小3道徳「三本のかさ」指導アイデア
執筆/埼玉県公立小学校教諭・山口愛
監修/文部科学省教科調査官・浅見哲也、前埼玉県公立小学校校長・藤澤由紀夫
目次
授業を展開するにあたり
使用教材:「三本のかさ」(教育出版)
三年生の児童は自らの行動を、「自分がされたらどう感じるか」と置き換えて考えることができるようになってきます。しかし、スキルを学ぶだけでは足りないと感じることもあります。
児童の間にトラブルが起きたとき、話合いの後、ただ単に、「ごめんね」「いいよ」と伝え合うだけのやりとりになってしまう場面や、挨拶や言葉づかい、ふるまいなどが形ばかりになっている場面が、児童の日常生活の中でしばしば見受けられます。
この教材は、きょう子さんから傘を借りた三人が、傘を返しにやってくるお話です。三人の傘の返し方には、それぞれの「真心」が込められており、きょう子さんは返された傘を見て、すがすがしい気持ちになります。
返された傘にどんな思いが込められているのか、児童と考え議論し、真心の伝わるふるまいについて考えを深めることができるのではないかと感じます。
展開の概略
1) 「気持ちのよいふるまい」について考える
友達に借りたものを返すときに真心を込めたときとそうでないときのやりとりを、教師(借りた人)と児童(貸した人)で役割演技をして見せ、「気持ちのよいふるまいとはどんなことか」を考えさせます。
そして、「気持ちのよいふるまいには何が大切なのか」という問いを児童にもたせます。
2) 三人の「気持ちのよいふるまい」を見付け、三人に共通するよさが何か話し合う
①三人の傘の返し方の違いを確認し、全体での話合いを通して、返し方にそれぞれの思いやりがあることに気付かせます。
その時に「どの返し方がよいか」といった方向ではなく、「どんな思いが込められているか」に視点を向けさせて話し合うように留意します。
②傘を受け取ったときのきょう子さんの気持ちをグループで話し合いながら、どの返し方をされたときも、うれしかったことを捉えさせます。
③三人に共通するよさが何かを考え議論することを通して、三人とも相手のことを考えていることに気付かせます。また、人によってその表し方は違うことにも気付かせましょう。
3)「気持ちのよいふるまいには何が大切なのか」という問いに対して、自分なりの考えをまとめ、ワークシートに記入する
本時を通して、「気持ちのよいふるまい」について自分なりに考えたことを、ワークシートにまとめ、今後の生活にどうつなげるかを考えさせます。
▼ワークシート
終末、ワークシートを書き終えた後に、児童の日常風景の写真を提示する
写真の場面は、朝の登校時に見守ってくださる保護者や、地域の人と児童が挨拶を交わしているところや、社会科見学などでインタビューをしているところ、友達と関わっているところなど、具体的にイメージできるものを用意すします。
そうすることで、真心のこもったふるまいができているかどうかふり返らせる機会とし、今後のふるまい方について考えさせ、実践への意欲をもてるようにします。
▼行為の意味 宮沢章二
終末の教師の説話で提示します。深く解説はせず、静かに味わわせて「真心」が伝わるように行動する意義を感じさせましょう。
実際の授業展開
タイトル
三本のかさ
指導目標
礼儀の大切さを知り、誰に対しても真心をもって接していこうとする態度を育てる。
内容項目
B 礼儀
準備するもの
・ワークシート(児童配付用)
・学校行事や社会科見学、登下校の写真など(児童が実際に人と関わっている写真)
・宮澤章二「行為の意味」
指導の概略(板書計画例)
導入
①「気持ちのよいふるまい」とはどんなことでしょう。
- 役割演技を通して気持ちのよいふるまいについて簡単に話し合い、何が大切なのかという問いを投げかける。
展開1
②三人はどのようにかさを返しましたか。
- かさの返し方とともに、なぜそうしたのか、理由も考えさせる。
展開2
③きょう子さんは、どうしてすがすがしく感じたのでしょうか。
- グループでの話合いを通して、きょう子さんのすがすがしく感じた気持ちに共感させる。
- きょう子さんのすがすがしく感じた理由も話し合わせる。
展開3
④三人のふるまいに共通するよさは何でしょうか。
- 三人ともきょう子さんのことを思いやっていることを押さえる。
- 真心の表し方は人それぞれ違ってもよいことも押さえる。
終末
⑤「気持ちのよいふるまい」には何が大切なのか、ワークシートに書きましょう。
- 「相手のことを親身に思いやる心」というような意見が出た場合、真心という言葉に触れるのもよい。
- 本時を通し、はじめの問いについて自分なりに考えたことを書かせ、発表させる。
⑥みなさんの普段の様子を思い出してみましょう。
- 日常の風景を具体的に提示することで、児童一人ひとりが、真心のこもったふるまいができているかどうかふり返らせる機会とし、実践への意欲をもてるようにする。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
導入の工夫
教師が物を借りた役、児童が貸した役を担い、
- 「ありがとう」と相手の顔を見ずに小さい声で伝える
- 「ありがとう」と無表情で伝える
- 相手の目を見て表情を付け、「ありがとう」と伝える
など、簡単な役割演技を通して児童にどう感じたかを考えさせます。そうすることで、本時の問題を自分のこととして捉えられるようにします。さらに、終末でもう一度この役割演技に戻り、自分ならどのように返すかを表現させることも考えられます。
話合いの工夫
①展開1では、三人それぞれの傘の返し方を確認し、そのふるまいの理由を話し合うことで、真心の表し方にはさまざまな形があることを理解させることができます。
②本時の中心的発問は、問いに迫る展開3であると考えます。この問いで児童の考えを深めるためには、その前の展開2の発問で、きょう子さんが三人のかさの返し方を「すがすがしく感じた」理由について十分に感じておくことが重要になります。
ここでは、三~四人程度のグループで、児童一人ひとりが、傘を受け取ったときのきょう子さんの気持ちについて考えをもち、意見を交流できるよう、十分に時間を取ります。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
板書の工夫
板書では、児童が思考を深める手がかりとなるように工夫します。本時では、友達三人それぞれの返し方とその思いを黒板の右側に、きょう子さんの感じたこととその理由を左側に配置しました。
展開2で双方を矢印でつなぎ、三人の思いがきょう子さんに伝わったことを示し、三人の思いは、なぜきょう子さんに伝わったのかと考えるきっかけにします。
展開3の中心的発問の際には、「相手のことを思いやって行動することが大切」と児童の言葉を生かしながら板書します。
そして、その行為は「真心」であるということも、視覚的に確認できるようにすることで、気持ちのよいふるまいには、相手を思いやる真心が大切であると、児童が思考を深められるようにします。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
学校で行う道徳教育では養おうとする道徳性を、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度で捉えることとしています。この中でも道徳的態度という言葉には、何か行為そのものの仕方を身に付けるようなイメージがありますが、行為ではなく心をしっかりと考えていくことが道徳科の授業の特質です。
そのうえで、道徳的態度を育てることをねらいとして授業を行うために、山口先生はまず、三者三様の傘の返し方のふるまいに注目させ、それぞれのふるまいに込められている思いやよさを感じ取らせています。
そして、相手を思う気持ちの大切さを押さえながらも、それが行為としてどのように表現されるのかを役割演技や動作化などを活用して捉えやすくすることは有効な手段の一つと言えます。
また、終末で「行為の意味」を紹介したことも、子供たちが道徳的心情にとどまらずに、道徳的態度にまで意識できた指導の工夫と言えるでしょう。
『教育技術 小三小四』2020年6月号より