コロナ禍のオンライン社会科見学 先生が突撃レポーターに挑戦!
みなさんの学校では、社会科見学を実施したでしょうか。それとも、中止したでしょうか。感染症の流行により、さまざまな教育活動の見直しが図られ、社会科見学の実施においてもその是非が問われました。
昨年9月、埼玉県にて、 新型コロナ禍で実施できなかった社会科見学の代わりに、教師が地元の工場に出向き、オンラインで教室とつなぎ、映像を配信しながら工場を見学し解説するという試みが行われました。
今回は埼玉県における社会科見学の新たな取り組みを取材しました。
目次
社会科見学を中止にしたくない!
川口市教育委員会文化財課の井出祐史さんは、昨年3月まで同市内にある小学校の教諭でしたが、4月に異動、今の職場の郷土資料館に移りました。そして、新型コロナ禍で郷土資料館が一時休館となったとき、社会科見学が中止になるかもしれないという話を聞き込みました。
教諭だった当時から社会科の実践に力を入れてきた井出さんは、いくら感染拡大を防止する措置にせよ、社会科見学が中止になるのは忍びないと、オンラインで社会科見学をするというアイデアを思いつきました。
見学先は従来同様、地元の鋳物工場にお願いしました 。映画『キューポラのある街』の舞台になったことで知られる川口市。キューポラとは溶銑炉のことです。
「オンライン社会科見学」に必要な道具はスマートフォンとZOOMの2つだけ。スマートフォンで撮影した映像をZOOMで学校に配信します。この日、双方向の授業を受けたのは、同市立小学校5校601人の3年生です。
先生が突撃レポーターに変身!
「オンライン社会科見学」の授業が始まりました。
「大きな音がしていますね!」
スマートフォンを片手に、井出さんは鋳物工場の奥にずんずん入っていきます。
「この砂は何ですか。機械から砂が出ています」
最初に目についたのが砂でした。この砂で鋳物を成型する型をつくります。近くを流れる荒川の川砂があったため、この街で鋳造業が盛んになったと工場の人が説明してくれました。
子供たちが一番注目したのは、湯入れと呼ばれる工程でした。銑鉄を1500度の高熱で溶かすと、真っ赤に煮えたぎった状態になります。これが湯です。その湯を「とりべ」という容器に移すと激しく火花が散りました。「熱くないの?」「花火みたいだ」という子供たちの声が井出さんに届きます。
すると井出さんが、
「熱い! 4メートル以上離れて見ているのに熱さが伝わってきます」
と実況します。
「とりべ」がクレーンで型のある場所まですばやく運ばれると、職人さんの合図。カメラがぐっと近寄ると、湯が型に流し込まれ、小さな穴へと上手に湯が流れていく様子がよく見えました。そして、ガス抜きの穴から火が吹き上がりました。
子供たちや学校の反響は大きく、アンケートには、「副読本に載っていることが映像として見られたのはとてもおもしろかった。予想以上の迫力に圧倒された」「最後に質問タイムがあるのがよかった」などの感想が記されていました。
井出さんはこれを始めるにあたって、授業と実況の違いを考えました。YouTubeを見て、視聴者を飽きさせないための方策を勉強した結果、人気の高い配信映像には以下4つの特徴があると分析しました。
- 短い動画であっても、絶え間なく情報を発信しつづけることが必要で、無音状態を避けること
- 場所の全体を見せるには、高いところから俯瞰するなど、画面の構図を考えること
- 屋外撮影の場合には、逆光や光量の少ない夕方を避けるなど、天候や時間帯に注意を払うこと
- 映像だけでは伝わらない暑さや匂いなどを実況で補うこと
今年2月時点の累計では、市内の小学校のべ66校6506人を対象に「オンライン社会科見学」を実施することができました。「オンライン社会科見学」のよさを井出さんはこう語ります。
「この鋳物工場のような従来の見学場所だけでなく、日程や受け入れ人数などの都合で行けなかった場所でも双方向の授業をすることができるわけですから、社会科の授業がより楽しくなります。それが一番の魅力です。また、配信映像を動画として記録しておけば、子供たちは見たいときに見られます。従来の社会科見学をしたとしても、事前学習として引率者が生中継をしてもいい。子供たちの学び方の幅も広がります。
動画というものに対して、子供たちのほうが慣れていて、教師のほうが不慣れであるというのが今の状況です。でも、私がそうであったように、習うより慣れろ、教師なら誰でもやればできると思います」
授業を行ってきた教師だからこそ実現した「オンライン社会科見学」。学芸員ではなかなかそうはいきません。これは、GIGAスクール構想とも合致する取り組みだといえるでしょう。
取材・文/高瀬康志
『教育技術 小五小六』 2021年3月号より