「学校保健活動」とは? 【知っておきたい教育用語】
新型コロナウイルスの災厄が続いているなかで、学校保健活動の役割が問われています。感染への対応は喫緊の課題ですが、子どもたちの心身の健康を守るために日常の活動はどうあるべきか、学校全体でしっかりおさえておく必要があります。
執筆/大東文化大学非常勤講師・森村繁晴
目次
学校保健活動とはなにか
教育基本法第1条には、「教育の目的」として「心身ともに健康な国民の育成」が掲げられています。このことは、子どもたちの心身の健康にかかわる保健活動が、教育においていかに重要であるかを示すものです。
学校保健活動の具体的な中身は、時代とともに変化してきました。子どもたちを取り巻く衛生環境や生活環境の変化、感染症の流行などを踏まえ、関連法規やガイドラインにもたびたび変更が加えられてきたためです。
とくに新型コロナウイルス感染症の流行以降は、学校保健に関連する多数の告示・通達が出されており、教育現場においてもその把握・対応の負担が増しています。
学校保健の対象領域
「学校保健」は対象領域の広い概念です。大まかに見ると、その中には「保健管理」と「保健教育」があります。このうち「保健管理」は子どもたちの健康の保持・増進を図る活動であり、健康診断、感染症予防、環境衛生の改善にかかわる活動などが含まれます。もう一方の「保健教育」には、体育科や保健体育などにおける保健学習と、学級活動や学校行事、部活動などにおける保健指導が含まれます。
このうち、健康診断や感染症(伝染病)予防などは、1958年制定の学校保健法にすでに盛り込まれていました。しかし、近年、メンタルヘルスやアレルギー疾患など、子どもたちの健康をめぐる問題が多様化・深刻化しています。さらに、犯罪や自然災害などによる課題も顕在化し、学校でもこれらの健康・安全をめぐる現代的な諸問題に適切に対処する必要性が高まってきたのです。
そこで2009年に学校保健法を一部改正した学校保健安全法が施行され、学校安全と学校保健に関する取り組みのどちらも強化されました。このうち学校保健については、たとえば保健室の機能に「健康相談」と「保健指導」が新たに位置づけられ、これらの活動を教職員の協力のもとに養護教諭が中心となって実施すべきことが明記されました。
ただし、一般の教職員が日常的な「健康相談」や「保健指導」にどのように取り組むべきかは難しい課題です。これについては、文部科学省が2011年に発行した「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引」が参考になります。この手引では典型的な状況に関する仮想事例をもとに、養護教諭、学級担任、教科担任、部活動顧問、校長、学校医など、それぞれの立場でどのような健康相談と保健指導を行うことができるかについて、具体的に紹介されています。学校保健活動には学校全体で取り組む必要があるということです。
アレルギー対策
現在、学校での対応ニーズが増している健康問題のひとつに、アレルギー疾患対策があります。これについて文部科学省は2015年に「学校給食における食物アレルギー対応指針」を発表しました。この指針では、各学校が食物アレルギー対応の基本方針を作成することに加え、保護者会などで学校のアレルギー対応について説明し、保護者と情報を共有することなどを求めています。
アレルギー対応は、学校における危機管理ともリンクしています。文部科学省が2021年6月に発表した「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」(解説編)には、アナフィラキシーの救命の現場に居合わせた教職員が子ども本人に代わってアドレナリン自己注射薬を注射することについて、医師法違反にならないことが記されています。いざという場合に備え、教職員の実践的な訓練の実施が望まれます。
新型コロナウイルス感染症への取り組み
新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以降は、とくに感染症対策が学校保健活動における喫緊の対応課題となっています。前述の学校保健安全法では感染症予防のための「出席停止」や、学級や学校等の「臨時休業」などについて定められています。ただし学校運営にかかわるガイドライン等の内容は感染症の流行状況や医療の進歩を踏まえて改められるため、注意が必要です。
文部科学省から幼・小・中・高・特別支援学校に関して発出される新型コロナウイルス関連の通知等については、文部科学省サイトで最新情報を確認できます。たとえば、2021年8月27日に文部科学省が発表した「学校で児童生徒等や教職員の新型コロナウイルスの感染が確認された場合の対応ガイドラインの送付について」では、「学級閉鎖」「学年閉鎖」「学校全体の臨時休業」について、具体的な判断基準が示されました。
コロナウイルス感染症の流行が長期化するなか、学校保健活動への関心が高まっています。子どもたちの心身の健康を守りつつ学びの権利を保障し、同時に教職員の負担軽減にも配慮した学校保健活動への取り組みが求められているのです。
▼参考文献
文部科学省「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引」(2011年8月)
文部科学省「学校給食における食物アレルギー対応指針」(2015年3月)
文部科学省「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」(2021年6月)
文部科学省「学校で児童生徒等や教職員の新型コロナウイルスの感染が確認された場合の対応ガイドラインの送付について」(2021年8月27日)
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