管理職に気づいてほしい 現場教師のストレスと不調

休校前とは様変わりした学校で、管理職は教員のメンタルヘルスに対してどんな予防策や対応をする必要があるでしょうか。この分野の専門家である兵庫教育大学大学院の藤原忠雄教授に聞きました。

藤原忠雄(ふじわら・ただお) 1958年岡山県生まれ。公立高等学校教諭、教育センター指導主事等を経て2012年4月より現職。専門は学校教育相談、学校心理学。日本ストレスマネジメント学会理事、日本学校メンタルヘルス学会理事。著書に『学校で使える5つのリラクセーション技法』(ほんの森出版、2006年)がある。

ストレス早期発見のポイント

今は誰もが自分自身や家族が感染するのではないか、もしも感染したらどうなってしまうのか、という不安や恐れを抱き、ストレスを感じて生活しています。それに加え、教員の場合は小学校では学級担任として、中学・高校では教科担任として子どもと接していく中で、もしも子どもや、子どもたちの家族が感染したとき、教員としてどう対処したらいいだろうか、という悩みもあると思います。

さらに、子どもたちへの心配も尽きません。休校期間中、ずっと家に閉じこもっていましたから、インターネット依存、睡眠不調・昼夜逆転、抑うつ、登校しぶり・不登校などの子どもが増えるかもしれません。自粛中にストレスを抱えたせいで、学校で些細なことが原因でケンカになるなどの様々なトラブルが増える可能性もあります。家族から虐待を受けた子ども、目の前でDVを見た子どももいると思われます。

このように、以前からあった学校の様々な問題が、より深刻化・表面化する可能性があります。そのため、学習指導、生徒指導、学級経営に不安を感じている教員は多いと思います。

こうした状況の中で、教員がストレスをため、状況が深刻になってくると、様々な変化が表出してきます。精神的な不調を抱える教員を早期発見するために、気づいてほしいチェックポイントをご紹介します。

メンタル不調を早期発見するチェックポイント

  1. ストレスがたまってくると情緒的に不安定になります。例えば、以前に比べてイライラしている、怒りやすくなっている、落ち着きがない、過敏になっている、落ち込んでいる、などです。
  2. 精神的に健康かどうかは、「注意の向け方」にも表れます。精神的に健康であれば、柔軟にいろいろなことに注意が向けられるのですが、不健康な状況に陥ると一つのことに集中しすぎてしまうなど、注意の向け方に偏りが生じたりします。極端な例としては、学習支援の準備ばかりに教員の気持ちが向いていて、子どもたちから発信されている様々なサインに気づけない、気づこうとしない、ということもあります。
  3. 「寝られない」など睡眠不調に陥っている人も要注意です。寝つきが悪い、すぐ目が覚める、一度目が覚めたらなかなか寝つけない、寝た気がしない、などです。
  4. ストレスが食べることに表れる人もいます。急に食欲がなくなる、逆に、暴飲暴食になることもあります。
  5. 教職は活発な行動を伴うものですが、活動が著しく低下し、体を動かすことに負担を感じている場合です。

これらの点に管理職は注意を払ってほしいのですが、ときには気づけない場合もあるでしょう。その対策として、教職員に「同僚として気になる人がいたら教えてください」と依頼し、情報収集のためのアンテナを立てておくといいと思います。

管理職はラインケアを

メンタル不調に陥っている教員の存在に気づいたら、管理職はラインケアを積極的に行うことが必要です。学校では上司と部下という意識が希薄なため、今までは管理職があまりラインケアを意識していなかったと思うのです。今こそ企業のように、上司が部下に対して精神的な面も含め、様々な面で支援していくという体制に変えていくいい機会だと思います。

以前の学校は鍋蓋構造でしたが、現在は校長→副校長や教頭→主幹教諭や主任教諭→一般の教員というラインができています。校長はこのラインを単に業務上の報告・連絡・相談で機能させるのではなく、ラインケアとしても機能するように体制整備を行うことが重要です。例えば、学年主任には、当該学年の教員に対するケアも主任の役割として意識してもらうのです。

下の資料をご覧ください。これは小学校・中学校の校長・教頭に対して一般の教員がどのようなケアを求めているのかについて調査を行い、そのエッセンスをまとめたものです。

一般の教員は、次のような4つの支援を求めています。特に、家族に子どもや高齢者がいる場合、家族が感染するのではないかという不安を常に抱えながら過ごしている教員もいることでしょう。私的援助として、そのような家庭の状況を理解し、助言や労いの言葉をかけてやってほしいと思います。教員のほうから、悩みや不安は言いだしにくいものです。管理職やミドルリーダーのほうから声をかけ、教員の私的な部分にも気遣う姿勢を示していくことが必要でしょう。

ラインケア
出典:日本ストレスマネジメント学会第8回大会プログラム・抄録集 pp.59-60
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レジリエンスを高めるために

続いて、教員がメンタル不調になるのを防ぐために、学校は何をすればいいのかをご紹介します。

最近、レジリエンスという言葉がよく使われるようになりました。ストレスという文脈でのレジリエンスは、ストレス状態からのしなやかな立ち直りを意味するのですが、今回は、レジリエンスを「新型コロナウイルスの感染拡大というストレスフルな状況に対して、有効に対処できる能力」と捉えて話をしていきます。

レジリエンスを構成する要素は3つあります。I haveI am I can です。

I have は周囲から提供される要因であり、援助資源の保有です。同僚からのサポート、管理職からのラインケアなどは I have という範疇に入ります。

I am は個人内要因であり、自助資源の保有です。自分はこれでいいんだという感覚、自分は受け入れられているという感覚、自分はここに存在していいんだという感覚、自分にはこういうことができるという確信など、自尊感情、自己肯定感、自己効力感などがこれに該当します。

I can は、獲得要因といわれるものであり、まさに対処能力です。例えば、不安なときはこういう呼吸法を行えば対処できるなど、問題を解決できる能力や社会的なスキルなどです。

つまり、レジリエンスを高めるには、これらの3つの側面を高めればいいということです。何か困ったことがあるときに、サポートを受けられるという安心感がもてること(I have)、そういう自分に対して肯定感をもてること(I am)、そして、自分で対処できる能力(I can)が備わっていることが重要なのです。

学校では、I have は、管理職は私を支えてくれるだろう、同僚は私を助けてくれるだろうと思えることが重要です。I am は、あなたはこれができている、あなたは児童生徒から本当に信頼されているなど、教員の自尊感情が高まるような管理職からの言葉がけが重要です。I can は実際の能力ですから、ストレスマネジメントに関する研修を行うなどして、実際にリラックス上手になるための方法を学び、ストレスに対して対処(コーピング)する力を広げることが重要です。

レジリエンスと同僚性

近年は様々な心理学用語が乱用されていますが、それぞれ独立しているわけではなく、重なり合っている部分が多々あります。

レジリエンスの I have には、同僚に支えてもらう、助けてもらうという側面もあります。つまり、レジリエンスを高めることの一側面が、同僚性を高めることとほぼ重なっていると考えられます。ですから、横の支援として同僚からのサポートも当然、重要です。これからは個人で問題を抱えて苦労する時代ではありません。チーム学校として様々な課題を解決していくためにも、同僚性を高めることは必要不可欠だと言えるでしょう。

例えば、中国には年1回、教師に感謝する「教師の日」があります。この日、学校では子どもたちや保護者が感謝の思いを込めて花束やプレゼントを渡し、午後になると教員たちが集会を行って、お互いを認め合い讃え合うそうです。

日本の学校では、学期や行事ごとに教員による反省会や振り返りのようなものがよく行われます。それぞれの課題を整理しておくことは重要ですが、それに加えてお互いの頑張りを認め合い、評価し合い、讃え合うような場としていくことも必要ではないでしょうか。

これからは職員旅行も学期ごとの飲み会もこれまで以上に実施が難しくなりますから、社会的距離を保ちながらできる校内レクリエーションを行うなど、職員室の人間関係を促進できる別の方法を考えていく必要があります。

それから、職員室を愚痴があれば聞いてもらえて、弱みを見せても受け入れられるような受容的な雰囲気にすることも重要です。愚痴を言うことはネガティブなことと受け止められがちですが、お互いに愚痴を言い合える、自分の弱みを見せ合える関係こそ、一番安心できるのです。

ただし、愚痴をみんなが吐きだすだけでは建設的ではありません。愚痴をため込んでいた人は吐きだして気持ちが楽になり、話を聞いた人は「そうか、そんな思いをもっていたのか。気づかなくて申し訳なかったね」というような展開とともに、「では、もうひと頑張りしましょう」という前向きな方向付けができることも重要です。

※日本ストレスマネジメント学会のWebサイト https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2020年7/8月号より

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