小学校「教科担任制」のあり方──令和の日本型教育とは何か
授業の質の向上、学校の教育活動の充実や教師の負担軽減、複数教師による多面的な児童理解、小学校から中学校への円滑な接続を図ることなどをめざして、小学校高学年からの教科担任制導入が検討されています。教育現場はこれにどう対応していけばよいでしょうか。
目次
令和の日本型学校教育
文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会は、2020年10月、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」と題した中間まとめを公表しました。
この中で管理職が確実に押さえておくべきなのは「令和の日本型教育とは何か」です。これまでの日本型学校教育では「学校が学習指導のみならず、生徒指導の面でも主要な役割を担い、児童生徒の状況を総合的に把握して教師が指導を行うことで、子供たちの知・徳・体を一体で育んできた」のです。その点は高く評価されますが、課題が多かったことも事実です。それに加え、新型コロナウイルス感染症により先行き不透明で予測困難な時代が到来しました。
そこで、これまでの日本型学校教育の良さを受け継ぎながらさらに発展させ、2020年代を通じて「学校における働き方改革」「GIGAスクール構想」「新学習指導要領の全面実施」を推進することで実現を目指す学校教育を「令和の日本型学校教育」と名付けています。
その際に、目指すべき学びの在り方は「すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」です。「個別最適な学びの成果を協働的な学びに生かし、さらにその成果を個別最適な学びに還元するなど、個別最適な学びと協働的な学びの往還を実現することが必要である」としています。
続く各論では、項目ごとに、何をする必要があるのかが示されています。その中からポイントを紹介します。
要チェックの5つの項目
9年間を見通した新時代の義務教育の在り方について
小学校高学年への教科担任制を、2022年度を目途に導入し、義務教育9年間を見通した指導体制の構築、教科指導の専門性を持った教員によるきめ細かな指導の充実、教員の負担軽減などを図ります。対象教科は、外国語、理科、算数が例示されています。
これまでの教科担任制との違いとして意識する必要があるのは、義務教育9年間を見通すことです。学習内容においては系統的な指導により中学校への円滑な接続を図り、中学校の教員が小学校で教えるなど、小中学校の連携促進が一層求められます。それに伴い、小学校と中学校の両方の免許取得を促進するなど、今後は教員の養成課程も変わると思われます。
増加する外国人児童生徒等への教育の在り方について
外国人の子どもたちは、共生社会の一員として今後の日本を形成する存在であることを前提に、学校での日本語の指導体制の充実や、異文化理解や多文化共生の考えが根付くような取り組みを促進します。
遠隔・オンライン教育を含むICTを活用した学びの在り方について
これからの学校教育を支える基盤的なツールとして、ICTはもはや必要不可欠なものであることを前提とします。そのうえで、発達段階に応じてICTを活用しつつ、教員が対面指導と、家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで、個別最適な学びと協働的な学びを展開することが求められます。
具体的には、学習履歴(スタディ・ログ)などの教育データを活用した個別最適な学びの充実、全国学力・学習状況調査のCBT化(Computer Based Testing)、教員の対面指導と遠隔授業等を融合した授業づくり、デジタル教科書・教材の普及促進などが挙げられています。
新時代の学びを支える環境整備について
個別最適な学びと協働的な学びを実現し、教育の質の向上を図るとともに、新たな感染症や災害の発生等の緊急時にあってもすべての子どもたちの学びを保障するため、「GIGAスクール構想」の実現を前提とした教室環境と指導体制の整備が求められています。
教室環境の整備の例として、「1人1台端末」、遠隔・オンライン教育に適合した教室環境や教員のICT環境の整備、「新しい生活様式」も踏まえ健やかに学習できる衛生環境の整備やバリアフリー化が挙げられています。
指導体制の整備の例としては、「1人1台端末」の活用等による児童生徒の特性・学習定着度等に応じたきめ細かな指導の充実や、「新しい生活様式」を踏まえた身体的距離の確保に向け、少人数によるきめ細かな指導体制、小学校高学年からの教科担任制などがあります。
人口動態等を踏まえた学校運営や学校施設の在り方について
少子高齢化や人口減少等が進む中で、持続的で魅力ある学校教育が実施できるよう、少人数を活かしたきめ細かな指導の充実やICTを活用した遠隔合同授業等により小規模校のメリットの最大化とデメリットの最小化が求められます。
(3)義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方
出典:文部科学省・中央教育審議会初等中等教育分科会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(中間まとめ)」の一部を紹介。
①小学校高学年からの教科担任制の導入
●導入に当たっては、地域の実情に応じて多様な実践が行われている現状も考慮しつつ、専科指導の対象とすべき教科や学校規模(学級数)・地理的条件に着目した教育環境の違いを踏まえ、義務教育9年間を見通した効果的な指導体制の在り方を検討する必要がある。また、義務教育学校化や広域・複数校による小中一貫教育の導入を含めた小中学校の連携を促進する必要がある。
●専科指導の対象とすべき教科については、系統的な学びの重要性、教科指導の専門性といった観点から検討する必要があるが、グローバル化の進展やSTEAM教育の充実・強化に向けた社会的要請の高まりを踏まえれば、例えば、外国語・理科・算数を対象とすることが考えられる。当該教科の専科指導の専門性の担保方策や専門性を有する人材確保方策と併せ、教科担任制の導入に必要な教員定数の確保に向けた検討の具体化を図る必要がある。
この中間まとめの中で、目玉の一つとされているのは、小学校高学年への教科担任制の導入です。『総合教育技術』2021年1月号の【特集2】では、教科担任制に対して現役教員から上がった疑問の声を紹介しています。そして先進事例として、2019年度から市独自の一部教科担任制を導入した北九州市、教科担任制に小規模校の学校間連携を組み合わせた兵庫県香美町の取り組みを紹介。冒頭の教員の疑問に対し、各自治体・学校がどのように対応しているのかを読み取っていただければと思います。
構成・文/林孝美
『総合教育技術』2021年1月号より