ここでも業務内容のスリム化を念頭に置く必要があります。校長には、教員の人間関係をどう構築していくかを戦略的に考え、そのために必要な場をつくることが求められます。

異校種間や同校種同士のつながりを意識することも必要

学校間の縦展開と横展開を意識することも重要な視点のひとつです。縦のつながりとは、幼・小、小・中、中・高といった異校種間の連携です。その重要性は新学習指導要領にも明示されています。

もともと実施していた校区内での話し合いなどが、コロナ禍でストップしたり減少したりしたケースも多いと思いますので、可能な範囲で交流を増やしていけるよう意識し、行動できるとよいでしょう。

横展開とは、同じ地域内、あるいはその枠を超えた小学校同士、中学校同士が関係を築くことです。同じ地域の学校同士が協働して授業研究などを行い、校長会や教育委員会とも連携して、それぞれの学校をうまく活性化させている事例も多く見られるようになりました。

異なる地域の学校と連携して学び合うケ ースも増えていますし、そのためにオンラインを活用することも有効です。1校の資源には限りがありますから、他校と協力することでより力を発揮できるように取り組むことが望ましいです。

未来をつくるのは自分だと子どもが自覚できるように

教師は、目の前の子どもたちにどうなってほしいかを常にイメージすることが必要です。本当に大切なのは、子どもたちが、未来社会を創造していくのは自分たちなのだと自覚しながら大人へと成長することであり、それが究極的にめざす姿ではないかと、私は考えます。そして、教師にはそういう子どもたちが育つように力を尽くすことが求められます。

そのためにできる具体的なこととして、資質・能力やICT活用能力の育成があるわけですが、そうした力が備わっていても受け身の姿勢ではいけないはずです。 場面や状況に応じて自分なりに考え、自発的に行動できる子どもを育てることこそ重要なのだろうと思います。

子どもたちもコロナ禍を経験したことで、自分たちが正解のない世の中を生きて いて、学校で先生から学ぶことは重要だけれど、それが絶対の正解ではないということを、身をもって実感したような気がします。

そういったことを考えれば、学びの転換が求められるのはもはや必然だといえます。あらゆるものが大きく変化し、新たなものが創造されていく重要な局面に私たちは立っていて、今年度から来年度へ移行する期間は、まさに今後を占うターニングポイントになるのかもしれません。

そのような大きな転機に校長を務められるというのは、教育者冥利に尽きることではないでしょうか。教育が担う責任はさらに大きくなりますが、それだけにやりがいがあると思います。ぜひとも使命感を抱きつつ、リスクばかりに目を向けるのではなく、なるべくよい方向に転換する発想をもって責務を果たしてほしいと望みます。

取材・文/藤沢三毅(カラビナ)

『総合教育技術』2022年2/3月号より

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