小3道徳「目をさますたね」指導アイデア
執筆/大分県公立小学校教諭・田辺裕純
監修/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
授業の設計図
新聞の報道で、コンビニの看板にツバメが巣を作り、無事に巣立っていったというほほえましい記事がありました。お馴染みの「LAWSON」の看板の故障した「L」の照明にツバメが巣を作ったというのです。店のオーナーは、「L」の修理を見送り、来年以降もまた巣作りに帰ってくるのを待っていると言います。
一方、教科書には「目をさますたね」(光文書院)が掲載されています。2000年もの間、眠り続けたハスの種が見事に芽を出し、花を咲かせたという題材です。調べて分かったことですが、この「大賀ハス」は、今では日本国内にとどまらず、世界に根分けされて、今も見事な花を咲かせているということです。
今回の授業では、ツバメと「大賀ハス」の二つの題材を扱います。複数の素材を扱うことで、自然の不思議さ、生き物の健気さがより心にしみると考えたからです。
そこから見える生き物に対する考えを教室内で対話しながら、自然愛護の心情を高める授業プランを立ててみました。
展開の概略
1.新聞記事「看板消灯ツバメのため」で考える
① 「LAWSON」の「L」の照明が切れていることに気付かせる。
② なぜ店のオーナーは切れた照明の修理をしないのか考えさせる。
2.教科書教材「目をさますたね」で考える
③ ハスの写真を提示し、「□年ねむり続けたタネ」と提示し、どのくらい眠り続けたか考えさせる。
④ 植物の種が発芽する条件と眠り続ける寿命を紹介し、二千年の眠りから覚め、芽が出たことがどんなにすごいかを感じ取らせる。
3.自然に対する考えを深める
⑤ 1のツバメと2の「大賀ハス」から、生き物の不思議さや健気さについて考えを出し合う。
ツバメの話題では、店の看板の照明をあえて点けないというところが、考えるポイントになります。お店にとって看板は大切な“顔”です。それなのにツバメを守るのはなぜか、しっかり考えを深めます。
「大賀ハス」は、二千年眠り続けるということがどんなにすごいことか、野菜の種でもせいぜい6年間くらいしか生きられないことから、子供たちに実感をもたせます。
実際の授業展開
タイトル
しぜんのふしぎ ~「目をさますたね」(光文書院)を活用 ~
指導目標
自然に生きる生き物の不思議さや健気さを感じ取り、自然をむやみに壊さず大切にしていこうとする心情を育てる。
内容項目
D 自然愛護
準備するもの
・教科書教材「目をさますたね」、またはそれに準ずる自然愛護の教材
・自作資料及びワークシート(児童配付用)
指導の概略(板書計画例)
導入
① 写真を見て気付いたこと、思ったことはなんですか。
- 「L」の照明が消えているところに注目させたい。後で、拡大写真を並べて掲示する。
展開1
② どうして店の看板を修理しないのでしょう。
- 「店の売り上げを上げるには、看板は修理したほうがよいのではないですか」と、逆説的に問う。
展開2
③ 2000年ぶりに芽を出すのが、どうしてすごいのでしょう。
- 種から芽が出る条件と生きられる寿命を示す。どんなにすごいことか共感させたい。
展開3
④ なぜこんなに生き物を大切にするのでしょう。
- 二つの事例から、共通していることについて考えを出し合う。
⑤ このような生き物に対してどう思いますか。
- 生き物を大切にするとはどういうことか、子供なりの考えを出し合わせ、板書していく。
展開4
⑥ 私たちの周りの自然で触れ合ったことは、どんなことですか。
- これまでの失敗したことや感動したことなど、生き物をめぐって経験したことを出し合う。
終末
⑦ これから生き物に対してどう接していきたいですか。
- 自分の考えをノートまたはワークシートにまとめる。感想を出し合って板書していってもよい。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
教科書には必ず自然愛護をねらいとした教材がありますが、この授業では、その内容とツバメの巣の記事とを並列して考えるようにしました。なぜなら、教科書で考えさせたいことがより強化されると考えたからです。
ところで、教科書教材は読んでしまえば「これは自然を大切にしようということを考えさせる教材だ」ということは子供でも気が付くはずです。つまり、「自然は大切にするものだ」という価値観に対し思考が止まってしまうということです。
ここで大切なことは、自然を大切に思う心です。ツバメの記事では、
・店は、業務に影響が出てまでも看板の修理をしない
・多くのお客さんからも「かわいい」と評判になる
・「やさしく見守ってほしい」と店のオーナー
それらの内容を写真を見せながら、自然を大切にするとはどういうことか、教室のなかでしっかり探っていってほしいものです。そうすると、教科書で扱われた教材にも考えさせたいポイントが同様に浮かび上がってくるのではないでしょうか。
本教材「大賀ハス」では、2000年間生き続けることがいかに難しいかをしっかり子供に理解させることです。そうすると、二つの資料から、「自然ってすごいな」「大切にしないとすぐ死んでしまう」といった声や感情が、子供たちの間から湧いてくることでしょう。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
一方、二つの資料を扱うのですから、子供が教材の内容を理解するためには、工夫も必要です。あらかじめ挿絵を準備してあらすじをつかませたり、教科書教材を前もって読ませておいたりすることも考えられます。教科書教材の内容や量を考えて扱ってください。
また、新聞記事についても同様です。写真を順番に提示して、
気が付くことは何か → どうして「L」だけ消えているのか → ツバメの巣をなぜ壊さないのか
子供たちに順番に考えさせながら進めていくと、しっかり理解できるはずです。
最後は、ぜひ身の回りの自然にも着目させてください。生き物を育てた経験を出し合って、すぐ壊れてしまいそうなものでも「大切な命が宿っている」ということを子供たちと話し合っていくと、より授業に深みが出ます。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「書く活動の効果」
道徳科の授業では、子供が手を挙げて発表するだけでなく、書く活動も取り入れられています。教科書が使用されるようになると、その教科書に付いているノートを活用したり、学校オリジナルの道徳ノートやワークシートを作成して使用したりしている様子も見られます。
道徳科の授業で書くという活動にどのような利点があるのでしょうか。それを考えないままにただ取り入れるのでは、決して効果的であるとは言えません。利点として考えられることでは、まず、手を挙げて発表するのが苦手な子供にとっては、書くことで自分の考えを表現できるようになります。
また、書くという活動は、学級の子供全員に表現する機会が与えられるので、自分の考えをもつきっかけを与えることにもつながります。さらに、書くということは、自分の考えを整理することにもなり、文字にした瞬間に、自分の考えを客観的に見ることにもなります。
大切なのは、授業のどのような場面で書くことが有効なのかを教師がしっかりと考えることです。ただ、書く活動を適度に取り入れるということではありません。
例えば、この授業では、最初の場面と最後の場面での気持ちや考えを書いて比べてみよう。あるいは、本時の学習課題(めあて)について気付いたことや考えたことを書いて、じっくり考えることができるようにしてみようなど、教師の意図がなくてはなりません。
今、道徳科の評価が注目されていますが、指導の工夫よりも書くことを通して見とる評価が先行してしまうと、書く活動が多様化され、評価のための形骸化された授業になっていく心配があります。書く活動はじっくり考えられる有効な指導方法の一つであるからこそ、どの場面で取り入れるかをよく考えて工夫していくことが大切です。
『教育技術 小三小四』2019年11月号より