立ち位置・机間指導を再考! 理にかなう「教師の動線」とは

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学生時代にはなかなか学べなかった、教室内での「立ち位置」や「机間指導」。子供の「主体的・対話的で深い学び」に資する「教師の動き」について、全国自治体の優秀教師に取材しました。

立ち位置・机間指導を再考!理にかなう「教師の動線」
イラストAC

「指示が通っているか? 答えは?」動きながら子供のノートを見る【算数】

宮崎県公立小学校教諭・中西 英

机間指導をしているとき、意図が明確でないまま、子供たちの間を動いているように見える先生がいます。机間指導は教師のベーシックスキルの一つであり、目的を明確にすることで、どう動いて何を見るかが明確になってくるのです。

机間指導の目的の一つには、全体を俯瞰するということがあります。導入場面などで指示をしたことが子供たちに通っているのか、指示したことが確実にできているのかを確認する机間指導で、その場合にはこまごま指導するのではなく、短時間で全体をざっと見ていきます。

ですから、事前に見て回る順序を決めておくと効率的です。

これとは異なり、個人の学習状況を捉える机間指導があります。子供が課題を自力解決していくところで個々がどんな思考をしているのかを捉え、その次に協働解決する場面で生かす指導です。このときはどの意見をどの順番に指名していくか、構成を考えていくわけです。

子供を受けもって何か月か経つと、子供の思考が分かってくると思います。ですから、事前にどんな解決方法が出そうか(取り上げたいか)イメージしたうえで、「この子はこんな考えをしていそうかな」と考え、ポイントを絞りながら見ていきます。もちろん予想だにしなかった意外な考え方についてもチェックしておいて、後で取り上げていきます。

習熟の時間の場合は、全員の定着を図る目的で、算数が苦手で定着しにくい子供たち、支援を求めている子供たちに絞り、学んだことができているかどうか、ていねいに見ながら指導していきます。

そのほか、場面にかかわらず、ボーッとして学習に参加しない子もいるので、(叱るのではなく)近寄って刺激を与え、我に返らせる動きも必要です。

では、動きながら何を見ているかというと、ノートを見ます。指示が通っているか、どんな方法でやっているのか、答えはどうなっているのか、ノートに書いた内容を基に見とっていきます。

それと同時に、子供たちの表情や動きを見ていきます。毎日接していると、子供一人ひとりの微妙な変化が見とれるようになってきます。例えば、ペア活動でも話合いの内容も聞きますが、遠い場所は表情を通して、話合いがうまくいっていなさそうだと、そこに寄っていったりします。

このほか、グループ活動を行う場合は、4人の構成メンバーを決めるときに机間指導も含めて席順を考えることが必要で、私の学級では月1回の席替えもすべて私が指定しています。学齢が上がると、席順は自分たちで決めたくなるものですが、「自由には責任が伴う」ことをしっかり教え、視力や聴力、認知特性なども含めて、バランスよく席順を決められることが前提です。それがないと、教師の指導や見とりの負担が大きくなってしまうのです。

子供たちに先生の意思を伝える意味もあることを考えて動くことが必要【理科】

兵庫県公立小学校教諭・小湊拓也

先生は授業のねらいに沿って動くわけですが、その動きや立ち位置は同時に、子供たちに先生の意思を伝える意味もあることを考えて動いていくことが必要です。

例えば、ディベートや対立的な意見の子供同士で対話をする場合、先生がどちらかの側だけに立っていると、「ああ、先生はあっちがいいと思っているのかな」と子供たちの無意識の判断に影響をする可能性があります。ですから、左右にバランスよく動くことが大切です。

あるいは算数の習熟場面で、練習問題がたくさんある場合、速くできた子にサッと丸を付け、ミニ先生になれるようにして、苦手な子の支援をさせたりするでしょう。そんな場面でもいつも同じように動いていると、子供たちは鋭いので、「いつも得意なあの子を最初に見ている」とか、「いつも苦手なあの子について教えている」ということを感じ取っていきます。ですから、さりげなく見たり、順番を変えたりしていくことも大切です。それは子供の自力解決するところの解決方法を拾い出していく場面でも同様だと思います。

また、これは体育が専門の先生がよく言うことですが、子供の間を見て回るときに、「先生はちゃんと全体を見ているよ」という意思表示をするのです。

そのために、意図的に立ち位置から反対側の遠い場所にいる子に、「今の動き、いいよ」と声をかけたりします。そうすると、子供たちは、「ああ、先生はいつも見てくれているんだ」と感じることができるのです。

さらに子供たちにどんどん発表してほしいときなどは、先生が子供たちの視界から消えたほうがいい瞬間だと思います。その場合、私は教室の入り口に立ったりして、「任せたよ」という意思表示をします。

また子供が前に出て発表するときなどは、先生が子供の横についていると、「先生がフォローするのかな」と思われたりします。そこで「任せたよ」という意思表示で、あえて発表する子から離れるのです。

そのときに教室の後方に行く先生もおられますが、私の場合は発表する子の席に座って、私も授業参加者の一人になって、発表する子の意見を聞くようにしています。

発言する子から見て、子供たちが最も多くいる位置に動いていく【社会】

新潟県公立小学校主幹教諭・佐藤昌寿

教師は、教室の子供たちにどのような力を育むのかという意図をもって、動線を決めています。

例えば、子供同士が互いの考えや意見を聞き合えるような関係が十分でない学級では、子供は教師に向かって発言します。

そのような場合、若い先生は、「みんなに向かって話してごらん」と言います。しかし、先生に認められたい気持ちがあり、すぐに変わってはいきません。

そのとき私は発言する子から見て、子供たちが最も多くいる位置に動きます。そうすると、発表する子は自然に多くの子供たちがいる方に向いて、発言するようになります。

そのように教師が前後左右に動いて、子供が自然にほかの子供に向かって発言するように促していくことが大切です。それによって聞く側の姿勢も少しずつ育ってきます。そうして話す姿勢、聞く姿勢が育ってくると、あまり大きく動く必要がなくなってきます。

社会科で言えば、個々に調べ学習をしているときが大きく動くときだと思います。そのときは全体での意見交流の場面で、意図的指名をして多面的・多角的な意見が出るようにするため、ポイントとなる意見をもっていそうな子を中心に回していきます。

例えばスーパーの学習だとすると、子供は消費者の立場で考えやすいという傾向があり、立場を変えて考え、多面的・多角的に捉えられるようにしていきたいわけです。もちろん、見とる場面では、全員を見られればよいのですが、時間の制約もあるため、過去の学習履歴から「この子はこれに気付くのではないか」と考え、ポイントを絞って見ていきます。

また、その日の授業の課題設定時にとても食いついてくる子がいれば、動線の中に入れて見とり、よい見通しをもっていたら、発表につなげていきます。

さらに、 自立的に調べ学習が進められない子がいれば、動線の中に組み込み、働きかけて、自分の考えの書き出しだけでも書き始められるようにしていきます。

もちろん授業は生き物ですから、事前のプラン通りの意見が出てこないこともあります。そのときには多様な意見を出しつつも、どの意見に合わせていけば深まるか、収束するかという視点で動いて見とることが大切です。

子供たちに「みんなはどう思う?」と問うとき、視線は教室全体に配る【道徳】

熊本県公立小学校指導教諭・赤星桂子

道徳の授業で教師が机間指導する機会は、主に「中心発問のとき」と「ふり返りを書くとき」の2回です。

その2回の机間指導では、一人ひとりの学びの状況を把握したり、一人ひとりをほめ、励ましたりする目的があります。

まず、中心発問で子供たちが考えを書いている際、どんなことを書いているか、全員の学びの様子を把握していきます。その中で発問を把握しているかを捉え、捉えていない子が複数いれば、分かりやすく言い換えたりもします。また全体交流のときに、多面的・多角的な考えを出し合って考えを深めていくため、どの子がどんな考えをもっているのかを見とっていきます。このような全体把握をしていく場面では、私は前から順番に後ろに行って、また(書きかけの段階で見とった)前のほうに戻ります。これを短時間で行います。

その見とりでは、子供の書いたことに極力赤線を入れて回りますが、それは「課題についてよく考えている」という意味です。それがあると、子供たちは安心して発表できるからです。

そのほか、机間指導では、気になる子の所へ行き、語りかけることが多いですね。「希望と勇気、努力と強い意志」の授業を例にあげると、事前アンケートで夢や希望が「ない」と記述していた子供がいたとすれば、その子が本時の授業の中でどう変わったかに着目します。前向きな意見に変わっていたら、意図的に指名をして、発表させます。子供一人ひとりの成長を大事にしたいと心がけています。

そのほか教材によっては、教師対児童全体で役割演技をすることもあります。そのときはどんどん子供の間に入って、やりとりをしています。

また視線や動作も大事で、例えば誰かの意見を受けて、「みんなはどう思う?」などと問うとき、私は視線を教室全体に配ります。その際、一人ひとりに問いかけるように語りかけることが大切です。

私は初任の頃、先輩から「回り方に癖がある」と言われたことがあります。「全体を回っているつもりで回っていない、見ていない場所がある」と言われました。知らず知らず、そのような癖をもってしまっている場合もあるので、改めて自分の動きやその意味を見直してみることが大切だと思います。

取材・文・撮影/矢ノ浦勝之

『教育技術 小三小四』2021年8/9月号より

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