「ピア・サポート」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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児童生徒数が減少しているにもかかわらず、いじめの認知件数や不登校児童生徒数は過去最多になっています。学校や教師が対処しにくくなっているこうした問題に対して、子ども同士の支え合い活動で解決しようとする「ピア・サポート」が注目されています。

執筆/常葉大学教授・堀井啓幸

みんなの教育用語

ピア・サポートとは

ピア・サポートとは、「仲間・同輩」(peer)による支え合い活動(support)のことです。20世紀初頭のニューヨークで、非行少年に対する支援活動において、仲間支援の方法論として考案されました。今日では、アルコール依存症やがんなど同じ悩みや症状をもつ仲間同士が体験を語り合い、互いを支え合う取り組みとしても成果を上げています。

集団性を基盤とする日本の学校教育では、子ども同士の支え合い活動は授業や学級・学校づくりにおいて当たり前のこととされてきました。それがピア・サポートとして注目されるようになったのは、1990年代のいじめ問題の増加にかかわってイギリスのピア・カウンセリングが紹介されたことがきっかけであったといってよいでしょう。

ピア・カウンセリングは、子ども同士の相談活動です。指導者(教師など)のもとで対人援助のトレーニングを一定期間受けた子どもが、ピア・カウンセラーやピア・サポーターとして、いじめ相談の窓口になって対応します。そうすることによって、いじめ問題を早期に把握し解決に導くだけでなく、いじめ問題などの予防効果もあるといわれます。それは、ピア・サポートが子ども同士による相談のしやすさを生かし、いじめの傍観者をいじめられている子どもの支援者に変えるような児童生徒主体の活動になっているからです。

現在、学校においてはピア・サポートの実践が多様な形で進められており、相談活動を行わない実践もあります。

指導者の研修やピア・トレーナーの養成を行っている日本ピア・サポート学会では、ピア・サポート活動を次のように定義しています。「学校教育活動の一環として、教師の指導・援助のもとに、子どもたちがお互いに思いやり、助け合い、支え合う人間関係を育むために行う学習活動であり、そのことがやがては思いやりのある学校風土の醸成につながることを目的とする」と。

ピア・サポートが学校で必要な理由

ピア・サポートは社会のさまざまな場面で行われるようになりましたが、とりわけ学校においてその効果や実践の可能性が期待されています。それは、これまで学校や教師が当たり前に考えていた子ども同士の支え合いの前提となる人間関係そのものが、子どもや学校を取り巻く環境の急激な変化によって崩れてきているからです。

支え合いや思いやりなど人間関係の豊かさこそ社会の資本(ソーシャルキャピタル)という考え方は、日本では当たり前のこととしてとらえられていました。しかし、少子高齢化や核家族化が急激に進み、家庭や地域でも支え・支えられるという人間関係が築けなくなりつつあります。その結果、地域や職場、家庭で人間関係が希薄になったことによる「孤独死」や「無縁社会」が大きな社会問題になっています。

子どもたちも支え合いの中で育まれる人間関係を失っています。特に、屋外で群れをなして遊ばなくなった(遊べなくなった)現代の子どもにとって、地域における自然発生的な遊び集団がもっていた「上の年齢の者が下の年齢の者に生活の知恵や伝承的な遊びの仕方などを伝え、下の者は遊びの中でそれらを自然に学ぶ」という素朴な社会化機能をもつ縦割り集団も思うようにつくれなくなりました。その点、ピア・サポートにおける上級生の「お世話活動」などは、多様な交流をすることによって社会性を育成することに役立っています。

学校はいま、いじめ問題への対処の前提となる教師と児童生徒の人間関係すら築きにくい状況にあります。ピア・サポート活動は、こうした脆弱になっている学校内外の人間関係を子ども同士の支え合う力を信じて再構築していこうとする試みです。また、いじめや不登校で生じる児童生徒の「自己有用感(自己肯定感)」の低下という悪循環を断ち切ろうとする活動でもあります。

学校におけるピア・サポートの現状

文部科学省の「生徒指導提要」(2010年3月)には、教育相談で活用できる新たな手法として「ピア・サポート」が記述されました。そして2010年9月には、文部科学省報告「魅力ある学校づくり検討チーム」で、生徒指導の視点から「児童生徒が主体となり自己有用感や社会性を高めるピア(仲間)・サポートやソーシャルスキル・トレーニングのような活動等の促進を図る」ことが提案されています。

学校においては、「聞く・伝える・共感する」というピア・サポートの教育相談スキルを異年齢集団の交流などに活用することで、児童生徒の「自己有用感(自己肯定感)」を育てる試みがなされています。

それだけではなく、同僚(ピア)としての教師集団における「抱え込み」「教科・校務分掌へのひきこもり」などの状況を打破するための新しい学校づくりプログラムとしても実践されています。そのことが、いわゆる学級崩壊問題への有効な対応策にもなっています。

ピア・サポートは、小・中学校、高等学校だけでなく、大学においても積極的に取り入れられるようになっています。多忙な教師が対人援助のトレーニングプログラムをマスターできるか、学校における「異年齢間交流活動」に時間をとれるのかなど課題もあります。しかし、新型コロナ感染拡大による休校措置を経て明らかになったことでもありますが、子ども同士、学生同士がかかわり、双方向の関係を深めていくピア・サポートの今日的意義はますます大きくなっています。

▼参考文献
滝充編著『ピア・サポートではじめる学校づくり 実践導入編「予防教育的な生徒指導プログラム」の導入と実践』金子書房、2002年
トレバー・コール(バーンズ亀山静子・矢部文訳、森川澄男解説)『ピア・サポート実践マニュアル』川島書店、2002年
日本ピア・サポート学会企画『ピア・サポート実践ガイドブック─Q&Aによるピア・サポートプログラムのすべて』ほんの森出版、2008年
日本ピア・サポート学会企画『大学でのピア・サポート入門─始める・進める・深める』ほんの森出版、2020年

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