小4道徳「どう減らす? 食品ロス」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
教材を提示
教材1 恵方巻
2月の節分で、恵方巻を食べる風習が広まっています。これは、その年の恵方を向いて巻き寿司を食べると福がやってくるという言い伝えからきています。
恵方というのは、その年の福を司る
この恵方巻ですが、2019年2月には、いつもと違う意味で注目されました。節分を過ぎると大量に捨てられていることが分かり、大きな問題になったのです。食べ残した食事や売れ残った食品を無駄に捨ててしまうことを、「食品ロス」と呼びます。
農林水産省は2019年1月に、捨てられる恵方巻を減らそうと関係団体に呼びかけました。これを受け、スーパーなどは、予約した人だけへの販売を行ったり、作る量を調整したりして、食品ロスを減らす努力をしました。
教材2 食品ロスの実際(統計)
農林水産省などの推計によると、2016年度の食品ロスは、計約640万トンでした。これは、日本の全国民が毎日茶碗1杯のご飯を捨てている計算になります。
食品会社や飲食店などからは約280万トン、コンビニやスーパーなどからは約70万トン、家庭からは約290万トンです。実は、家庭からの食品ロスが一番多く、全体の約45%を占めているのです。
▼国内の食品ロス推計量(2016年度)
教材3 大手コンビニ3社の取り組み
大手コンビニ3社は、食品ロス削減に向けて、本格的に動き出しました。これまでコンビニは、定価販売が特徴で、消費期限が近づいた商品は捨てるなどしてきました。売れ残った商品の処理費用も店舗の大きな負担になっていました。
このため、セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマートの大手コンビニ3社は、それぞれ次のような取り組みを始めました。
▼大手コンビニ3社の食品ロス対策
教材4 食品ロス削減推進法
2019年5月31日には、食品ロスの減少をめざす「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称・食品ロス削減推進法)が公布され、次のような内容が示されています。
▼食品ロス削減推進法の内容
■「食品ロスの削減」とは
まだ食べることができる食品が廃棄されないようにするための社会的な取り組み。
■事業者(会社)の責務
食品ロスの削減について、積極的に取り組むこと。
■消費者の役割
食品の買い方や調理のしかたを見直し、食品ロスの削減に自主的に取り組むこと
■国や地方公共団体の責務
会社や家庭で余った食品を集めて必要な人に提供する「フードバンク」活動の支援を行うこと。
実際の授業展開
タイトル
どう減らす? 食品ロス
指導目標
食品ロスの現状を知り、削減する方策を考えることで、節度を守り節制を心がける態度を育てる。
内容項目
A 節度、節制
準備するもの
・恵方巻と、それを食べている家族の写真やイラスト
・国内の食品ロス推計量の円グラフ
指導の概略(板書計画例)
導入
①これはなんでしょうか。
- 豆など、節分のヒントになる画像が入っている写真がよい。【恵方巻】と板書した後、「恵方」(福の神の方角)について説明する。
②どうして黙って食べるのか、知っていますか。
- 恵方巻を食べた経験を発表させ、恵方を向いて黙って巻き寿司を食べると幸運がやってくるという言い伝えがあることを知らせる。
展開1
③恵方巻は、あることで注目され問題になっています。どんなことでしょうか。
- 子供の発表後、『教材1』を読み聞かせる。
④まだ食べられる食品を捨ててしまうことをなんと言いますか。
- 「食品ロス」という言葉を確認し、板書する。
- 『教材2』を読み聞かせ、2016年度のデータ(円グラフ)を提示して問う。
⑤食品ロスの現状を知って、どんなことを感じましたか。
展開2
⑥コンビニの取り組みで、効果的だと思う内容を話し合おう。
- 3社に優劣をつけるのではなく、効果的な面について注目させる。
終末
- 『教材4(法の成立)』の内容を伝える。「消費者の役割」を取り上げて、次のように問う。
⑦家庭での食品ロスの減らし方を考えましょう。
- 自分にできる削減方法を考え、意見交流を行う。実践化へと向かう意欲を高める。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
授業は、恵方巻の写真(またはイラスト)の提示から始めます。節分はこの時期とずれた行事ですが、今年1年間のニュースを題材にして学習することを告げて、子供たちの意欲を引き出しましょう。
『教材1』を使って、恵方巻を食べる風習が広まった理由と、恵方巻の食べ残しが問題視され、食品ロスへの関心がさらに高まってきた現状を伝えます。
次に、食品ロスが一番多いのはどこなのかを考えます。
①スーパーやコンビニ
②レストランなどの外食
③家庭
この3つから1つを選び、そう考えた理由を話し合うのもよいでしょう。その後、『教材2』の円グラフを示し、自分たちの家庭からの食品ロスが一番多いことを視覚的に示します。
食品ロスを削減するために、大手コンビニ3社ではそれぞれの取り組みを始めました。国では法整備を進め、消費者の役割について明示しました。食品ロスは、大きな社会問題になっています。
同時に、私たちが家庭の場で具体的に取り組むことができる身近な問題でもあることに気付かせ、自分にできる削減方法について実感を伴って考えさせることが大切です。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
【展開2】では、大手コンビニ3社の取り組みについて話し合います。その際、どのコンビニのやり方が一番よいかという「優劣をつける」ような話合いにならないように気を付けます。
それぞれの効果的な面に注目し、コンビニやスーパーでも食品ロスの削減のために努力をしていることに共感させます。
道徳授業でノンフィクション(実話)教材を使用する場合は、先方の不利益になったり、失礼な扱いになったりしないようにしなければなりません。「その事実から謙虚に学ぶ」という姿勢が、教師にも子供にも必要です。
12月の実施を想定していますので、この時期であれば豪華なクリスマス料理やおせち料理の予約のチラシなどをいっしょに活用することも効果的です。または、2月の時期までこの教材を「熟成」させておき、節分に合わせて授業を行うこともできます。
この授業では、食品ロス削減のために自分ができることに実際に取り組むことを行動目標にします。授業の内容を学級だよりなどで家庭に伝え、どんな取り組みができるのか保護者を巻き込んで考えてみましょう。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「板書や教具による見える化」
「可視化」とも「見える化」とも言われるように、見えないものを見えるようにすることは、どの教科の指導においても大切なことであり、子供の理解を確かなものにしていきます。
例えば、算数では量を数字で表し、量が増えたり減ったりする様子を式やグラフで表します。色も形もない気体や液体を文字で「空気」や「空」、「水」や「海」と表したり、絵の具で「水色」や「橙色」で塗ったりもします。
道徳科で扱う人の心、道徳性も色や形はありません。だからこそ、さまざまな人の心を「見える化」することが、自己の生き方についての考えを深めていくためには大切です。そこで、教師には板書の工夫が求められます。
気持ちや考えを言葉で表記したり、色で表したり、つながりを図や矢印で示したりするなどが考えられます。また、一人の子供の考えは全体のどこに位置付くのか、自分の考えと友達の考えはどのようなところが同じなのか、違うのか、どのくらい違うのかなど、思考ツールなどを上手に利用することも工夫の一つです。
このような板書の工夫があれば、それを見た子供は自分の考えを確かめ、ほかの考えと比較し、自分の考えをより確かなものにして自己の生き方に生かしていくことでしょう。ぜひ、いろいろな板書の工夫を試してみてください。
イラスト/うえだ未知
『教育技術 小三小四』2019年12月号より